ユウ
「…」
倒れたシーサーベラスを見つめるように闇色の人型の何かがこちらを向く。
「申し訳ありません、ユウさん。安全のためにシーサーベラスは討伐させていただきました」
「…」
相変わらず低い音はしているもののなにを言っているのかは聞き取れないが、アイオの方を向いて意思疎通の兆しがある気がする。
「ユウさん、あなたのことを、僕たちにも教えてくれますか?」
先程まで戦闘していたとは思えないくらい無防備に自身の身体を向けて闇色の人型に話しかけ続ける神官。ユウさん、と呼びかけていることからあの人型はユウというのだろうか。そういえばシーサーベラスとの戦闘中も時々神官の声が聞こえていたのは、このユウさんとやらと話していたのだろうか。
「…ユウは、ユウ。助けてってみんないうから、助けたいの」
本当にユウっていうらしい。そして神官にはちゃんも話すようだ。まぁ、俺たちはユウが呼び出したシーサーベラスを2回も問答無用で討伐しちまったからな。
「みんなまだ生きたいっていうから、ドアを開けてあげたいの」
「ユウさんは、みなさんのためにしたいのですね。みなさんというのは、あのほおずきになっていった方たちですか?」
ほおずきといえは、今も神官の後ろの位置にいる小さな精霊王が祈るたびにふわりふわりと浮かび上がっている。ずっと祈ってるようなのに、尽きることがない。
「…みんな、死んじゃったの。でもまだやりたいこと、言いたいこと、ある」
あのほおずきになっている黒っぽいなにかは、死者の魂だったのか。それらが持つ生への未練が集まって意思を持つユウが生まれた。そしてユウが遺されていた魔法陣を使って黄泉の門を開いたことでこの場所と地上とが繋がり、精霊王を呼び寄せたということなのだろうか。
「みんなたすけてっていう。ユウは、そんなみんなを助けたい。この魔法陣を作った人も、ここにいた」
かつて最愛の妻を失い、もう一度会いたいと死霊術を生み出した魔術師の魂も、黄泉に囚われていたのか。
「でも、ダメだった。助けても助けても、みんな増えてく。助けに来てくれたおーさまって人も、どんどん力が弱くなってる。ユウが、呼んじゃったから。小さい人たち、外からおーさまって呼んで、泣いてる」
ユウが首を力なく振りながら俯いた。こいつはきっと、精霊王を捕えようとかそんなこと思ってなくて、ただ助けを求める声を救いたいと願っただけだったのだろう。それが精霊王を呼び寄せて、今その存在が消えかけようとしているのをどうすることもできずに困っていたのか。
「…悔いなく生きる、みんなそれができたらきっといいんだろうけれど、そうは行かないこともあるから。もっとこうしたかった、もっとうまくできた、そんな気持ちがもっと素敵な明日を作るから、悪い気持ちじゃないと思う」
ラリマーが、優しく諭すようにユウに向かって口を開いた。
「…ユウ、悪い子じゃない?」
「悪い子なんかじゃないよ。死者たちの気持ちを抱きしめててくれてありがとう」
「…うん。うん。ごめんなさい…」
涙を流しながら謝ったユウは、どこかほっとしたような表情をしていた。多分、自身が死者の生きたいという願いの結晶体であるが故に死者を抑えることができずに、でも精霊王が消耗していくのを間近で見続けその責任も感じながらどうしようもなくなってしまっていたのだろう。
「ユウさん、よく、頑張りましたね」
アイオが優しく抱きしめると、ユウの輪郭がゆらりと揺れた。他の死者の魂たちと同じように。
「…黄泉はさ、もともと、自我のない魂たちを抱きしめて、時間をかけて死を受け入れて穏やかな気持ちになれるようにする場所なんだよ」
ラリマーがぽつりと話し始めた。
「精霊王は優しいから、全部助けてあげようとしたんだろうな。でも、全部ってのはどだい無理な話なんだ。だから、足りなかったとこも含めて、受け止められるように。時間がかかってもいいんだ、ここは、そういう場所なんだから。それぞれが自分なりの時間で、自分なりの納得を見つけて、それで満足したら、ゆっくり眠ればいい。次のいのちに何かを繋いで」
そう呟くラリマーは、どこか遠い昔を思い出すかのように、虚空を見つめていた。たった一人の種であるドラゴンエルフという人生の中で、なにか俺たちでは想像もつかないような経験があったのかもしれない。
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