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二十四 全国レベル

 ギリギリ冬休みに食い込んでまさに初日の朝。

 俺たちは徳島を目指し、今まさに空港に来ている。


「いや、ありがとな。

 まさかこんなチャンスを持ってきてくれるとは」


 久しぶりの旅行らしくて、明らかに浮かれている俺たちの部長。

 俺も楽しみな気持ちが再燃してきてリュックに入れてあるチケットを何度も確認して安心感を高めておく。

 ……俺も新町さんには感謝しなくてはいけない。


「……でも、借りっぱなしは駄目だからな。

 ちゃんと、新町さんに会ったらちゃんと飛行機の料金分は本人に返すこと」

「はい、それはそのつもりだったので……」


 正直、俺たちにわざわざ飛行機をとってまで見て欲しいステージというのは期待もあるが。

 それにしたって、五枚で十万円は余裕でかかる代物だ。

 ……ちなみに、部活遠征という名義のため六倉先生もついてくることになっていた。

 先生は、自身でチケットを取ったらしい。

 さて、残りのチケットを埋めるようにようやく遠征に行く全メンバーが揃ったようだ。


「……お待たせ」


 まずは勿論成島さん、それから純に拓馬。

 いわゆるいつものメンバーと言った感じだ。

 一応、自由参加ということで募ってみたのだが結果的に丁度、チケットの枚数ピッタリ分の部員が集まった。

 ……最終的に自己負担だから、変わんないけど。


「よし、それじゃ行くぞ……」


 早朝の空港、一応でかい声を出しすぎないように配慮した部長からの出発宣言に全員が頷く。

 数時間はかかる長旅、しかし期待で頭を一杯にしてみれば、案外その時間はすぐに過ぎ去ってくれたみたいだ。


「……ここが徳島……!」


 来たる徳島阿波踊り空港、色々とやるべき手順を済ませようやく対面した街並み。

 勿論、自分たちにとって馴染みのないその風景へ新鮮みを感じたりもするが、やっぱり一番に思うのは……。


「めちゃくちゃ、あったかいな」


 そう、ここ徳島……というより四国は日本では南に区分分けされる場所だ。

 一番北に位置する北海道民からすれば、暖かいと感じてしまっても何ら違和感はないだろう。


「なあ、ちょっとくらい観光しても良いんじゃないか?」

「うん、ここが徳島……高校演劇の聖地……」


 皆もやはり浮かれているようだが、その中でも特にテンションが上がっている拓馬と成島さん。

 その二人の頭をガッチリと掴む六倉先生。


「……お前ら、何のために朝早くから集まったと思ってるんだ。ほら、観光は後でいくらでもできるだろ」


 先生がレンタルしてくれた大きいワゴン車に荷物を詰め込み、早速一番の目的の場所を目指す。

 やっぱり、勿論俺にとっては今から行く高校演劇が楽しみで仕方がないけど、それでも徳島の街並みにちょっともワクワクが湧かないなんてはずもなくて。

 流れる景色をずっと眺めてしまっている。


「石金くん、前言ったこと……覚えてる?」


 俺の隣に座っているのは、成島さんだった。

 助手席では部長が楽しそうに六倉先生と雑談を交わし後ろに座っていた二人は朝に弱くて徳島に着いて早々に寝てしまっている。

 ……完璧に、二人ずつの空間が出来上がっているようだ。


「前言ったこと?

 成島さんとは最近よく話してるからな……」

「ほら、前家で一緒に作品とか見た時……私は演劇仲間としてじゃなくて、本気で友達って思ってるってやつ」

「……うん、覚えてる」


 そういえば、あの出来事もずっと前のように感じる。

 あれから演劇本番を迎えて、俺も気づけば演技していて今は当たり前みたいに、演劇部の一員としてこうやって遠征に行ってしまっている。

 ……あの時では、諦めてしまっていたことだった。

 成島さんは、更に言葉を綴る。


「最近、石金くん以外にもそれを思うようになった。

 部長や純くんや拓馬くん……まだまだ分からないこともたくさんあるけど。

 ありのままの自分でいられる場所、作ってくれた」

「……そういえば、そうかもね」

 

 今のは、俺自身に当てた言葉だ。

 最初、成島さんが自分を出せるようになりたい。

 そんな風に言って、関係が始まったわけだが。

 気づけば、俺も素を曝け出して演技をできるところに連れて行ってくれた。


「皆で行こう、この後の旅行とか。

 勿論、演劇もだけど……皆で観光したり遊んだりするのも、凄く楽しみだ」


 成島さんは、俺と距離を詰めてくる。

 ま、まさか……。

 そんな俺の疑念を証明するかのように彼女はぴったりと身体をくっつけてくる。


「ちょ、ちょっと成島さ……」

「私が……安心するから」


 目の前には、相変わらず楽しそうに色んな話をする部長と先生。

 そんな二人にバレないように、影を薄くして車窓の景色をまた眺め始める。


「よーし、到着……ほら起きろ!」


 先生の掛け声で車を出る。

 まさか、この場所でこんな緊張感を味わうことになるとは思ってもいなかった。

 その代わり今はその落差からか、不思議とリラックスしている。


「あ、演劇ブログさん!

 良かった、来てくれたんですね〜」

「新町さんどうも。

 リハーサルとかは大丈夫なんですか?」


 当たり前だが、新町さんもとっくに会場についているようだ。

 こちらに気づいて嬉しそうに駆け寄ってくれる。


「はい、もうすでにリハーサルは終わってちょっとだけ自由時間……みたいな感じなんです。

 私たちの中には、そういう本番前のゆっくりする時間みたいなのを大事にする人もいるので」


 さすが、ブロックまで上がってくるだけある。

 皆、本番のためにやるべきことを欠かさない。


「それじゃ、是非お楽しみに……ということで。

 ある意味じゃ、あなたのために作ったものなので」

「それは……どうも」


 やっぱり、新町さんは非常に読みづらい人だ。

 俺のために……流石に冗談……なんだよな?


「それじゃ……来年楽しみにしてます」


 そう言って、開演前の挨拶を終える。

 一応、俺たちは今年地域で敗退しているのだが。

 何回も念押しして申し訳ないが、本当に新町さんのことはよく分からない。


「よく分からない……そんな表情をしているな」

「部長、すみません。

 俺は割と、意図を汲み取るのが苦手みたいです」

「……それは、演劇以外なら……か?」

「ですね」


 そうだ、どういう意味だろうと彼女はとにかく俺に演劇を見せてくれようとしているのだ。

 とりあえず、四国ブロックの全てを見ないことには何も始まらない。


「はい、それじゃ全員まとまって。

 先生……石金の後についてこいよ〜」


 演劇に関わることは俺に任せた方がいいとの判断らしい。

 それなら来年、一番を目指す仲間たちを後ろに連れて。

 まずは敵情視察へ向かうとしよう。

ここまで見ていただきありがとうございます!

良ければブクマ、評価、感想等よろしくお願いします!

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