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遠くの君と想ういのち  作者: 衣緒
旅立ち編
5/43

ハチミツ名人

 「…おい、なんだこれは?」


 目の前に広げられた紙の束を見やりながらシオンが、テーブルの向かいでへらへらしている根性のある変な神官に問う。


 「これはシオンさんへの指名依頼書ですねぇ。全て霧蜂(フォグビー)の巣の採取です」

 「いやいや、それがなんでこんなにあるんだよ?」

 「それはですね、昨日シオンさんが討伐のときに下さった巣がとてもいい状態であった、という噂が貴族の方々の間で広まったようでして…」

 「そうじゃねぇ、ハチミツが欲しいならハチミツの納品を依頼すればいい話だろ?それがわざわざ巣ってことはなんかあるんだろ?」


 根性のある変な神官は俺の言葉に少し目を見開いた。


 「…教会の依頼にあまり馴染みがないかと思っておりましたが、もしかしてお詳しいですか?」

 「まぁ、養父(おやじ)たちと街に出た時なんかは依頼を受けたとはあるからな。詳しいってほどでもねぇけど、知らねぇわけでもないんだ」


 そうだったのですね、と頷きながらこちらをココア色の瞳が覗き込む。踏み込んで聞いてもいいか、と問うかのように。面倒なのでひとまず気づかなかったことにする。


 「…ハチミツではなく巣の採取依頼である理由、ですよね。それは、巣の中にわずかにあるロイヤルゼリーという成分が美容に大変良いとされているからだと思います。昨日、ちょうど頂いた巣からハチミツを取り出していた際にいらした貴族のご子息がそのようにお話しされていました。なんでも、そのロイヤルゼリーを女性に贈ることがステータスになるのだそうで」

 「ほーん、そらご苦労なこって」


 わりとどうでもいい理由すぎて耳ほじりたくなった。


 「ご自分で聞いたのに耳ほじりながら聞かないでください」


 ほじってた。


 「まぁ、そんなわけでハチミツも欲しいけどロイヤルゼリーが欲しいという貴族の方々からの依頼がシオンさんに殺到してしまったというわけです。まさかこんな反響があるとは思わず、昨日問われた際にシオンさんの名前を出してしまいました、申し訳ありません」


 根性のある変な神官が頭を下げる。なるほど、俺の名前が出てきたのはこいつからか。まぁ、でもどうせ相手は貴族だ。こいつがしらばっくれても昨日の霧蜂(フォグビー)討伐依頼の報告書から俺の名前を拾い上げるのなんか造作もないだろう。


 「…別にいい。どうせ狩る予定で場所調べてんだろ?さっさと案内してくれ。俺の肉を狩る時間が減っちまう」


 ココア色の瞳が一緒見開かれたと思うと、嬉しそうに細められた。



♢♦︎♢♦︎♢



 「いやぁ、圧巻ですねぇ」


 後ろから呑気な声がする。なんでかやたらと収納魔法の容量がでかかった神官に道案内と採取した巣の運搬を任せているので一緒にいるのはいい。いいんだが…


 「なぁ、すげぇやる気が削がれるんだが」

 「おや、お腹が空きましたか?うーん、なにかあったでしょうか…」


 フォンっと収納魔法を開いて中をガサゴソ探す神官をため息と共に見やってから諦めて次なる巣に向かう。そうだ、そもそもこいつに緊張感とか求めたらいけない。


 この辺りは、次の巣は近くにあると聞いているエリアだ。むしろ、討伐が放置され過ぎて巣が霧蜂(フォグビー)の縄張りギリギリまで密集しているらしい。そのためこの辺りは街の人も近寄らなくなっていると。一宿一飯、よりは食べてるけど、の恩返しがてらの依頼にはもってこいだ。


 すぅっ。

 息を吸い、目標を見つめる。

 あった。まだ目視できるが攻撃して来ない距離の巣。


 「bzzz」


 口笛の応用で蜂の羽音のような音をかすかに鳴らす。

 しばらくすると護衛蜂に囲まれながら、巣穴から大きな女王蜂が出て来るのが見えた。何かを探すかのように周囲を確認している。


 ふっ!

 息を吐くと同時、番えていた矢を放つ。蜂達が迫り来る矢に気づくが、もう、遅い。


 ターン!

 女王蜂の頭部に矢が刺さって魔石にその姿を変え、同時に周りの蜂達が霧散する。その名の通りに。


 「お疲れ様です」


 いつの間に追いついていたのか根性のある変な神官が後ろから声をかけてくる。


 「20個の依頼出したので数日がかりになると思ってましたが、まさか一日で終わるなんて。狩人さんは流石ですね。あ、これ差し入れです」


 さっきガサゴソした時に見つけたのか、胡桃パンを渡されたので有り難く胃袋に収めさせてもらう。腹減ったし。


 「まぁ、とりあえずこれくらい狩れば街の人たちが通るのにも支障ねぇだろ。さて、じゃぁ俺は肉を狩に行くから、依頼の処理は頼んでいいか?」

 「えぇ、書類仕事は得意ですのでお任せください。お礼の気持ちを込めて今夜は肉料理を一品オマケしますので楽しみに帰ってきてくださいね」


 へらへらと笑いながら20個目の巣を収納魔法にしまいこむこいつは、俺が今夜も泊まる前提で話をする。まぁ、確かに行くあてもないけど。


 「それではハチミツ名人さん、また後ほど神殿で」


 へらへらと立ち去るので思わず突っ込み損ねてしまった。


 「…なんだそのふざけた呼び名は…」


 シオンのつぶやきは誰に聞かれることもなく空に吸い込まれていった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

2話連続長文すみません、区切りがつきませんでした汗


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