遺された洞窟
「なぁ、せっかく持ってきたその資料、見てもいいか?」
考えが行き詰まってしまったので、目先を変えようと腹黒神官が抱えてきた本を指す。「もちろん」と言いながら手渡されたそれをパラパラと眺める。確かに先ほど聞いた説明の内容が書いてある他、目新しい情報はなさそうだ。
「…?」
なにか、意識にも上りきらないくらいの違和感を感じて手を止める。開いているページは研究所があったのは洞窟だったらしいと言う内容のページ。先ほども聞いた内容だし特におかしなところは、ない。
「シオンさん、どうかされましたか?」
突然動きを止めて考え込んだ俺に気づいた腹黒神官が声をかける。
「…なぁ、魔法の研究成果は、みんな魔法陣なのか?」
そうだ、さっきこの神官は『魔術師にとって自身が生み出した魔法陣というのは研究成果ですから』と言った。俺は魔術師じゃないから、そういうもんかと気にもしていなかったが、よく考えると気になることがある。
「え、えぇ、そうですね、新たな魔法を編み出すのは大変労力が必要なことなのですが、それを偶然で終わらせず再現性高く発動するため、後世に伝えるため、などの理由で魔法陣の形に落とし込むのが一般的です。魔法陣になっていれば、発動時はその魔法陣に魔力を注ぐだけで同じ魔法が発動しますし、アクセサリーなどに意匠として掘り込めばその魔法の効果を持ったマジックアイテムが作られます」
「じゃぁ魔法陣があれば、そこに魔力が流れれば発動させるさせないの選択肢なく発動するんだな?」
「…?えぇ、発動させないのに魔力を流すことがあるかはわかりませんが…そういうことになりますね」
魔法の世界では常識で意識すらされないものなのかもしれない、魔法発動を決めるのは魔力を流した瞬間であって、魔力を流した後ではない。今回の魔法陣は海にある公算が高いという。もし沈没船など生死の境にあるものが近くにいれば、そしてそのものが魔力を持てば、最後の足掻きとばかりになにかした際に魔力の残滓が魔法陣に触れることもあるかもしれない。その際に魔力の持ち主は、魔法陣を知らなくてもいいのだ。
「なぁ、もしたまたま今回の魔法陣が起動したとして…どれくらいの時間効果があるんだ?」
「…そうですね…、魔法陣そのものを見ていないのでなんとも言えませんが…一般的な魔法陣であればもって10分くらいかと」
10分。意外に長いと言うべきなのかもしれないが、それだとたまたま瀕死の誰かの魔力で発動した魔法陣が精霊王を取り込むというのは不可能か。良い線いったかと思ったが。
またも考え込む俺にラリマーが考え考えしながら口を開いた。
「もし…もしだけど、その魔術師の魔術理論が黄泉からの魂召喚を求めるものではなくて、黄泉と繋がりを作るものだったら…?」
「黄泉と…繋がりを…」
魔術理論とかわからんけど、黄泉からワープするなら10分だけ魂を呼び出せるけど黄泉のドア開くのだともっともつかもってことか。
「…あり得るかもしれません。もしかしたらシオンさんが見た、精霊王様が海に沈んだ位置というのが黄泉との繋がりの部分であれば…」
「精霊王がその洞窟にできた繋がりから黄泉に取り込まれてしまった、ということなら、この世界の恩寵が失われるのも納得だな」
仮定の話に同意を得たラリマーが結論を引き継ぐ。
「じゃぁ、その繋がりを閉じることができればいいのか?」
「どう、でしょうか。このまま閉じてしまって精霊王様が黄泉に閉じ込められるようですとこの世界は破滅する危険性があるので、できれば黄泉から精霊王様を連れ戻した上で閉じる方が良いかと…」
アイオの予測に頷きでラリマーも同意を示す。魔法の素養のない俺にはそのあたりはよくわからんから2人の意見に従う方が良いだろう。
「となると、次はその洞窟…死霊術師の遺した魔法陣を探せばいいんだな?」
「そうですね。ただ、魔力の流れが波で乱されるのか、魔法陣の魔力を海全体からぼんやりとしか感じられなくて…」
魔法陣なら魔力を探知すればすぐ見つかるかと思ったらできないようだ。せっかくあの夢が伝えたかった危機、その原因である精霊王の黄泉への囚われという推測が立ったのに。なにか、なにか手がかりはないのだろうか…。魔法陣のありかを探す手がかりは。
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