Bランク試験7 〜夜〜
シオンが思いの外あっさり課題クリアしてしまったので、試験の残り時間は他の皆様のご様子でもお届けします。
魔法は使えるとはいえ、魔導士と並んで魔法役をやるほどの素養はない。が、アサヒは見た通りの物理攻撃型でサクラもそうだというのだから消去法で自分が魔法役になるのは仕方なかった。まぁ、狩人仲間でも魔法が使えるというこの血の恩恵で便利に使われることは多かったから、これもある意味いつも通りか。
祖先の中には複合魔法を使いこなす魔法剣士もいたと聞くが、残念ながら魔法の鍛錬を日々していたわけではないシオンには単属性を操るのが関の山だ。そのあたりを考慮してか、はたまた単に元の役割通りなだけか、火事を防ぐために出力調整が必要な火魔法はウイが担当、物理破壊を助けるための凍結はシオンが担当と決まった。
作戦開始当初は問題なく各自役割をこなしていた。それが乱れたのはうさ耳が見えてからだ。どうやらウイを狙っているらしく、ウイの背後から出て来た。あのイチゴうさぎ、穴うさぎだったんだな。それに普段草食のうさぎが他種を狙うところなど見ないから新鮮な感じだ。
と、見ている間にウイが倒れた。鮮やかな手並だ。やはりうさぎはうさぎでも獣の魔族といったところか。
そしてそそくさと巣穴に戻ろうとするうさぎ。だが、やはり狩に慣れてなかったのだろう。狩りでは、自分が狩る瞬間こそがもっとも狩られる危険があるという基礎を理解できていなかったようだ。無防備すぎる後ろ姿に麻痺毒を塗った矢を射かけたら、すんなり倒せてしまった。なんか、すまん。
♢♦︎♢♦︎♢
「じゃぁな」
「野営をするなら共同戦線を継続してもいいが、行くのか?」
「あぁ、1人での野営にも慣れてるし、そもそもあんたらといるとかえって奇襲への警戒も必要になるから1人の方が気楽だしな」
「む、読まれていたか」
「…むしろ隠す気があったのか…」
無事にオレンジスライム討伐も済ませ、晴れて課題を全てクリアしたシオンは臨時で組んだアサヒのパーティに別れを告げる。バレバレの目論見を指摘されて不服そうにするアサヒにひらりと手を振ると森の中へと向かう。課題はクリアしたのであとは奇襲を凌ぐだけ、とはいえ奇襲してくる相手もわかっているので正直あとは試験の期限である明後日の朝まで静かに過ごすだけだ。
昔から森の中、というか植物のあるところは落ち着く。祖先に樹の魔族のハーフがいたというからその影響なのだろうか。
森の中の開けたところに野営を展開してもいいが、アサヒの様子からしたら今夜にでもまた奇襲をしてくるかもしれない。正直いちいちちょっかい出されるのも面倒だ。魔法が使えない相手には高所で野営しておくか。そう考えてふわりと良さげな木に登る。狼の群れがいる森での野営なんかではこうしたなぁ、と懐かしみながら器用に寝袋をミノムシのように枝に吊るす。さて、携帯食かじったら寝るか。肉を食べたいが流石に野営で肉を焼くと目立つので自粛する。街に帰ったら肉を食おう、そう心に決めるシオンだった。
♢♦︎♢♦︎♢
音もなく闇を滑る。日が暮れると一気に森の中は暗くなった。
先ほど少年が森に入ってきたが早々に寝支度を整えていた。見たところ人族のようだったからおそらく周りが見えるうちにと言うことだろう。まだ年端もいかない少年に見えたが森での生活に慣れているようだった。
試験期間は短くはない。多くの種族が活動している日中はそれぞれが採取、討伐、奇襲試験に忙しくしているのだろうが、夜は休む者が増える時間だ。むしろ、ここで休めない者はこの試験を制することはできない。途中で脱落するのが目に見えている。そう、夜を統べる種以外ならば。
標的が人族だったなら寝ているところを奇襲するというつまらん試験になるところだった。
森の中を見回りながら進む。かれこれ2組はテントを立てて野営しているのを見かけた。パーティでいることの強みを活かして見張りは立てているようだったが、それでも時間によっては面白みのない奇襲になるだろう。他には洞窟を見つけてうまく身を隠しながら野営している者や、森の外周の方に向かった者もいた。だが探している標的はまだ見かけていない。
相手も夜の種族であるから、きっと己の狩をすべく動いているのだろう。活きのいい獲物はそそられる。思わず舌なめずりをする。やはり夜は我が時間、高揚感が止められない。
パンっ!
破裂音がした方を振り向く。同時ににぎゃっ!と変な声も聞こえた。この時間帯に戦闘しているのなら標的の可能性が高いが…低級のアクアポーキュポンに手こずるようなやつなのか、と正直残念な気持ちになる。
♢♦︎♢♦︎♢
「び、びびったぁ。なんだこのフグ!破裂するにゃんて聞いてないんだぁ」
驚かされた腹いせにぶつぶつ言い続けながら周りを再度探る。破裂音と衝撃波に紛れて逃げたのは見えていた。
程なく、そう遠くないところを萎んだまま一生懸命に進むフグ、もといハリセンボンを見つけた。
「よくもさっきは驚かせてくれたなぁ」
子猫特有の遊びたがりで、てしてしっとアクアポーキュポンをはたく。…なんか楽しくなってきた。
てしっ、ぽて。てしっ、ぽて。
はたき落とす度に地面に落ちるハリセンボン。そしてまた浮遊を始めるとはたき落とす。楽しく繰り返しているうちに力尽きたのかぽてん、と地に伏せるアクアポーキュポン。どうやら討伐できてしまったようだ。っと、討伐できていいのだ。危ない、当初の目的を見失うとこだった。
よし、試験順調。次はピルリーフだ。うーんとくさい、と言ってた。臭い草を探せばいいだろう。
ふんふん臭いを嗅ぎながらあちこちの草むらに顔を突っ込む。うーん、特別臭いのはなさそう。場所を変えてまたふんふん。
しばらく嗅ぎ回ったが、この辺には生えてなかったのか特に臭いと思う草はなかった。明日あたり誰か持ってる人に見せてもらおうかな。でも昼間は眠いんだよなぁ…。
「!」
そんなことを考えていたら、突如背後の木の上から害意を感じて飛び退く。全身の毛がざわざわする。怖いやつだ。
「…誰?ルゥを狙う?」
こちらを見下ろす金色の瞳が夜の闇にとても綺麗だった。
「そうだな、お前が我がターゲットだ」
「にゃ?!言ったら奇襲にならにゃいな!」
「そうだな」
え、ちょっとよくわかりません。奇襲試験じゃにゃかったか?
困惑する子猫を静かに見下ろす金眼の少年がふわりと地面に舞い降りた。
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