海辺の街メル
馬車なら1週間はかかりそうな道のりを、たった半日で移動したドラゴンは疲れも見せずに荷下ろしをする広場に向かって行った。広場は街外れの開けたところになるので俺たちは先に街の入り口に下ろしてもらったのだ。
「いやぁ、ちょっと僕まだ脚が震えてるんですけれど」
「あ?それならあんたは予定通り広場まで行けばよかったんじゃ?」
「いやはや、まさか低空飛行の時にとは言え、空中から飛び降りるとは予想外でしたもので…。それにシオンさんメルは初めてでしょう?また迷子になられても心配ですし」
生まれたての子鹿よろしく脚をぷるぷる震わせながらも懸命についてこようとする腹黒神官を振り返る。やっぱこいつ変なとこで根性あんだよな。
「…ちょっと待て、またってなんだ?俺は迷子になった覚えはねぇが?」
「おや、そうでしたか?確か石像さんになられているときは迷子だったかと」
…そういや、初めて会った時に俺を石像さんと呼ぶわ迷子と勘違いするわで好き勝手してたなこいつ。
「…まぁ、真偽はどうあれ、無茶までして心配してくれてありがとな」
驚いたようにくりんとココア色の瞳が回る。やっぱり失礼なやつだ。
まぁ、いい。飛び降りてまで時間短縮をしたのは、少しでも早く目的を果たすため。
「なんにせよ、やっと海辺に着いたんだ、早いとこ-」
ぱちりと神官と目が合う。こいつとハモる日が来るとは、と思いながら続きを口にする。
「肉を食いに行く」
「異変の詳細を聞きに行きましょう」
全くハモらなかった。
「え、に、肉ですか?もうお腹空きました?」
「なんでだよ、腹が減っては戦はできぬというくらいだし肉が先だろ」
なおもなにか言い募る腹黒神官を置いて肉を焼く香ばしい匂いを頼りに街を進んでいく。塩っぽい匂いも混ざっているのは海鮮も焼いているのか。想像して溢れてくる涎を拭いながらシオンは足が速まるのを止められなかった。
♢♦︎♢♦︎♢
「あれ、が、学者センセ?!ど、どうしたんだ?」
満腹になるまで港のあたりでBBQを堪能している頃、大まかな荷下ろしは終わったらしきラリマーが街中への届け物なのか複数の箱を運びながら通り過ぎた。と、思ったらテーブルに伏してるアイオに驚いたように戻ってきた。
「すまねぇ、大丈夫か?アタシとしたことが街中だし、シオンも一緒だからと安心しきっちまってた」
「あ、あぁ、ラリマーさん。…大丈夫ですよ。ちょっと自由落下のあとに…シオンさんを追いかけるためにダッシュするなんて…思ってなかったもので…」
息も絶え絶えに伏していた顔をあげてラリマーを見つめるアイオに、至近距離で目が合ってしまったラリマーはいつも以上にわたわたと慌てた。
「お、おいシオン、一体何があったんだ?というかあんたがついていながらそんなに学者センセがダウンしてるんだ?」
「あー、ちょっと肉を食いに急いだだけなんだが…」
「に、肉を食いに?あ!あんたまさか、学者センセまで巻き込んで入り口で飛び降りたのって…!」
なにか察したかのように目を吊り上げシオンを見るラリマーから視線を逸らしつつ頷く。いや、そもそも別に俺1人で降りるつもりだったし腹黒神官を連れて行くつもりはなかったんだが。
「…シオンさんは、ブレませんよねぇ、本当に」
苦笑しながら突っ伏していたテーブルから身を起こす腹黒神官に気を取られてラリマーの追及が止まる。助かった。
「だ、大丈夫か?学者センセ」
「ありがとうございます、ラリマーさん。僕なら大丈夫ですよ。荷運びの途中なのに気にしていただいちゃってすみません」
「い、いいってことよ!この荷物で最後だし、予定時刻より前には終わるんだ」
結構な量の荷物を輸送してきたはずだが、予定時刻前に全部捌くあたり優秀な運び屋なんだろうな。たまに出るどもりと挙動不審が残念なだけで。
ラリマーが最後の荷物を届けるために立ち去ったので、その間に最後の一串を堪能しておこうとグリルに手を伸ばす。ついでに席に戻りしな水のグラスをもらっていく。
「ほらよ、あの様子じゃラリマーはすぐ戻ってくんだろうから、今のうちに少し飲んどけ」
ココア色の瞳をぱちくりさせながらアイオは差し出された水を見つめると、ふにゃりと笑って口をつけた。
♢♦︎♢♦︎♢
「ラリマーさん、お疲れ様です」
荷運びを終えたラリマーがシオンたちのテーブルに駆け寄ってくるのを見つけて、アイオが席を立って応じた。途端また挙動不審になるラリマー。本当になにがあったんやら。
「あ、そうだ、シオン。荷運びついでに聞いた程度だけど、ここらの商人たちも最近は魔物が増えたから護衛を増やさないといけないことがあるってぼやいてたよ」
ハイペースに荷運びをこなしながら情報交換までしてきていたとは、本当に優秀な運び屋だと思う。挙動不審だけど。
「…南部の薬草の不足は、魔物が増えたことで怪我を負う人が増えて使用量が増えたからかもしれませんね」
「大樹の減少、魔物の増加…なんかつながりがあんのかな…」
ごくシンプルに考えるなら、精霊王の恩寵が減少、その結果その実りである大樹が減り、加護が減ることで魔物の被害が増えた、と言うことになるかもしれない。だが、あり得るのだろうか、精霊王の恩寵が失われるということが…。
おそらく同じことに思い至ったと思しき2人とも視線を合わせ、考え込む。いったい、何が起きているんだ。
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