異変
ばさり。大きな翼がはためいて眼下の景色が小さくなる。
「ふわぁ、久しぶりに乗せていただきましたが、ラリマーさんの空の旅は気持ちがいいですねぇ」
「そ、そ、そう言ってもらえると、う、嬉しいな」
どもるのはいいが、頼むからその度に変な揺れ方すんのはやめてくれ。荷物が落ちないよう風魔法で防壁を作りつつ内心でぼやく。
「あ、ほらほらシオンさん、見てください。街が小さくなってきましたよ。あの北側に広がっている森がシオンさんのおうちのあるあたりですか?」
「あぁ、あの一際緑が濃いあたりが俺たちの村だ。狩人は自然の恵みを分けていただいて生活してるからな、精霊王の加護を受けた大樹の周りに住むことが多いんだ」
精霊王の恩寵が多いところは緑が濃くなる。緑が濃いところは植物の実りが豊富で、実り多いところには動物が集まる。そういった場所の豊かな恵みを分けていただくことで狩人も生活を営む。
「狩人さんたちの村同士の交流とかもあるんですか?」
「そうだなぁ…そんなに多くはないが、なくはないぞ。たまに冒険者になって旅する時に拠点代わりに他の村に滞在することもあるから、そういうときに情報交換があるんだ」
「へぇ、狩人さんは冒険者になることもあるのですね」
「あぁ、他の地域で獲れる獲物が欲しい時とかな」
「…獲物、ですか?」
「あぁ、俺は肉が好きだから森から出る必要を感じなかったんでならなかったが、魚も食いたいって冒険者になったやつはいたな」
「…な、なるほど。お食事事情もあるのですね」
肉の話してたら腹減ってきたな。地上に降りたら肉を食おう。街に万一なくても持ってきた干し肉を炙って食おう。そう考えて口に広がるよだれを飲み込む。
「なぁ、狩人たちはお互いの村がどこにあるかはどう探してるんだ?」
それまで黙っていたラリマーが不意に問いかけた。
「アタシなら、こう空から見た時に緑の濃いあたりに村があんのかなってわかるけど、狩人たちが冒険者になるときは徒歩だろう?」
「あぁ、それなら、森に入った時にわかるぞ?」
「「…?」」
俺の言葉に仲良く首を傾げる2人、いや、今は1人と1匹か。
「森に入った時に、生き物の気配とか水の流れとか、実りを感じる気配が濃い方に進めば大抵村があるからな。森に入っても実りが少なそうならその森には多分村はないだろうってわかるぞ」
「…ラリマーさん、僕は冒険者ランクも低くて気配を感じ取れていないのかもしれませんが、高ランクの方はわかるのですか?」
「…近づけば生き物の気配はわかるけど…森に入った時点でってのは無理だな」
いや、揃って俺を不思議そうに見つめんな。
「狩人さんは、察知能力が高いんですね」
「まぁ、確かにシオンは肉に敏感そうだな…」
そして揃ってなんか納得した顔すんな。
「…でもまぁ、普段はわかるだけのものが、こうして見えるのはなんか新鮮だな。ありがとな、ラリマー」
「へへ、そう言ってもらえると運び屋冥利に尽きるな」
♢♦︎♢♦︎♢
南方への空の旅で、しばらく各々眼下の景色を眺めていたが、ふと異変を感じてそちらに注意を向ける。
「…なぁ、このあたりは元々こんなに大樹が少ないのか?」
「え?」
出発したあたりに比べて、森はあるのに大樹がありそうな緑の濃いエリアが少なくなっている気がする。
「…いや…、普段はそんなことなかったと思う」
大樹が減る、そんなことがあるのだろうか。この世界全体を包む精霊王の加護の象徴とも言える大樹が。
「…関係があるのかはわかりませんが、そういえば先日別支部の神殿から薬草が不足しているというので輸送依頼が来ていました。それが確か、ここよりもう少し南の地域だったと思います」
薬草は比較的強い植物で、幅払い気候帯で生育する。それが足りなくなるというのは、なんらかの原因で生育が阻害されたか、使用量が増えたかだろうか。
「…アタシが南部にいたのは3ヶ月くらい前だが、そんときは薬草も普通に売ってたし森も緑に繁ってたはずだ」
大陸の東西南北を周回しているラリマーは各季節一度ずつはそれぞれのエリアを回るという。その前回の滞在時にはなかった異変が、たった3ヶ月でここまで進むとは自然現象としては考えにくい。
「…なにか、南部で起きているのかもしれないですね。メルに着いたら神殿で他支部の状況も聞いてみます」
「あぁ、アタシも馴染みの商人達に聞いてみる。商隊組んであちこち移動してる人たちもいるから、なんか知ってるかもしれない」
ひとまずここでは情報が足りないということで、今回の目的地である海辺の街、文脈からおそらくメルというらしい、に着いてからそれぞれが情報収集をすることになった。
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