Bランク試験1 〜試験開始〜
更新遅くなってすみません、いよいよシオンの試験開始になります、よろしくお願いします!
「…」
ゴーゴーと風が渦巻く音は聞こえるが風圧は感じない。乗り心地と安全への配慮は流石運び屋といったところだろう。おかげで隣に乗ってる毛玉が転がっていくこともない。
「も?乱暴オトコなのになんかおとなしいも。ひょっとして〜怖いも?なーんて」
「…」
毛玉のふざけた煽りに返すこともなく黙りこくるシオン。
俺は狩人だ。もちろん獲物を狩る時に木の上に潜伏したりなんなら木から木へ移動することだってある。風魔法を使って滑空の真似事をすることだってなくはない。が、この高さは人生初だ。万一落ちたら俺の風魔法では衝撃を相殺しきれないかもしれない。試験会場に辿り着くのも試験の一部なのにそこを依頼で済ますのはどうなのか、と言ったがそんなことはなかった。これは、充分に試験だ。
「…仕方ないもねー」
唐突にもこもこと形を変え始める毛玉。流石に気になって目線がそっちに動く。見ているうちにもこもこの座椅子ができた。おい、質量保存どうなってんだ。
「ほら、ここに座るといいも」
もはやもこもこすぎてどこが顔かわからない毛玉、もとい毛椅子がもふんもふんと揺れる。いや、まあちょっとそこまで動くのも一苦労なんだが…。とか考えていたら焦れたのかにょにょっと腕みたいに毛が伸びてきてシオンを巻きとる。悲鳴は必死に飲み込んだものの身体が強張るのは止められない。
「ほら、もふもふだも」
耳元から声がする。どうやら顔は座椅子の上の方にあるようだ。身体の後ろ半分はしっかりと埋もれるおかげで安定性は抜群だ。正直、ちょっと落ち着いた。癪だから言わないけど。
「悪いな、2人とも。着くまでまだしばらくはかかるが、途中休憩も入れるからな」
背中の上でのやり取りを聞いていたらしいラリマーが声をかける。当初ほどの怖さは無くなった空の旅をやっと楽しみ始めながら、3人は空に浮かぶ島へ向かう。
♢♦︎♢♦︎♢
「ようこそ、Bランク試験会場へ」
喋る木彫りのキツネに歓迎される形で、試験会場に到着した。流石運び屋、きっちり安全に空の上の島までシオンを導くとふわりと雲を模した島に降り立つ。ドラゴンが乗れるほど広い島とは…こんなものが空にあるのに気づかないものかと不思議になるな。
「じゃぁな、シオン。頑張って来いよ。アタシは一旦地上に戻るが、また帰りには迎えに来るから待っててくれ」
「おぉ、すまん、それは助かる」
正直ここから帰る時どうするかは決まっていなかったのでラリマーの申し出はありがたい。
「…毛玉もありがとな」
「も!帰りももこもこ椅子に座って帰るといいも!だから安心して試験がんばるんだも!」
試験中に帰り道の心配して試験に集中できないなんてこともないと思うが、毛玉の応援がおかしくて笑みが浮かぶ。こいつらなりにリラックスさせようとしてくれてるんだろう。会ってまだ短時間だが、いい奴らなのはわかる。
2人に見送られて受験生が集まるエリアに移動する。しかしこの案内役の木彫りのキツネはなんなんだ。よく見ると他にも木彫りのクマやらタヌキやらなんか色々いる。どうやら運営側に傀儡師がいるのだろうが、これだけの数1人で操っているのなら相当な魔力だ。
まだ試験はすぐには始まらなさそうなので、ちょっと周りを見て回る。雲に擬態しているとはいえ島ということで今いる広場のようなエリアの奥には森のようなエリアが広がっている。まぁ、こんな広場で奇襲試験とか言われても困るしな。そういえば奇襲試験の組み合わせはいつ決まるのだろう。そんなことを思いながら参加者を見回す。獲物を手に持つ者もいるが、半分以上は収納魔法に入れているのか獲物がわからない者が多い。かくいう俺も収納していて手ぶらだ。奇襲するのに手の内がバレててもよくないだろうしな。そういう意味では魔法主体の受験生は不利かもしれないと思う。服装からしてローブで魔法使いですという感じが出てしまうから。まさに、少し離れた視線の先にいる、ピンク髪に赤目のうさ耳魔導士のように。緑の薄い帽子にわかくさ色のローブを着ていて、ご丁寧に複雑な彫刻を施した木の杖を持っている。
見つめすぎたのかふいにうさ耳魔導士がこちらを向く。引き攣った顔で。
「よ、よだれを溜めながら見つめられたのは初めてだ」
「あ、わりぃ、イチゴみたいだと思って」
「…イ、イチゴと思われたのも初めてだ…」
なんかもう腰引けてるし。
「悪かったって、取って食ったりしねぇよ。俺はシオン、戦士のシオンだ」
「あ、あぁ、どうも、僕はサンダー、サンダー=ラティアだ。見ての通り魔導士だよ」
「おぅ、よろしくな」
「ど、どうぞお手柔らかに…」
言うが早いかぴょんっと離れていくサンダー。取って食ったりしないってのに。
「ははは、可愛らしい少年に逃げられてしまったようだな」
どうやら今のやり取りを見ていたらしい男が声をかけてきた。
「別に、逃げられたとかねぇし」
「そうかそうか。俺はアサヒだ。アサヒ=クライム。これでも元傭兵団の団長をしていたんだ、チームをまとめるのは任せてくれ」
いや、チームとか言われてもまだ何も言われてねぇし。それとも早く来た奴にはなにか発表されてるのか?
「少年よ、名前を聞いても?」
「あぁ、わりぃ、シオンだ」
「そうか、シオン、チームになることがあればよろしく頼む」
さっきのうさ耳は臆病すきるし、こいつは暑苦しい、普通のやつはいないのか。げんなりとそんなことを考えていたら、木彫りの動物たちが集合の号令をかけて試験が始まるようだった。
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