残された言葉
食事を終えるとアイオはメルの神殿に、ラリマーは商人の集まる酒場にそれぞれ聞き込みに向かった。
俺は元々の目的であるアイスプラントの花畑があるか街で聞き込む。BBQの周りで。いや、決してまた小腹が減ったら食べようと言う算段ではない。慣れない街で唯一しっかり把握したエリアがここなだけだ。
程なくして、近くでエールと肉串を手に談笑していた男たちから話を聞けた。
「アイスプラント?あぁ、あの細い白い花か?それならこの街の門を抜けて海沿いに丘を登ったところにあるぞ。うちの2歳の娘が花が好きでなぁ、休みには連れてってやるんだ。子供でも行けるくらいのところだから、兄ちゃんなら余裕だろうが…、もう花の時期が終わる頃だから、一面の白い花、とはいかねぇとは思うぞ」
「はは、アンタは娘大好きだからなぁ」
「そりゃそうだろう!あんなかわいい天使だぞ」
話題が男の娘に移ったようだったので邪魔にならない程度に礼をして立ち去る。なるほど、もう花の時期が終わりかけだったのか。道理で空から見た時に白い花畑が見えなかったわけだ。夢で見たのは一面の白い花畑だったが、あれはいつのことだったんだろう。
♢♦︎♢♦︎♢
男達に聞いた通り、大した苦労もなく海沿いの丘の上にたどり着く。夢で見たほど花が咲いていないせいか全体的な色彩は異なるが、夢の風景とよく似た場所だった。
波の音が控えめに聞こえる他は静かな土地だ。周囲を見渡しながら思い出す。最初の夢では、確かおーさまなる人を引き留めるような声がしていた。次の夢ではもう誰もいなかったが、この場所を示すかのように花が見えた。ここから、おーさまと呼ばれる誰かが去ったことが問題なのか。
そこまで考えたところで、ぐらりと頭の奥が揺れた気がした。
「っ?!な…」
周囲に敵意は…ない!それならばこの感覚はいったい…
足に力が入らなくなったと思った瞬間には、シオンは花畑に倒れ込んでいた。
♢♦︎♢♦︎♢
リィ…ン。
暗闇に鈴の音が響く。あぁ、これはまたあの夢だ。
ぼやけていた視界が焦点を結ぶ。今日は花畑ではないようだ。月明かりに照らされた薄暗い足元には夜の海が広がる。
ごうっと音がしそうな勢いで背後から風が吹く。その中に見覚えのある細い白い花びらが舞った気がして振り返ると、メルとその近くの丘のシルエットが闇に浮かんでいた。どうやらここは先程訪れた丘から海に出たあたりらしい。
「-!」
誰かが何かを叫ぶような気配を感じて海の方を見やる。少し離れた沖合の海に立つ大人のような人影が見えた。
よく見ようと身を乗り出そうとしたところ、どういうわけか身体が空を滑るように浮かんだまま動いた。
近くで見ると海に立つ人影は白いゆったりとしたローブを纏った中性的な顔立ちの人物で、その視線は海の中に向けられていた。何かあるのか?
「-。…すまない…」
最後だけ聞き取れた言葉、なにに謝ったのか。
「待って!おーさま」
「おーさま、行っちゃダメ…!」
途端に周りから溢れる声。リンリンという鈴の音と共に、前と同じようにおーさまを引き留めようとする声が響く。
だが、その声も虚しく白いローブの人影は海にゆっくりと沈んでいく。自らそう選んだかのように、抗うこともなく。
「おーさま、行っちゃった」
「おーさま、帰ってきて」
しばらくリンリンと嘆く声が聞こえていたが、やがてその声も途絶えた頃、海中からぷかりぷかりと黄色がかった光が浮かんできた。見るだけで暖かさを感じる光。よく見るとほおずきのような形をしている。海面まで達したそれはぱちりと小さな音を立てて弾けると中から小さな光の粒を吐き出して消えた。まるで光の粒が空に向かって旅立つような不思議な光景だった。
「…おーさまの力が…。伝えなくちゃ…誰かに、このことを…」
そんな声を聞いた気がした途端、陸の方に吸い込まれるような浮遊感の中、シオンはまた意識を手放した。
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