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遠くの君と想ういのち  作者: 衣緒
冒険者編
30/43

おーさま

 「…こんな感じでしょうか」


 ふぅ、と一仕事終えた満足げな息を吐きながらひよこ帽子が今しがた描きあげた絵をこちらに向ける。そこにはゆったりとした白いローブを着た、中性的な顔立ちに優しげな表情を浮かべる(多分)男性が描かれている。俺が夢で見る()()()()だ。よく考えると腹黒神官たちに夢の話はしているが出てくる()()()()について詳細を話して覚えはない。説明も難しかったしな。夢だからかはっきりと説明できるほど細部が印象に残っていなかったりしたのだ。印象に残っているのは、深い空色の瞳と穏やかさを感じる中性的な顔立ち。そんな状態の俺の話を元にここまで再現図を描けるのだから、ひよこ帽子は絵描きとしての腕がいいのかもしれない。ホントなんでBランク試験なんかにいたのか。


 「あぁ…アンタ上手いな、ありがとう」

 「いえ、気に入っていただけたなら幸甚です」


 やたら優雅な感じのする礼をしながらお礼の言葉を受け取るひよこ。この帽子のせいで優雅さ激減してるが。


 「ええと、すまん、俺はこういうの初めてで相場がわからねぇんだが…」


 絵の代金を支払おうと財布を探ろうとすると綺麗な指が手を掴んで止めた。男性にしては少し細い気もする、綺麗な手。言葉遣いといい、ひよこはどっかいいとこの坊ちゃんなのかもしれない。まぁ、仮に貴族だったとしても対応の仕方なんか知らんからどうしようもないが。


 「お代は結構ですよ、狩人さん。『ここでお会いしたのも何かの縁』と言いましたし。またご依頼いただく時にはお代はいただきましょう」

 「そうか、ありがとな、あー、ひよこ帽子」


 ひよこ帽子と呼ばれて驚いたのかエメラルド色の瞳をぱちくりと瞬く。やがてふふっとおかしそうに笑うと改めて手を差し出した。


 「名乗りもせず失礼しました。ボクはキイト。狩人さんのお名前をちょうだいしても?」

 「あぁ、こちらこそすまない、シオンだ」


 お互い名乗りあったあと少し話して別れる。しばらくはこの辺りにあると言っていたし、なにかあれば今度はちゃんと代金を払って描いてもらおう。



♢♦︎♢♦︎♢



 個人的な情報の当てがあるわけでもないのでひとまず冒険者ギルドに向かっていたら、行く先にラリマーがいるのが見えた。商業ギルドの前で数人の男たちと別れてこちらに向かってくる。


 「お、シオーン!」


 元気よく手を振りながらこちらに駆け寄る。長い金髪を揺らしてにこにこと駆け寄る様はなんだか大型犬みたいだ。


 「おぅ」

 「ん?何持ってるんだ?絵?」


 流石商人ギルドの人間。目ざとく先ほどキイトから受け取った絵を見つける。


 「あぁ、さっき広場にひよこ帽子の絵描きがいてな、そいつに夢で見る()()()()描いてもらったんだ」

 「へぇ、これがシオンが言ってる()()()()かー。アタシがイメージしてたより優しげな感じだな。ってか、この絵書きさんうまいな…」

 「あぁ、誰でも、特徴伝えてくれれば描けるぽいぞ」

 「!な、なぁ、まだその絵描きさんはいるのかな?」


 俺の言葉になにか思うところがあったのか、そそくさとキイトの場所を聞くと土煙をあげそうな勢いで駆け出して行った。その様子は大型犬というよりなんか猪みたいだ。


 しばらくすると広場の方からホクホクと満足そうな顔をして戻ってきた。早かったな。


 「いい絵描きさん教えてくれてありがとなー、シオン。アタシこれ宝物にするよ!」


 抱きしめるように絵を持っているためなにを描いてもらったのか見えないが、満足そうにしてるならいいか。図らずも多少お世話になった礼ができたようでよかった。



♢♦︎♢♦︎♢


 「すみません…!お、お待たせしてしまいましたか」


 とてとてと走りながら駆け寄ってくる腹黒神官はもともとそんなに速いわけではないが、複数の本を抱えているためいつも以上にゆったり走っているように見える。


 「いや、俺たちもさっきここに戻ってきたとこだ。調べ物してくれててありがとな」

 「…ぜー、シオンさんが、はー、ずいぶん丸くなりましたか、ぜー…」


 別にゆったりは走ってなかったようだ。


 「が、学者センセ、大丈夫か?水飲むか?」


 オタオタとまた挙動不審になったラリマーが甲斐甲斐しくタオルで汗を拭いてやりつつ水を差し出す。


 「はー、だ、大丈夫…ですよ、ぜー、ラリマーさん」


 息が上がりきっていて大丈夫に見えない様子で大丈夫と言う。大丈夫の定義とは?

 息が落ち着くまでは神官の情報収集の報告は難しいだろうから、と先にこちらから報告を見せることにする。


 「息を整えながらでいいから聞いてくれ。俺が夢で見ている()()()()なる人の絵姿を描いてもらったんだ」


 まだ肩で息をしている腹黒神官が目線を差し出した絵に向ける。

 途端に、そのココア色の瞳が見開かれた。


 「ぜー、え、シオンさん、はー、これって…」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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