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二十二 これからの話

「さて、全員とりあえず話を聞いてくれ」


 各々が準備を終えて、席に着く。

 今年は例年より覚悟が高まっている部長の様子に俺たちも目を離すことは出来なかった。

 それでも冷静に、話を始める。


「私はこのメンバーを集めて何を成し遂げたかったのか。

 ……まあ、これまでも散々話をしてきた奴らも多いとは思うが、改めてもう一度言おう。

 私たちで、頂点に立ちたい……つまり日本一上手い演劇部になりたいということだ」


 部長の話、多分この中で一番聞いてきたのは俺なんじゃないだろうか。

 そのために俺を入れたいと言ってくれていたし、実際かなりのレベルのメンバーが集まった。


「だからまあ、もうちょっと明確に。

 この部活の目標の話をしなければいけないだろう。

 単刀直入に言えば、全国大会の最優秀校……そこが私たちが目指す場所ということになる」


 全国大会での最優秀高校……簡単に言っているが、とんでもなく高い壁であることを俺は知っている。

 全国大会も見に行ったことはあるし、例年テレビでも最優秀の演劇は見ている。

 だからこそ、昨日の俺はあんなことを言った。

 今の俺たちでは到底不可能だと……今でもそう思う。


「まあ、とにかく……。

 少なくとも今回で先輩たちを全国に連れて行って。

 最高の思い出、作りましょうよ!」


 意気込む拓馬だったが、部長の顔は影を帯びる。

 一瞬困惑するも、拓馬はその火を絶やさない。


「……俺たちなら、いけます!

 こっから、全力でやって仕上げていけば……!」

「違うんだ拓馬……次、私たちが最速で全国の舞台を目指したとしても、辿り着くのは再来年の夏なんだ」

「は……?」


 そう、俺たちは正直に言って覚悟を決めるのが少しだけ遅かった。

 今年の夏、もしそれくらいのタイミングであればギリギリなんとかなったかもしれないが、それだけ高校演劇は長い期間をかけて全国までの切符を手にする。

 全国大会の直前、道大会ですら時期は来年の十一月。

 受験生である部長たちには辛いタイミングで、何なら引退をする可能性だって大いにある。


「今の私を見て、無様に思う人間がいるかもな。

 ここまで最高のメンバーをようやく集めて、死ぬほど本気でやってきて……それでも全国には物理的に辿り着くことができない。

 逆に言ってしまえば、その直前までは関わることが出来てしまう」


 部長の顔は確かに悔しさが滲む。

 あともう少し頑張っていれば、あともう少しだけ俺や成島さんを早く部員に出来ていれば。

 そんなことを思わせてしまっているのかもしれない。


「……だからせめて、私が作った船で。

 私が少しでも関われたこの部員たちで、全国の一番上を掴み取りに行ってくれ。

 どうか、よろしく頼む……!」


 最後に、部長は頭を下げた。

 皆、ただ頷く事しかできない。

 それだけ、部長の思いは伝わってきたし同じくらいとは決して言うことは出来ないけど、悔しくて仕方がなかった。


 とりあえず今日の部活はすぐに解散となった。

 ここからすぐに大会を目指して動き始めるというわけでもない。

 他にも、俺たちにはやれることもやらなくちゃいけないことも沢山あったりするのだ。

 ただ、一年生組で帰るその道の間雰囲気は暗いままだった。


「俺さ、全国大会最優秀校?……もマジでいけると思ってたよ。

 だって、こんなに凄いやつらが周りに集まっててさ。

 素人目からしてもまさにスターメンバーって感じで。

 だけど、それには勿論部長も含まれてたんだよな……」


 そう、別にこれは部長だけの問題ではないのだ。

 俺たちが全国に立つ時、部長はそこにはいない。

 いわば俺たちにとっての最高戦力が全国大会を前にして消えてしまう。

 勿論、部長がいなくなるという寂しさもある。


「それに……私たちにとっても最後の全国大会になっちゃうんだよね」

「……あーくそ、もうモヤモヤする〜!」


 成島さんの言葉に頭を抱える拓馬。

 誰もがその気持ちは同じだ。


「せめて、やれること全部やろう。

 勿論、全国大会だけじゃないよ。

 これから、参加できるやつとか全部やって……実力も思い出も今までにないくらい作って。

 それで、来年はとんでもない快進撃の年だって。

 そう思える年にしよう」


 つい、そう言ってしまった。

 正直、部長のためだけに出た言葉ではない。

 俺はここまで怖くて演技をすることができていなかったのだ。

 これから、その差を埋める意味でも色々やってみたい。

 それこそ、部長と出来るのはあと一年だけなのだ。


「そうだね、よし……私たちも頑張ろう!」


 いいところは成島さんに取られてしまった。

 でも、それすら気にならないくらい今はただ色んな感情を声に乗せたい。


「「おー!!」」


 響き渡るその声は、やけに青春って感じがした。


 家に帰ると、力が抜けた。

 ようやく、俺も色々と考えないといけないところまで来始めたのだ。

 実際のところ、どうなるか分からないが少なくとも俺たちはまだまだ課題が多いことは確かだ。

 だけど今は、演劇が見たい。

 俺がもう一度演劇を愛してやまないことを再確認したい。


 早速パソコンをつけて、昨年の全国大会の資料を確認する。

 ……面白い、こんなに凄いものを本当に俺たちの手で作り上げることができるのだろうか。

 …………いや、本当に面白いな。

 ………………ちょっと待て、これって前見た時とは大分印象が違くないか?


 いつの間にか、俺はパソコンの前に座っている。

 自分のブログを開いて、どんどんと文字を打ち込んでいく。

 やっぱり面白いものを見た後は、こうやってアウトプットしておかないと気が済まない。

 一応、自分たちの部活のために見たものだがいつの間にか趣味の側面が強まり始めてきていた。


 ……一体どれくらいの文字数を書いてしまったんだ。

 一万字くらいは行ってしまったのかもしれない。

 とりあえず、ブログで公表しておく。

 変な時間に上げてしまったが、演劇の全国大会の記事をこのタイミングで上げること自体が割と変な気がする。

 まあ、極論俺の趣味でしかないし自分の演技力の向上としては掴める部分も大きかった。


 俺は満足して眠りにつく。

 ……相変わらず、俺はこれくらいの時間に届いたメッセージを確認するのが苦手らしい。

 俺のブログの感想欄に一つコメントがついたことにも気づくことはできなかった。

ここまで見ていただきありがとうございます!

良ければブクマ、評価、感想等よろしくお願いします!

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