Bランク試験4 〜アツイ戦い〜
湿った土特有の匂いを嗅ぎながら森の奥へと歩を進める。アクアポーキュポンについては知らないが魚という以上流石に水の中にいるだろうからとりあえず水の気配を辿って進んでいけば手がかりくらいは見つかるのではないかと思う。これで水辺にいなかったら詐欺だな。
不意に水の匂いが強くなる。見回すと、どうやらこの辺りは地下水が流れているのか一部地表に滲み出ていた。この分なら近くに川ないし湖があるかもしれない。そこにアクアポーキュポンがいればいいけど。
と、より水の匂いのする方に進む前にしゃがみ込む。
「頂戴します」
ピルリーフが生えていたのでまずはこちらをクリアにするべく3枚葉を失敬する。1枚は未知の敵に挑む以上、念のため応急処置用に持っておくことにした。
採取試験課題をクリアすると改めて森の奥に進む。進むにつれて足元から聞こえる音がカサカサからびちゃびちゃという水を含んだものに変わっていく。それに、複数の気配を感じる。先程までは少し離れて気配があるだけだったが、これは…
キィン!
硬質な音が響き、戦闘音が響き始める。誰かが何かと戦い始めたようだ。エリア的にアクアポーキュポンが出たか?戦闘開始ということは先を越されてしまったか。
音のする方へと駆けていく。しばらく走ると、湖とその上に浮かんでいる大きなハリセンボンが見えた。
とりあえず、まずは一言。魚は空に浮かばねぇんだよ…。
一人ツッコミを入れながら状況を見る。見上げるほどもある大きなアクアポーキュポンと、対峙する3人組。あの暑苦しい傭兵リーダーと魔導士男と女剣士だ。
「おぉりゃぁぁ!」
バカでかい掛け声でこれまたバカでかい大剣を振りかぶってアクアポーキュポンに突っ込んでいくリーダー。同時に女剣士は対象の左側面に回り込みハリの隙間を狙うように突き刺し攻撃を繰り返す。正直ハリセンボン相手であることを考えると、薙ぎ払い攻撃の大半がハリで受けられてしまうリーダーより女剣士の方が本体にダメージを与えられている気がする。
わずかに送れる形で、少し離れた位置に控えていた魔導士が細い氷柱を生み出しアクアポーキュポンに突き刺す。こちらもうまくハリを回避して本体にダメージを与えているようだ。
「だぁぁりゃぁぁぁ」
またバカでかい掛け声と共にリーダーが大剣を振り回す。一瞬魔導士に移りそうになっていた相手の攻撃がまたリーダーの方に向く。なるほどどうやら、あのリーダーの派手なだけで大して効いてない攻撃はそもそも攻撃目的ではなくヘイト稼ぎということか。確かに3人の中だと盾役に一番向いているのはリーダーかもしれない。
しばらくリーダーの雄叫び、女剣士の突き刺し、魔導士の氷柱攻撃が続く。ペースは速くはないものの、着実にはダメージを与えているようだ。
そこでふと違和感を感じて目を凝らす。なにかがおかしい。
「どぅりゃせぇぇぇ」
いや、まあリーダーの掛け声がおかしいとかそういう話ではなくて、もっと違う何か…。
回り込む女剣士がハリセンボンの左下方からハリの隙間を狙うように突き刺す。
「!おいっ…」
シオンが言葉を紡ぎ始めた瞬間、アクアポーキュポンが膨らんだ気がした。嫌な予感がして風魔法で盾を形作った途端、パンっという破裂音に一瞬遅れる形で爆風と共に無数のハリが一斉に飛んできた。
「うぅ…」
「無事か?」
「あ、あぁ、すまない。ええと、シオン少年、だったか。助かった、ありがとう」
シオン少年と名乗った記憶もないが今はいい。魔法が届く範囲にいた魔導士も守るように展開したシオンの風魔法の中で魔導士の無事を確認する。破裂の瞬間の閃光で目をやられたのか見えにくそうにしている以外は問題なさそうだ。
「…くっ…、まさか、爆発するとはな…」
リーダーも大剣で自身を守ったようで手脚にかなりの数の傷はあるものの致命傷は受けていないようだった。流石傭兵団の団長をしていただけのことはある、あれだけ近くでの爆発でもうまく凌ぐとは。
「あ、あれ、私、いったい…」
シオンの後方から、先程までアクアポーキュポンに肉薄していた女剣士の声がした。
「いやー、危なかったね?サクラさんは残念ながら減点だよ?」
見ると、先程まで女剣士がいたところに転がっていた木彫りのリスが地面からむくりと起き上がっている。ハリを身体に突き刺したまま。
「…いや、減点で済んでよかった、と言うべきでしょうね。ありがとう、リスさん。助けてくれたのよね」
状況を察したようにサクラがリスに礼を言う。そういえば致命傷は木彫りの動物が身代わりになるとか話しているやつらがいたな。これのことか。確かにサクラがあのままあの場所にいたらハリが刺さって死んでいたかもしれない。
「うんうん、いいんだよ。これはあくまでも試験だから。本番ではこうはいかないから、しっかり初見の敵でも生き残れるように訓練してね」
ハリが貫通した状態で何事もないように喋るリス、というのはなんともシュールだ。まあ、刺さってるのは木彫りのリスだから傀儡師にはそもそもダメージはないんだろうしホントに何事もないんだろうけど。
「ええ、ありがとう。リーダー、私は多分合格にはならないと思うけど、最後まで挑戦はしたいの」
サクラが今度はリーダーに向かって告げる。
「うむ、その意気やよし。もちろんやる気がある者は歓迎しよう」
「サクラさん、大丈夫っすか?」
「ありがとう。えぇ、リスさんが身代わりの術を使ってくれたから私自身は無傷よ」
うまく話がまとまったようだ。こっちもしてもアクアポーキュポン戦は時間をかけると破裂するという情報を知れたのは幸運だった。さて、どう倒すか…。
「シオン、俺たちと共同戦線といかねぇか?」
どう倒すか考えていたら突然勧誘された。
「さっきもウイをとっさに守ってくれた判断力に反応速度、それに単独ってことはそれなりに戦闘できる自信もあるんだろう?だが今回は制限時間もある試験だ、力を合わせることで成功率を上げるのもありだと思わんか?」
「…」
「図らずも、チームになることがあればよろしく頼む、と言っていた通りになったな、これぞ女神の導きか、はっはっは」
やっぱ暑苦しい。だがまぁ、奴の策に乗ってやるのも悪くはないか。
「…戦士のシオンだ。一時にはなるが、よろしくな」
「サクラよ。見ての通り剣士をしてるわ」
「ウイっす。魔導士で氷が特に得意っす」
「改めて、このチームのリーダーをさせてもらってる、アサヒだ。よろしくな、シオン。熱い戦いといこうじゃないか」
熱いのはあんた一人で十分だ。そう思いながらもシオンは3人組と次のアクアポーキュポン探しに向かうのだった。
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