二十三 来訪者
「お待たせ、石金くん」
駅のベンチ前、やってきた成島さんはやけに嬉しそうにこちらへ駆け寄ってくる。
俺も、手を振ってとりあえず彼女と会えた安堵感に強張っていた身体が少し解けるのを感じた。
「おはよう成島さん。
いやー、今日は突然のことでごめんね」
「ぜんっぜん良いんだよ。
ほら、私って演劇部の知り合い意外から誘ってもらうこととかないから。
そんなことより、石金くんが始めて頼ってくれた気がして凄く嬉しい」
……ちょっとだけ聞こえた悲しい事実には一旦目を背けつつ電車に乗り込む。
今日、成島さんに付き合ってもらっているのは単に遊びに行きたいという気持ちだけではない。
きっかけは数日前、学校から帰ってきた時のこと。
―
「ん、おお!
今日もブログにコメント残されてる。
……返信返信、と」
俺がやっているブログ、かなり趣味全開な演劇についての語りたい欲を発散するためだけのものだ。
しかし同じ演劇好きたちのお陰で、それなりに見られているしファンと言ってくれる人たちもいる。
勿論、そこにはコメントが残されているなんてこともあるのだが。
少し前にあげた高校演劇の記事、そこには一風変わったコメントが残されていた。
―投稿主さん、こんにちは!
少し前の記事で、北海道の方であると書いてありまし
たよね?
丁度用事で今度、北海道に行くんですが良ければお会
いできたりしませんか?
まあ、正直突然そんなことを言われた時は困惑したものの会って話して見たいという気持ちが大きかった。
実際、すぐにコメント内で約束を取り付け予定を決めたりもしたくらいだ。
しかし、それから少しして不安が押し寄せもした。
一応、前からちょくちょくコメントをしてくれていた人で認知もしていた。
その人と話が合わなかったり、二人で気まずくなってしまったらどうしよう……。
そういうわけで、結果的に成島さんを誘うことにしたわけだ。
三人いれば、それなりに話も分散するし演劇で分からない部分をカバーできる可能性があるとするなら彼女くらいだと思う。
成島さんの人見知りも、演劇が関わればすぐにしなくなることも実証済みだ。
降り立った場所は札幌、北海道で旅行するならとりあえず候補に上がる場所の一つではないだろうか。
待ち合わせで指定されたのも、実際ここだった。
「じゃあ、ちょっと連絡してみるね」
普段は演劇に関するものを見るためだけに使っているSNSで何とかメッセージを送る。
とりあえず到着していたらしい、これから駅に向かうと返事が来た。
相変わらず人が多い場所だ、出会えるか一抹の不安に駆られる。
これが東京なら数倍はいるのだから都会の人は本当に凄すぎると、つい関心すら覚えてしまった。
「あの、もしかして演劇ブログさんですか?
お連れさんがいると聞いていたので、もしかして……」
お、どうやら近くにいたらしい。
その姿を見て驚く、女性……それに多分女子高生。
ふわりとした今風のファッションに、キリッとした格好良さを感じるその風貌。
……成島さん連れてきて良かったぁ。
「そうです、同じ演劇好きの方に会えて嬉しいです!」
「ええ、私こそ。
結構なファンでして、会えるの楽しみにしてました。
新町千春です、どうぞよろしく」
握手を交わす、とりあえず第一印象は悪くない……はずだ。とりあえず最初はご飯を食べに行くことになった。
ある程度、長居の許されるカフェに入る。
飲み物を一つ頼んで水を少し飲んだ後、演劇に関する話が始まる。
「……とりあえず、私めちゃくちゃ感動しました。
この間書かれてた記事、あまりにも考察が深くて」
全国高等学校演劇大会、その台本は自分たちで考えているところもそれなりにある。
実際、前回優勝した高校も学生たちの手で作った台本による演劇だったため、その舞台一つから意図や工夫を見出すしかなかった。
「まあ、それくらい真剣に向き合いたいと思わさせられるシナリオでした。
実は、あの台本について考えをまとめたことは過去……それこそあの動画が出てからすぐにやったことがあったんですが、その時と今では見た時の印象が全然違くて」
「ですよね!
私も最初記事を見た時と全く違う感想を抱いていたのでブログ記事が上がった時驚きましたよ。
……実際、今回の方が作者さんの意図通りなのかなって思ってます」
その間、俺のブログを見ていた成島さんも感嘆の声を上げる。
今回の方が理解度が高く映るのは仕方ない、普段見ている時が手抜きというわけではないが、少なくとも今は他の作品から、技術を吸収しようという野心に近い気持ちがどの時期よりもずっと強い。
「……あの、新町さん」
「名前でいいですよ、恭子ちゃん」
「…………じゃあ、千春……ちゃん。
多分、演劇やってるんだよね。
何となくだけど、役者さん特有の立ち振る舞いを感じる」
……うん、確かに。
何というか自信がある感じ。
伸びた背筋に、あらゆる行動の所作。
常に誰かに見られていることを意識しているようだ。
「流石ですね、やっぱりお二人とも演劇好きなだけある。
そうなんです、私自身も高校演劇をやってます」
「へー、凄いですね。
機会があれば、是非とも見て見たいです」
「それなら、凄く良いものがありますよ……」
探る所作すら見せずに、一瞬で鞄から取り出したのは細い茶封筒。
頷く新町さんを見て、その中身を見てみるとそれは何かのチケットのようだった。
「全部で五枚、これは徳島行きの飛行機のチケットです。
実は是非、四国ブロックを見に来ていただきたくて。
良かったら、どうでしょうか?」
「え、それってもしかして」
「そうです、私たちの演劇部も出てるんですよ。
これ以上は……来た時のお楽しみということで」
新町さん、もしかしたら思っていたよりもずっと凄い人なのかもしれない。
……こうして貰った、全国を競うレベルを知れるかもしれない、そんな機会。
ギリギリ冬休みに入っている、俺は行くと思うのだが。
「あの、こんな五枚もいただいて良いんですか?」
「ええ、是非他の人も連れてきて下さったら。
……最悪、演劇ブログさんお一人でも構いませんよ」
かなりの距離を飛ぶ飛行機のチケット、それを事前に五枚も用意しているなんて、一体彼女は何を考えているのだろうか。
立ち上がる彼女の目には、熱がこもっている。
どうやら、このカフェをもう出るということらしい。
「ここを出たら、少し観光なんかしませんか?
だから、今する話も一度だけです」
近づいてくる彼女に、熱気のような狂気のようなものすら感じる。何というか、ものすごい迫力だ。
「私、一番が好きなんです。
あなたは私が知る限り、一番演劇が好きな人。
だから、私はあなたのこと好きですよ」
彼女は俺の耳元まで、更に距離を詰めた後呟いた。
「一生を添い遂げたいくらいに」
瞬間、距離をとった新町さん。
さっきまでの迫力は、気づけば過ぎ去っている。
「それじゃ、色々案内……お願いします」
それぞれお金を払ってカフェを出る二人。
俺は、おぼつかない足取りでそんな二人を追いかける。
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