シオン
「あの、ウサギが逃げてしまったことは申し訳ありませんでした。ですが…ええと、どうして服も着ずに身体に泥を塗ってそんなところにいるのか気になってしまって…」
アイオが不貞腐れて座り込むシオンを眺めながら疑問に思っていたことを口にする。
「何いってんだ、石像が服着てたら偽物臭いだろ」
「…」
じろりと振り返りながらアイオを睨み付けて、当然のことのように答えるシオン。
確かにシオンが陣取っている位置には古ぼけた石像が並んでいる。言われてみるとシオンが身体に塗りたくっている泥はその石像たちと同じような色味になっていた。
「…確かに、服を着ている石像は並んでませんねぇ」
どこかのんびりと聞こえる口調に気が抜けるが、納得してくれたなら良かった、これで静かになるだろう。
「それで、石像さんはここで何をしていたのですか?」
「は?!」
石像さんてなんだ、俺のことか??
「…お前は俺が石像に見えるのか?」
「え?…いえ、そこまでではありませんが、先ほどあなたが石像が服を着ていたら偽物臭いとおっしゃっていたので石像なのかと思いまして」
え、なにこいつ?変なやつなの?いや、変なやつだな。うん、間違いない。
「…」
変なやつに関わってはいけません。俺のじっちゃんも言ってた、じっちゃん覚えてないけど。
物心着く頃には親はいなかった。父さんは何か大きな戦いに駆り出されて帰らなかった騎士だと聞いている。母さんは父さんを見送りに行って戦いに巻き込まれたらしい。だから俺は本当に血の繋がった家族は知らない。形見だと教わった、代々伝わる木の葉を模したペンダントだけが俺に残されたもの。幼くして孤児になった俺は、森とそこに住む狩人に育てられた。
森では狩猟採集の日々だ。獲物が取れなければ果実やキノコを食べて凌ぎ、獲物を仕留めれば肉にありつける。狩人のおっちゃんに拾われてから始めた弓は自分で言うのもなんだが、才能があったのかめきめき上達して今では狩人仲間一の腕前になった。
だのに、なんなんだ今日は。この変なやつのせいでせっかくの肉チャンスを逃してしまった。元々いた森と違って街に近いこのあたりにはなかなか大きな獲物がいない。そのせいでもう2週間も肉を食っていない。育ち盛りの男子にはきつい仕打ちだ。
考えていたことが漏れていたのか、「肉、肉、肉…」と呟く俺を覗き込んで変な神官は首を傾げながら問いかけてきた。曰く、
「肉を探していたら迷子になっちゃったんですか?」
「……は?」
「肉、と呟いていたのでお肉を探しているのかと」
あぁ、まあ探してるのはあってる、あんたのせいで逃げられたけど。そこはいいとして…
「…迷子ってなんだ」
「え?!迷子、ご存知ないですか?帰り道がわからなくて泣く子猫の有名な歌があるんですが」
「そう言う意味じゃねぇぇぇ!」
いちいち変なやつだ。やっぱり関わっちゃいけないやつなんだ。
「俺は迷子じゃねぇ。誰かが呼んでるからそれを探しにきたんだ」
「…」
え、なんか変なやつに沈黙されると俺が変なやつみたいに見えるからやめて欲しい。
「…神はどんな夢でもきっと応援してくださいます」
にっこりと神官スマイルらしきものを浮かべて変な神官が祈りのポーズを取る。
「取り急ぎ今夜寝るところがないようでしたら神殿に宿泊されますか?」
かつては人間界と魔界に分かれていたと言う世界は今や一続きになり、魔族も人族も自由に行き来できるようになった。だが、意思疎通のできる魔族と違って知性のない魔物は誰彼構わず襲うので生活を守るためにも適度に駆除がいる。その駆除の依頼の受付や対応を町村の教会が担当していて、依頼を受けてくれる冒険者たちに宿泊や食事も提供しているのだ。
だから宿泊環境は悪くないだろう。この、変な神官に誘われたと言う部分さえなければ…。シオンはどうすべきか空を見上げた。
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