神殿
カチャカチャと食器の音や、小声の話し声などの人々の音がする中で肉を頬張る。うまい。やっぱり肉はいい。
結局シオンは神殿に泊まることにした。正確には、シオンが返事を考えている間に、「肉なら食べさせてあげますから」というアイオの言葉に腹の虫がぐぅぅ(行きます)!と応えてしまったのだ。
「ふふふ、本当に肉がお好きなんですねぇ」
ガヤガヤというざわめきの中こちらに向かって発せられる声がある。正直こんなやつに手篭めにされるとは、不覚。だがしかし、肉を噛み締める喜びには変えられなかった。
「ふふへー(うるせぇ)、ほへはひほはひひんは(俺は忙しいんだ)」
肉を次々口に運びながら、目の前でへらへらしている神官に応じる。
神殿は今食事時ということもあり比較的混雑しているし給仕をしている人々は忙しそうにしているが、こいつ暇なんか?
「さて、と。しっかり召し上がれているようですし、今夜はこのままここに泊まっていってくださいね」
暇だと思ったのが伝わったのか、変な神官は席を立つと給仕をしている神官たちの方へと向かっていった。あいつ、この忙しそうな時間にサボりだったのか…。
「…うっし」
まぁ、いい。兎にも角にも、俺はまず肉を食う。シオンは次の肉料理の皿に手を伸ばすと、その身体のどこに入るのかという勢いで肉を口に運んで行った。
♢♦︎♢♦︎♢
しんと静まり返った室内にわずかに差し入る朝日。まだ鳥たちも目覚めるかどうかという早朝。
「…」
音もなく起き上がり身支度を始める少年は、朝早いというのに眠そうな様子は一切なく、その緑に煌めく瞳は活力に満ちている。
そのまま少年は寝床として提供されていた場所を綺麗に片付けると、同室で仕切り越しに寝ている他の者を起こさないよう静かに弓を携え外に向かう。昨日はかなり肉を食べられたから、今日の獲物は干し肉にしよう。この時間なら朝露を蓄えた花の蜜が美味しい時間だ。
朝日に照らされる町の近くの森を、足音もなく進む。木々から溢れる陽光を反射する草花の雫を時折つまみ食いしながらもシオンは黙々と森を進んでいく。狙うは目覚めたばかりの鳥。昨日は欲張りすぎて大きい地上の獲物を狙いすぎた。ここは手堅く行こう。小さくても狙いやすい鳥を複数狩れればいい。
少し先から鳥の囀りが聞こえてきた。
♢♦︎♢♦︎♢
「おや、お早いお出かけですね」
朝の狩りを終えて神殿に戻ると、へらへらした神官が声をかけてきた。今回はサボりではなく、洗い終えた寝具を干している。
「…昨日、あんたたちの貴重な食糧をたくさん使わせたからな」
「お気になさらずともよかったのですが、助かります、ありがとうございます」
差し出した木の実や草花を大事そうに受け取りながらアイオが礼を言う。
「肉は、悪いが返せるほどはとれなかった」
シオンが居心地悪そうに視線を逸らすと、アイオは少し口角をあげた。
「ふふ、まぁ、あの量を狩るのは難しいでしょうねぇ…」
あの量、と言われるくらいには肉をドカ食いしていたシオンを思い出したのかアイオが穏やかに微笑む。
「いいのですよ、教会は食事も提供する場所なのですから。ですが、そうですね、もし貴方のお力をお借りできるのならば助かります」
「力?」
「えぇ、実は人気がなくてなかなか処理できていない討伐依頼があるのですが、きっと貴方なら達成できるのではないかと思いまして」
アイオは説明します、と言いながら依頼内容を掲示している掲示板の方に歩いて行った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
下の⭐︎で応援してもらえるととっても励みになって嬉しいです♪