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遠くの君と想ういのち  作者: 衣緒
冒険者編
29/43

悲しき祈り

 コポコポと水の中で何かが動く音がする。光が差し込まないのか、周囲は暗い。


 「…て。…た…て」


 どこからか響く声。意思を感じにくい機械的な音のような、悲しみ堪えているような不思議な響きを持つ声。


 ふわりと白い布がゆらめく。声に引かれるように。


 「たす…けて…」


 近づいたことで声がその明度を増した。水中をたゆたう白い布からほっそりとした腕が覗く。

 伸ばした腕が声を抱き寄せた。()()は実体のない湯気や煙のように腕の中でゆらめきながらも、心地よいのか腕の中に留まる。

 抱きしめられるうちに段々と黄色がかった光が腕の中から溢れ出した。見るだけで暖かさを感じる光。


 「ありがとう」


 助けを求めていた声は光の粒に姿を変えると、ゆっくりと集まりながら水面の方へ浮かんでいく。よく見ると集まった光は、ほおずきのような形をしていた。


 「…て。たす…」

 「…けて」


 光を見送った後も助けを求める声は途切れることは、ない。次の声に向かって、白い布がゆらめく。先ほどの光の粒のおかげで少し明るくなった水中に見えたのは白いローブ。ローブの人物は声を一つ一つ、大切そうに抱きしめては光の粒として解き放っていく。いつまでも、いつまでも…。



♢♦︎♢♦︎♢



 死霊術の文献を確認しに神殿に戻ると言ってアイオが退席すると、ラリマーも今のうちに次の街への輸送について商人たちと話を詰めてくると行ってしまった。アイオはここへの派遣だが、ラリマーは仕事の合間に俺の夢の謎に付き合ってくれてるのだから、いつかお礼をしないといけないな。

 ひとまず、まだこの街のBBQエリアしかろくに把握してないので腹ごなしがてら街を見て回りながら情報収集をすることにした。これまで見た夢で、メルの近くの丘から海に出たところで何かがあったことまではつかめた。あと夢に出てきたものでわかっていないものは、そもそもあのローブの()()()()は誰なのか。何故海に沈んだのか。海から浮かんできたあの光はなんなのか…。まだ色々情報が不足してる。あの夢は何を伝えようとしているのだろうか。


 考え事をしながら街の中を歩いていると広場の方でざわめきが聞こえた。なんかあるのか?


 「ね、ね、ちょっとあの絵描きのお兄さんかっこよくない?」

 「ね、帽子と顔のギャップがたまらないよね」


 すれ違う女性たちが明るい声で話す。かっこいい絵描き?


 広場に足を踏み入れると、露店エリアの一角に人だかりができていた。あれがさっき聞いた絵描きだろうか。ただ、人の陰になっていて噂の絵描きの姿は見えない。

 特に行くあてもないことだし、と人混みの方に進む。進むにつれて見えてきた()()には見覚えがあった。


 「…」


 思わず無言で見つめていると、視線に気付いたのか絵描きはこちらを向いた。


 「…おや、貴方は見たことがありますね。確か…いつかの空の上で」


 にこりと穏やかな笑顔を浮かべた整った顔。よりも目を引くのは頭の上の帽子。


 「あんた、殆ど寝てたのによくわかるな」

 「ふふ、ボクもずっと寝ていたわけではありませんからね、()()さん」


 穏やかな口調で返してきたひよこ帽子は、確かに寝ていただけではなく俺の戦闘を見ていたかの言い方だ。


 「…あの時は()()って名乗ってたんだけどな」

 「あぁ、それは失礼、ボクは貴方の名乗りは聞いていませんでしたからね。見た印象から狩人かと思ったのですよ」


 つまり、こいつは試験開始早々の奇襲を躱しつつ他の参加者の戦闘を見たり自身の標的を仕留めたりと動きつつも寝ていたわけだ。いや、どんだけ寝たいんだよ、わざわざ試験中にまで。


 「さて、ここでお会いしたのも何かの縁でしょう、どうですか?よろしければ一枚、お描きしますよ」


 さっとスケッチブックと鉛筆を出しながら提案してくる。このひよこ帽子が絵描きだったのか。というかそんなやつがなんでBランク試験を、しかもおそらくは余裕で合格してるんだ?試験の時にも思ったが、こいつはやっぱり大物なんだろう、よくわからんけど。

 まぁ、確かに予定があるわけでもないし、せっかくの再会だ、提案になってもいいかと思う。しかし、絵描きに頼むなんて初めてだ。普通何を描いてもらうもんなんだ?


 「あぁ、よろしく頼む。何を描いてもらうんだ?」

 「ふふ、それはなんでも。お客様の望むものを描きますよ」

 「望むもの…」

 

 描いて欲しいものがあったかと、最近近くにいる人の顔を思い浮かべる。腹黒神官?別にいつでも会えるな。ラリマー?確かに世話にはなってるが、自分の絵をもらって喜ぶか?毛玉?ラリマーの絵とか好きそうだが、いつ会えるかわからんな。


 「そう難しく考えなくてもいいんですよ。例えば()()()()()()()()()-」

 「あ!実在するかわからないやつでもいいのか?!」


 ひよこ帽子の『かわいいひよことか』というセリフに重なる形でふと思いついて叫ぶ。そうか、こいつの帽子は趣味だったのか。


 「んんっ。ええ、イメージさえしっかりしていて特徴を伝えていただけるならなんでも」


 にっこりと自信を感じさせる表情で応えるひよこ帽子に、シオンは頭に浮かんだ人物のことを伝え始めた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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