黄泉の世界へ
「あー、とりあえず、黄泉に行って引っ張ってきたらいいかなって…」
「…」
ひよこ帽子、そんな顔すんな。俺だってこんなの作戦と言えると思ってない。
「正直、なんで精霊王が黄泉に入ってったのかとかもわかんねぇから、どうしたら連れ戻せるかもわかんねぇんだ」
「え?精霊王様は連れ去られたのではなくご自身の意思で黄泉に赴かれたのですか?」
あ、そうだった。おーさまが周りに止められながらも海に沈んで行った光景は夢で見ただけで、話してなかったな。
♢♦︎♢♦︎♢
「そうですか、精霊王様はご自身の意思で…」
思うところはありそうではあるものの、夢の話を聞いてキイトが呟く。
「確かに、ご自身の意思で黄泉に入られたのでしたら、黄泉に行ってお話を、できればですが、お伺いして戻って来ていただけるようお願いしないとですね…」
うん?まぁその通りなんだが、もしかしてリュヌだけじゃなくてキイトも来るのか?
「黄泉は暗い。樹魔族は、きつい」
「えぇ、リーフィ様はこちらでお待ちください。僕がシオンさんたちにご一緒させていただきます」
あ、やっぱり来るんだ。
「ふん、着いてきてもいいが、俺の獲物はやらんからな」
「えぇ、リュヌさんのお邪魔は致しませんのでよろしくお願いしますね」
いつの間にかリュヌがリーダーになってるようだ。黄泉で魔物がでたらリュヌに任せられそうだから、まぁ、いいか。
「よし、では行くか」
リュヌの声で魔法陣の方に視線が集まる。おそらくここを潜れば精霊王のいる黄泉に行ける。いったい、どんなところなのだろうか。
♢♦︎♢♦︎♢
コポコポ…。海中の魔法陣を抜けてもしばらくは水の中を潜るような感触を経て、ぽっかりと開けた空間に出た。外界の光は差し込まない、暗い世界。
「案外広そうだな?」
魔法陣を潜るため人型になっていたラリマーが空間の広さを確かめるように魔力探知をした気配がした。十分広いならドラゴンに戻るつもりなのだろう。
ふと、空間の奥の方でぼんやりと光が見えた。目を凝らすと、光の粒がゆっくりと集まりながら水面の方へ浮かんでいくようだ。よく見ると集まった光は、ほおずきのような形をしていた。
光に照らされる形で白いローブのような布が揺れた。あれが、精霊王か?
「…え?!」
光源に近づくにつれて徐々に視界が開けてきた。その中で見つけた精霊王の姿を見て、誰からともなく驚きの声が漏れる。
「…」
そこでは、子供くらいの大きさの人物がダボダボのローブを着て祈りを捧げ続けていた。祈るたびに光るほおずきが浮かび上がる。
「…精霊王さんは、思っていたよりも小柄なのですね?」
自分の描いた絵よりも随分と子供っぽい見た目の精霊王を見てキイトが首を傾げる。いや、俺が夢で見て、描いてもらった精霊王は間違いなく大人だった。
「…こちらの精霊王様は転生されたお姿ではなく、おそらくは霊体なのでお力を失ってきて小さくなっているのかと」
アイオが推測を口にする。おい、それだとこのまま放っておいたら精霊王小さくなって消滅するんじゃ?
「ふん、この光を生むのに霊力を使ってるのだな?それならば、話は早い。この光に変化してるものから引き剥がせばいいだろう」
黄泉に来たものの戦闘もなくつまらなかったのか、見るからにつまらなそうにリュヌが告げる。この戦闘狂め。
言うが早いかリュヌが素早くレイピアを振って精霊王の周りの闇を払う。蜘蛛の子を散らすように何やら黒っぽい不定形のものがゆらゆらと離れて行った。
「たす…けて」
「た…けて」
払われた何かが助けを求める声をあげたのと同時に、光源のさらに奥で、何かが蠢いた。黒よりも深い闇色の、人型に見える何者かがこちらを見た気がした。
「…」
ぶつぶつと呟くような低い音で声が響く。何を言っているのかは、聞き取れない。
「…ユウ…」
初めて、なにか今のありそうな音が聞こえた。同時にどこにいたのか闇にホトトギスが浮かび上がり、鳴く。
ごうん
重苦しい音がして、魔法陣の方、外界からカタカタと振動が伝わる。外でいったい、なにが?
しばらくして、どぷん、と何かが黄泉に入って来る気配がした。同時にバラバラと木屑が降ってくる。
「うわぁぁっ」
「だ、誰かっ!」
魔法陣の上に、嵐にでも巻き込まれたのかあちこちが壊れた船が現れた。
嘆きを感じる歌声が小さくなっていく悲鳴と入れ替わるように響いたと思うと、ずしりと重量感のある音が聞こえて、魔法陣の方に生き物の気配が現れる。
「おい…嘘だろ?」
「こんなことがあるとは…」
魔法陣の上に陣取る巨大な蛇のような体躯。そこから生える3つの頭。
リュヌの口の端が吊り上がる。
ふしゃぁぁっ!
先ほど倒したはずのシーサーベラスが、そこにいた。
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