金色のエルフ
誤字直しました 7/10
流石に連日肉に出会えるほど街の近くは甘くない。そもそも獲物がいない。人の気配が常にあるせいで臆病な小動物が森の奥へと逃げてしまう。するとそれを狙う大型の動物もいなくなるという寸法だ。
俺がいた森のあたりは獲物がいたから、肉は食べられていたんだがな、と思うと同時に腹が悲しげに鳴る。鳴るな、余計悲しくなる。
「もっ!」
不意に、近くで変な声が聞こえた。空腹とはいえこれでも狩人だ、気配察知なんて無意識にだってできる。それなのに、声が聞こえるほど近づかれるまで気づかなかった、だと?
あたりを伺う。今度こそ真面目に気配察知もしながら。
「…」
「もっもっ!」
「…?」
声はされど姿が見えない。え、空耳?
「もーぅ!首傾げてないで助けてもー!」
また声がした。すぐ足元をすり抜けるように動きながら。
「は?」
風に吹かれる鞠のように、いやホントに文字通り鞠のように転がる白い毛玉が通り過ぎて行った。え、なに助けてって、止まれないの?なにそれ?
「もぎゅっ!もっと優しく助けても!」
むんずと掴んで捕まえた途端文句を言ってくる毛玉。注文が多いな。というか気配ないけどなにこれ生き物?
つまみ上げてまじまじと見つめる。手で掴めるサイズの白い毛玉に黒い短い手足が生えていて、毛に埋もれるようにしてまん丸な目玉が2つ、強気そうにこちらを見ている。と、注視していたらやっと気配を感じられるようになってきた。一種の隠密系生物か、俺の気配察知もまだまだだな。
「ちょっと!そんなにレディをまじまじと見ないでも!」
「あん?」
れでぃ、レディ、ready…なんの用意だ?目の前の毛玉を見つめながら考える。
「も!失礼な男も!ladyに決まってるも!」
「いや、決まってねぇだろ…」
どう見たら貴婦人の要素があるのかわからない毛玉が何故か自信満々に主張してくる。その自信どっから来るんだ。
「あのなぁ、チビすけ。レディって言うならな、あっちの奥の湖で水浴びしてるお姉さんくらい大きくなってから言いな」
途端目をぱちくりする毛玉。さっき真面目に気配察知したから奥の湖のあたりに少し小柄な人型サイズの気配があるのは把握済みだ。小柄だし水浴びしてるし、多分お姉さんだろう、という勘も多分に含んだ台詞に毛玉が反応を示す。
「まぁすたぁ!助けてもー!!」
このちっこい身体のどこから出るんだという声量で叫ぶ。ってちょい待て、助けてって俺転がって止まらなかった毛玉助けた側だけど?
「わたあめ?!どうした?!」
途端に返ってくる高い声。そしてガサガサと湖の方から人の気配が近づいてくる。うん、水の匂いもするし、冤罪に巻き込まれる前に逃げておこう。
そう決めたシオンはさっさと毛玉をその辺の低木の上に下ろすと湖とは逆方向へと走り出す。しばらくして背後からさっきの毛玉とそれに応じていた高い声が会話している声が聞こえてきたが振り返らずに森を進む。今日は肉は諦めて街の近くで野草でも集めて帰るかな。
♢♦︎♢♦︎♢
「もー!ますたぁ、服は着るも!いなくなったからよかったけど、さっきまでオトコがいたも!」
「なんだよ、わたあめ。飛ぶ時は服なんか着てなくてもなんも言わないくせに」
「それはそうも!あんなおっきな服はないも!」
「じゃぁいいじゃねぇか…」
「ダメも!その姿の時は服あるも!」
「えぇー、でも変化するときに邪魔…」
「ダ・メ・も!」
「…わ、わーったよ、わたあめ」
小さな毛玉の勢いに押されて、ますたぁと呼ばれた女性は腰まである金色の髪を払いながら服を着始める。髪を払ったことで見えた耳は先が尖っていて、人族に見えたがエルフか何か他種族のようだ。控えめに言っても美人に分類されるだろう容姿だが本人は気に留めていないようで、濡れた髪をまるでぞうきんかのように絞る。
「もーぅ!キューティクル傷むも!タオルで挟んでポンポンするも!」
「ぇー、いいよそんな、どうせ放っておけば乾くんだし…」
「ダ・メ・も!これでポンポンしていいも!」
そう言うとくるりと女性に背中を向けて、毛玉はもこもこの自身の毛を提供する。女性は嬉しそうに毛玉に手を伸ばすと
「んー!わたあめのこのもふもふ、たまんないわー!ふわぁ、ちょっともふもふ枕でお昼寝〜♪」
言うが早いか金髪のエルフらしき美女はあくびひとつ残して夢の中へと旅立っていった。
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