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二十一 演劇部

 幕が閉じたのを見て、膝から崩れ落ちる俺。

 息も荒くて、全身がくまなく熱くて……それでいて高揚感のようなものに包まれている。

 俺は生きてる……何故かそれが最初に浮かんだ感想だった。


 成島さんは、ただ俺の肩に手を置いて嬉しそうなそれでいて涙ぐみそうな、複雑な表情をしていた。

 部員たち……それから日々野さんが舞台袖から姿を現す。彼女を目の前にして、礼儀くらいは見せようと何とか立ち上がった。


「日々野さん、あの……色々シナリオ変えたりしてしまって申し訳なかったです。

 正直、最後の部分は石金くんのために改変したもので真摯に最高のものを作れたかと言えば、素直に頷くことは出来ないと思っています」


 そう切り出したのは成島さん。

 何となく、シナリオの改変を手掛けたのは概ね彼女なんだろうなというのは分かっていた。

 日々野さんは、一呼吸置いて口を開く。


「石金くんにはさっきも言ったけれど。

 シナリオの改変を認めたのも、それらを含めて見てみたいと言ったのも私だ。

 ……けど、さっきまでと確かに違うのは。

 非常に良いものを見せてもらった……そう思ったわけはまだ私にはわからないけど、何故か満ち足りている」


 日々野さんに向かって、部員全員で頭を下げる。

 申し訳なさや感謝、複雑な感情をそこに含めて。


「ただ、成島さんは分かってるのかな。

 私には、これは素晴らしいものに映ったんだよ。

 つまり、それが最高じゃないって言うのなら今の演劇を軽く超えるものを作る必要がある」

「勿論です、少なくとも私たちには協力な仲間が入ります。いずれまた、見ていただいた時には更に……」

「そっか……また、何かあれば私に頼ってね。

 君たちへの協力は惜しみたくない、本能がそう言って聞かないんだ」


 そう言って、日々野さんはその場を後にする。

 まだまだ活躍できていないせいで増えない活動費。

 大幅にカットされたせいで、深みが出づらくなってしまったシナリオ。

 練習を一秒もせずに出てしまった俺。


 完全とは、ずっと遠いところにあるけれど。

 それでも、少しは届いたのだろうか。


「さて、日々野さんにも講評いただいたところで。

 ……次はお前だ、石金」

「まあ、そうですよね。

 ……俺も正直、凄く痺れるシナリオでした。

 結果、成島さんの手招くままに劇にも出ちゃいました。

 それくらいには、心が動いたんだと思います」


 照れ照れと俯きながらも視線は逸らさない成島さん。

 だが、これからが本題な部長はまだまだ話を途切れさせることはない。


「率直に聞きたい。

 今の演劇部は頂点に立てると思うか?」

「……無理でしょうね」


 全員が少しずつ表情が歪んでいくのがわかる。

 この中の全員、俺がどれだけ演劇を愛しているのかをよく知っているのだ。

 そんな俺の意見は大小あれど、この場ではある程度力のある意見なんだと思う。


「理由は?」

「普通、演劇は良いところが見られます。

 うちで言えば、表現力の高さだったり作品への理解度だったり、それこそ華だったり」


 極論、面白ければ特に理由はないけれど面白い。

 それで片付けてしまって構わない、単に個人の満足度だけで測って良いのだ。


「だけど、全国は……大会は違う。

 皆当たり前に本気でやってきてるし、余裕で全員が面白いと思えるものを作ってきてる。

 それを、あえて優劣つけるなら客は……審査は。

 どんな判断をすると思いますか?」

「……悪いところを探す減点方式」


 そう、少しでも演技が固ければ。

 少しでもシーンの切り替えに違和感を持てば。

 少しでもタイミングやセリフ回しが遅れれば。

 それは、マイナスとなって纏わりついて。

 それが理由で、落とされてしまう。


 あらゆる競技は年を増すごとに進化を続けている。

 その中で、マイナス点が全く生まれないのが常識となるところまで、近づきつつあるのかもしれない。


「勿論、優位な部分……自分たちにとっての武器が生きてくることもあるとは思います。

 でもまず、皆が当たり前みたいに突破している完璧に入り込まない限りはついていくことは難しい。

 最近入った一年生たち、それこそ俺を含めた初心者たちがいる俺らにとっては尚更超えるのが難しい高い壁です」


 それでも、部長はニヤリと余裕そうに笑う。


「急ピッチでお前ら、少なくとも石金は超えられるか?」

「……超えますよ。そこは大前提って話です」


 部長から差し出されたその手、俺は思いっきりその手を掴んでお互いに目を合わせる。

 ……あの頃から、ずっと勧誘してくれてたんだ。

 誰もがやる気を持てなくて、誰もがもう演劇部にこれ以上を望んでいなかった中で、確かに彼女だけ。

 部長だけが、一番になろうとしていた。

 そんな部長の目に覚悟が宿っていないわけは無い。


 次の日、隣には純と拓馬。

 別に最近も、部室には入っていたのに今は自分からすればありえない状況すぎて、手が震える。


「大丈夫だよ、早く入ろう」

「そうだ、別に鬼や悪魔がいるわけじゃ無いんだからさ」

「……いや、本番前日の部長はほぼ鬼だった。

 部長と手を繋ぐシーン最初は恥ずかしがってたけど、怒られる恐怖の方が途中で勝ってどうでも良くなってたし」

「おい、それで有生ビビったらどうしてくれんだよ」


 二人の会話はいつも通りで、きっとこの扉を通った時の皆も変わらない。俺は選んだんだ、この扉の先を。


「……二人ともありがとう、それじゃ行こっか」


 扉を開くと冷たい風が流れる。

 冬の寒さは痛烈で、それでいて澄んでいる。

 皆が各々準備を進めていて、何かが始まることを予見させられた。

 部長は目の前にホワイトボードを設置しながらうんざりとした顔をしている。


「部長、お疲れ様です」

「あ、お前らか……って石金!

 良かった〜、お前さ成島の相手してやれよ。

 訳わかんない作品の話ばっかしてくるから、本当にうんざりしてたんだよ」


 部長の目線の先、そこにはやっぱり成島さんがいた。


「ねえ、だって見て。

 この映像ディスク、どこのお店探してもなかったんだよ?それなのに部室の隅っこで埃被ってて」

「え、眠った街のワルツ?……しかも凄い、これって特典映像版なんじゃ無いの?」

「……マジで、石金入ってくれて良かったよ」


 きっと俺はこれからも、こうして部室に通って今までを取り返すように沢山の演劇に触れていくのだろう。

 今日はそんな非日常的な日常の第一歩目だ。

ここまで見ていただきありがとうございます!

良ければブクマ、評価、感想等よろしくお願いします!

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