Bランク試験5 〜過去と今〜
アクアポーキュポンは水辺であれば割とすぐ沸くようで、程なく次の個体が見つかった。それ以外にも少し離れたところで戦闘音が複数聞こえてきていたし、おそらく他の受験生たちも水場に辿り着いて戦闘開始したのだろう。果たして最初に討伐成功するのは誰なのか。
「出たなっ!」
早速大声でのヘイト稼ぎなのか、リーダーがアクアポーキュポンを見つけるや否や叫ぶ。まぁ、これでうちのチームが戦闘していると他のチームにアピールもできるから獲物の取り合いにならずにも済むな。
「うぉぉりゃぁぁ!」
ぶおんぶおん音がしそうな勢いで大剣を振り回す。それで姿勢がブレないんだから体幹を相当鍛えているのだろう。その様子を横目にシオンとサクラがそれぞれアクアポーキュポンの左右に分かれて突き刺し攻撃を開始する。少し遅れて詠唱が終わったのだろうウイの氷柱が飛んでくるのでタイミングを合わせて攻撃待機。
よく見るともう膨張が始まったのか、氷柱が終わった後の攻撃再開の時には少し攻撃位置が下側にずらされた気がする。しかもでかいハリセンボンの体型故に少しズレたくらいではよく見ないとわからない。なんせ目の前に広がるのは魚の表皮とそこから無数に生えてるハリ、ハリ、ハリ。そうか、このせいで同部位への蓄積ダメージも見込みにくかったのか、と敵ながら感心する。
それならば、と敢えて少し下側を狙って攻撃を重ねる。氷柱待機のあとは少しだけ攻撃位置を上目に修正。
「サクラ!同じ部位を狙えるように攻撃位置をずらせるか?」
シオンの僅かな、それでいて重要な動きの変化に気づいたのかアサヒがサクラに指示を飛ばす。ヘイト稼ぎしながらよく見てる。
「はい!できる限りはそうします!」
ハリをかわしつつ弾かれない位置を狙って攻撃を当てる必要があるためピンポイントに毎回同じ位置を突くのは難易度が高くなる。だが、同部位攻撃を優先したせいで被ダメージが増えては意味がないのでできる限り同部位を攻撃するというのが現実的なところだろう。
しばらく同じことを繰り返す。
やがて、同部位狙いが奏功したか、膨張はしたものの爆発する前にふしゅぅーと空気が抜けて萎んでいくアクアポーキュポン。こいつ討伐すると萎むのか。討伐証明は本体ってことだったが、チームで討伐した場合は切り身でもいいんかな。萎んでいく敵を眺めながら考えていたところ、不意に気配を感じて剣を構える。
ギィンっ
先ほどまでシオンの側頭部があったあたりを通り過ぎる大剣は、行き先をシオンの剣で封じられて動きを止める。
「リーダー?!」
「一体何を?!」
状況に驚いたウイとサクラが口々に叫ぶ。その頃にはアクアポーキュポンはその空気を吐き終わりぽてりと地面に落ちていた。
「…おい、一撃死はダメだって言われてたろ?」
この状況を想定していなかったわけではない。もともと3人で組んでたリーダー、ウイ、サクラは流石に奇襲対象同士ではないと思ったが、たまたま共同戦線となったシオンはその限りではない。
「一撃死になるとは思わなかったしな、安心して剣を振らせてもらった」
「いや、そこ安心するとこじゃねぇだろ…」
なんだこいつ、あれか、暑苦しいだけじゃなくてバトル大好き戦闘狂ってやつか?面倒なのに狙われたようだ。
「あのヴァーダイトの者と手合わせできるなど、なんという僥倖!」
ぁー、そういうことか。そういえば奇襲対象は名前がフルネームで載っていた。積極的に名乗らなかったとしても自分をターゲットにする奇襲者には知られるということか。
「…随分昔の名を知ってるんだな」
「謙遜するな。人魔界統合を成し遂げたセラン=ヴァーダイト以前も王国の騎士団長を歴任してきた魔法剣士の血筋。俺の不意打ちありの傭兵戦法がどこまでその王道剣術に通じるのか、機会があれば試してみたいと願っていた。そうしたところで受け取った紙にヴァーダイトの名を見た時には感動に震えたぞ、シオン」
アサヒが目を爛々とさせて興奮した様子で告げる。
「…悪いが、ヴァーダイトの正攻法を期待してるなら俺にはないぞ。俺は小さい頃に両親を亡くしているから武術はヴァーダイトで習ったわけじゃないからな」
「む、それはすまない。だが、そうだとしてもお前の状況判断、実行力は流石ヴァーダイトと思わせるものだ。そんなお前の本気と戦ってみたい!」
「…奇襲試験になってねぇな」
「む?それもそうだな、はっはっは、初撃を防がれた時点でもう奇襲は無理だしな、かまわんさ」
まぁ、それもそうだな。それに、これだけまっすぐにアツくぶつかってきている漢を無下にするのも気が引ける。それにアサヒが望んでいるヴァーダイトとしての剣術は実父から習ってはいる。その後引き取ってくれた養父に習ったのは剣以外の武術だから、純粋に剣術試合として考えればある程度は叶えてやれるかもしれない。
「…いくぞ」
「胸をお借りする、来いっ!」
キンキンとしばらくはお互いを探るかのように打ち合いを続ける。
ある程度打ち合ってから急激に加速、踏み込みと同時に風魔法で後押しして斬り込む。だがこのスピードの乗った攻撃も大剣でうまいこと弾かれた。型通りではない、実戦の剣術。
「流石、速さも重さもあるとは。その年でこの攻撃の重さを出してくるとは、な!」
弾かれると同時にタイミングを合わせて後ろに飛ぶ。予想外に抵抗を失ったアサヒの身体が前にバランスを崩す。その隙に側面に回り込んで左手で切り掛かる。
パキィン
「む?!」
氷で作った剣が大剣に当たって砕ける。本命の右手の剣はそのままアサヒの脚を狙う。
「くっ」
避けようと器用に身を捻るがかわしきれずシオンの剣がアサヒの脚をかすめる。
「左手だとは気づいたが…うまいこと翻弄されたな」
混戦経験の多い傭兵だからこそ、違和感があれど武器が自分に迫っていれば思わず反応すると思っていた。それが例え、見た目だけの武器であったとしても。
「…悪いな、剣術そのものは過去に実父に習ったから確かにヴァーダイトのものだが」
自身の剣を握る右手を見つめながら続ける。
「今の俺は、狩人としてのシオンなんだ」
騎士団のお綺麗な剣術とはまた違う、どちらかというと傭兵のアサヒの戦い方に近い狩人としての戦術。
「いや、わざわざ俺に合わせてくれて感謝する。夢が叶ったよ、ありがとうな、シオン」
手早く脚の傷を手当して立ち上がると握手を求めてきた。暑苦しいけど、いいやつなんだろう、きっと。
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