夢の中の景色
リィ…ン
鈴の音と共に風が強く吹いて、悲しげに揺れる花。一面の花畑しか見えない。視界が小さな子供のそれであるかのように低い位置に固定されている。ここはどこなんだろう。
いつか見た時のように泣いている声は聞こえない。おーさまなる人を追いかけていってしまったのだろうか。
一際強い風が吹いて花びらが舞い上がる。細くて白い花びらが風に流されてどこかへと飛んでいく-…
♢♦︎♢♦︎♢
「おや、今日はのんびりでしたね、おはようございます、シオンさん」
2階にある宿泊エリアから1階の食堂エリアに降りるときに声をかけられる。相手は見るまでもない、根性のある変な神官だ。
「…」
変な夢を見たんだ。素直に答えそうになる自分自身に驚きつつも、別に隠す必要はないが伝えるにしてもどう話したものかと考えていて言葉が出ずにいた。それをどう解釈したのか、心配そうな顔になる神官。
「もしかして、昨日助けていただいたときにお怪我をされてましたか?」
「は?そんなことねぇよ。あれくらい、大した相手でもなかったしな」
「そうですか?それならよかったです」
踏み込まずにへらりとした笑顔を見せるあたり、変なやつだが相談を受け慣れているのかもしれないと思う。まぁ、神官だしな。
朝食をトレイにもらって席に着く。ちょうど空いていた神官の斜向かいに。途端に軽くココア色の目を見開き驚くこいつはやっぱり失礼なやつだ。
「シオンさんから相席していただくのは初めてですね」
「ちょうど近くで空いてたからな」
ぶっきらぼうな返しにも嬉しそうにへらへら笑う。やっぱり変なやつだ。こんなやつに相談したところでなにも変わらないかもしれないが、少なくとも害はなさそうではある。
「…なぁ、この辺りで細くて白い花びらの花が咲く花畑って心当たりないか?」
「細くて白い花びら、ですか…?」
食事を見つめたまま突然始まった問いかけに目をぱちくりさせてから根性のある変な神官が考え込む。
あの夢は多分何かを伝えたがっている夢だ。だが、肝心の伝えたい内容がさっぱりわからない。せめて、夢の場所がわかれば何か手がかりでも探せるかもしれないが、その場所すら皆目見当がつかない。
「…申し訳ありません、この辺りの植物全てを把握しているわけではないのですが…このあたりでは見ない植物の可能性が高いかと思います。本かなにかでご覧に?」
「…いや。本じゃない」
「…」
「…夢を、見るんだ。時々だけど、これから起こることの」
「これから…予知夢、ということでしょうか?」
「そんな大それたもんじゃねぇけどな…。親父が帰らなかった時も、その知らせが来る前の晩に、親父が斃れるのを見たんだ。やけにリアルで、縁起でもねぇと思ってたら早馬で訃報が届いた。予知夢ってんなら、親父が斃れる前になんかできたかもしれねぇけどな、俺の見るのはそんなたいそうなもんじゃねぇ」
「…」
でも、今回の夢はまだ何も起きていない。何かを伝えたいやつからの力が俺の夢に干渉してきているかのような、俺の力だけではないという不思議な感覚がある。それなら、何か間に合うことがあるかもしれない。そのためにも、何を伝えようとしているのかを知りたい。
「…シオンさん、先ほど問われた細くて白い花びらですが、他の方に聞いてみてもよろしいですか?」
「ん?あぁ、誰か詳しい知り合いでもいるのか?」
「そうですね、おそらく遠方も含めてこの世界全土に詳しいと言える方だと思いますよ」
ふふ、と笑ってココア色の瞳がシオンを映し出す。詳しい知り合いを紹介してくれるのはありがたいが、この世界全土とは大きく出たな。
「ラリマーさんという方なのですが、ちょうどそろそろこの街にもいらっしゃる頃だと思います。いらしたらお知らせしますね」
「あぁ、頼んだ」
ひとまず今日は夢の手がかりはまだ掴めなさそうだとわかったところで、シオンは今日も今日とて肉を求めに森に行くことを決めるのだった。
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