想ういのち
最終回です。区切り悪くて長くなりました。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
干からびて倒れたアイオを救うため寿命を差し出そうとしたラリマーの想いは届くのでしょうか?
「なっ?!」
ラリマーの提案にリュヌが驚いた声を上げる。
「お前、正気か?いくらドラゴンの寿命が長いとは言えど、それは普通に生きた場合の話だ。生命力に変換などと非効率なことをすればこの神官を回復させる頃にはその寿命も吹っ飛ぶ可能性が高いんだぞ」
「アタシは、ドラゴンエルフ。その寿命はおそらくドラゴンよりも長い。だから寿命が尽きる前に学者センセの生命力を戻せるかもしれないだろ?それに、このままなにもしなかったら…アタシに残ったそんな長い時間を、学者センセなしで生き続けるなんて…嫌だよ…」
ラリマーの静かな決意にリュヌがしばらく沈黙する。
「確かに、血の魔族に伝わる秘術の中に、生命力を移動させるものがある。だが…我も聞き知っているだけで実際に使ったことはない」
「それでもいい!頼む、アタシのいのち…使ってくれ…!」
♢♦︎♢♦︎♢
なにやら長い長い詠唱と2つの複雑な魔法陣を描き終わると、リュヌの指示でアイオを片方の魔法陣の中に横たえる。もう片方の魔法陣の中にラリマーが入る。スペース的な都合で人型になってもらったが、今は不在のわたあめの代わりにリーフィが葉を編んだ若草色の服を出していたので、どうやらこのドラゴンエルフはあちこちで常識を忘れた姿を見られていたようだ。
「…始めるぞ。この術は、魂を直接削るような痛みを伴うと聞く。ドラゴン、頑張って耐えろ」
ぶっきらぼうな応援の言葉に、コクリと頷くラリマー。その様子を確認するとリュヌが自らの指を噛んだ。ぷっくりと盛り上がる血の玉を魔法陣に垂らすと、ラリマーがいる方の魔法陣が赤く、アイオのいる方が白く輝き出す。
「…ぅ、く…」
程なくラリマーの口から苦悶の声が漏れる。見た目には傷ついている様子はないが、息も上がって蹲っている。
「ふ…くぁ…」
ラリマーの苦痛に比例するかのように魔法陣の赤い輝きが強まる。
「あぁぁぁぁ…!」
ガクンとラリマーが倒れ込むと同時に、ラリマーのいる魔法陣の赤色が失せていく。まさか、ラリマーの寿命が足りなくて失敗したのか?
「…」
失敗したのかと心配している間に、リュヌが聞き慣れない音の呪文を唱える。すると、先ほどまでラリマーのいる方の魔法陣を彩っていたのと同じ赤色がアイオのいる白い魔法陣を染め上げていった。
「…」
赤い魔法陣からアイオに赤い光が吸い込まれていく。まるで、血がその身に注ぎ込まれるように。
「…う…」
注ぎ込まれる赤が枯渇する頃、アイオの口から声が漏れた。見ると、あれほど干からびていたとは思えないほど、肌に元の弾力が戻っている。
「ふぅ…。ひとまずは、生命力は補充した。だが、魂と肉体はまだ定着しきれていない。繋ぎ止めろ」
ふらりとリュヌがふらつき、いつの間に移動したのかリーフィが抱き止める。
「よしよし、よく頑張った」
「子供扱い…するな」
魔力をかなり使ったのだろう、抱き止められたままの姿勢で反論するが、リーフィを振り解く様子はない。
「神官さん、戻ってきてください。可愛らしいドラゴンさんがいのちを分けてくれたんですよ、お礼を言いに戻ってこないといけませんよ!」
繋ぎ止めるとは、そういうことか。
「おい、腹黒神官!起きろ!あんたは腹黒だけどすげぇ気遣いするやつで、見ず知らずの俺なんかの、現実味もないような夢を気にして一緒に来るくらいお人よしだ、そんなあんたが体張って守った精霊王が自分を守ってあんたが倒れたと思ったら気に病むだろうが!それは、あんたの望むところじゃないはずだ!」
呼びかけに応えるかのように、アイオの手がぴくりと動いた。
「…神官、起きて」
「我にこれほどの術を使わせたんだ、さっさと起きろ…」
「あんたは根性あんのわかってんだ、だから戻って来いよ、神官…アイオ!」
口々に呼びかけた声が聞こえたのか、アイオがゆっくりと目を開いた。
「…ふふ、シオンさん、僕の名前、覚えてたんですねぇ」
いつものあの穏やかでどこかとぼけた口調。疲労はしているようだが生命の危機は脱したような身体。戻って、来たのか。
「…ラリマーさんは…?」
横たわったまま懸命に視線を動かして離れた位置で魔法陣の中に倒れるラリマーを見つけたようで、途端に心配そうな声を上げる。自分も死にかけてて、今だってまだろくに動けもしないのにもう人の心配するあたり、相変わらずだ。でも、ラリマーは…
「…ご安心下さい、心優しい神官さん」
これまで沈黙していた精霊王が口を開く。って、いつの間にか成長してる?!
「ふふ、そちらのドラゴンエルフさんの、相手を想う気持ちのおかげで力が戻ってきました」
俺の驚いた表情に気付いたようで説明された。そういえば慈愛の気持ちが力の源だと言ってたな。
「力が戻ってきておかげで、彼女の魂が崩壊しないように防護の術をかけられました。なので、今はまだ目覚めてはいませんが、じきに目を覚ますと思いますよ」
「そう…ですか、よかった…。ありがとうございます」
それを聞いてほっとしたようにアイオが息を吐く。
「いえ、こちらこそ、本当にありがとうございます。こんなに無理をなさってまで、私を…」
精霊王の言葉を首を振ってアイオが遮る。
「私は、神官です。精霊王様はもちろん、できれば全ての人が幸せであればいいと願う者です。だから、誰も欠けることなく、世界の恩寵も保たれたなら、100点満点です」
穏やかに微笑む様子は、無理をしているわけではなく心の底からそう思っていることを伝える。
「…ん」
そのアイオの話し声に誘われたのか、ラリマーがみじろぎして目を覚ました。なんかよくわからんが、神官を見ると挙動不審になるくらいには意識してたしな。
「ラリマーさん…!」
「が、学者センセ?よかった、無事に戻ってきたんだな、よかった、本当に…」
目覚めるなり神官に気づいてべそべそと泣き始める。相変わらず感情が忙しいドラゴンだ。
「ラリマーさん、ありがとうございます。そんな、無茶までしてもらってしまって…」
「いいいいい、いいってことよ!アタシがやりたくてしたんだ!」
もう挙動不審になった。
「本当に、ありがとうございます。私からも、ささやかながらなにか祝福をさしあげたいのですが、なにか私にできることはありますでしょうか?」
精霊王がアイオとラリマーに語りかける。
「…お願い…ですか。そうですね、あるにはあるのですが、これは精霊王様にお願いする類のものではなくてですね…」
アイオが柔らかく微笑みながらラリマーの方を向く。
「ラリマーさん、僕のお嫁さんになってくれますか?」
「へ、へぁ??あ、アタシでいいのか?」
「えぇ、いつも、僕を気にかけてくださっていてありがとうございます。いつからか、貴女が街に来るのが楽しみになっていたんです。この旅の中でも、いつも元気いっぱいで明るいラリマーさんと一緒にいられたおかげで毎日が新鮮で楽しくて…。そんなラリマーさんと、旅が終わった後も一緒にいられたら、きっと楽しい毎日になると思うんです」
「そ、そんなの、そんなの…!」
ラリマーが俯いてふるふると震える。
「大歓迎に決まってるだろ!」
飛びつくようにアイオに抱きつくラリマーを、アイオが優しく受け止める。その様子を見て周りに飛んでいた妖精たちが口々に祝福を伝え花びらを振りまいた。
「確かにそれは、私の力などではなく、貴方たち自身で切り開いていく未来ですね。そんな貴方たちのこれからが幸多いものでありますように。ささやかながら私からも祝福を」
「しゅくふくー」
「おめでとー」
抱き合ったままのアイオとラリマーに口々にお祝いを告げる。
「シオンさん、ありがとうございます」
不意にアイオがこちらを向く。いや、なんか感謝されることがあったかな。
「シオンさんと出会って、旅に出て…大変なとこもありましたが、おかげで僕は大切なものに気づけました。きっと街の神官のままでは気づくことすらできなかった自身の願いに」
「お、おぅ。こちらこそ、ありがとうな。あんたのおかげで、夢で見た危機を避けられたんだ」
「そうですね、歴史には残らないかもしれませんが、間違いなく貴方たちの功績は大きいものでしたよ」
キイトの言葉にリーフィも頷く。
「みんな、頑張った。みんな、助かった。よかった、ありがとう」
誰のためともわからず始まった旅はいつしか大きなものとなった。
これは、とある狩人がひっそりと世界を救った、そんな、知られざる物語。
(Fin)
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シオンが恋愛要素持ってなかったために…最終回はアイオとラリマーに喰われました苦笑




