空に浮かぶ島
肉料理を詰め込んで腹が満たされてくる頃、やっと落ち着いて話ができるようになってきたらしい人型ドラゴンが思い出したかのように俺を見た。
「そうだ、アンタが受けたいのはBランク昇格試験でいいんだよな?」
いいかと聞かれても、そもそもランクについて聞いたのが今日が初めてだ。でもまぁ、海に行くにはBランクがいると言ってた気がするからひとまずはそれを目標にすればいいか。
「あぁ、ひとまずは海の方で見たっていう、クリスタルリーフとやらの花畑に行きたいんだ」
こくん、と一つ頷くと話を進める。挙動不審じゃないときはまともそうなんだけどな、この人型ドラゴン。
「Bランク試験は、その試験会場に行くところから始まるんだ」
「試験会場に行くことが試験?」
「あぁ、試験が雲の上で行われるんだ」
「…は?」
雲の上?雲って、あの水蒸気でできてる雲か?乗れる気がしない。
そんなシオンの表情にそりゃそうなるよな、と苦笑しながらラリマーは説明を続ける。
「雲とは言っても、雲にカモフラージュされている島なんだ。大体の位置は受験希望者に伝えられるけど、本物の雲の中からその試験の島を探すっていうのが最初の試験なんだよ」
「なるほどな。それにしても、ずいぶん詳しいな?」
「あぁ、アタシは運び屋だからね、試験会場への移動依頼を受けることも多いんだよ」
「…あ?依頼して到着、はありなのか?」
試験会場に辿り着くのも試験の一部なのにそこを依頼で済ますのはどうなのか。
「ありなんですよ、シオンさん。この試験では種族的に空への移動手段を持たない受験者が多いので、それをどう乗り越えるかという意味合いでこの第一の試験が組み込まれているんです」
「アタシは多分運び屋の中でも試験会場への依頼が多いほうだとは思うけど、もちろんアタシへの依頼以外で辿り着く受験者もたくさんいるんだ。例えば、そうだな、アタシが見た中で一番斬新だと思ったのは、樹魔族に依頼した受験者が"ジャックと豆の木"よろしく雲まで伸びた蔦を登って来たってのがあったなぁ、ふふふ」
思い出し笑いを浮かべながらラリマーが話す。確かに自力で空にまで移動できる術を持たないなら、代わりになる運び屋なる職を探すのが試験ということなのだろう。ラリマーが来ているときでよかった、と腹黒神官が言っていたのはこのためか。
「ま、そういうわけだからさ、試験会場までの移動は任せなよ」
「あぁ、頼んだ。ちなみに試験ってどんななんだ?」
「そうですね、シオンさんは問題ないと思いますが…制限時間内に指定された魔物討伐、植物の採取、あとは奇襲への対応、でしたか」
「あぁ、昼夜問わず何回か奇襲をするし受けるからそれにどう対処するかを評価されるんだ」
「奇襲を、するのか?」
「あぁ、毎回試験官が奇襲役だと、試験官のクセとかを調べて対策でクリアしちまう奴が出るかもしれないだろ?それだと、いざ本当に知らない相手の奇襲を受けた時にそいつは死んじまうかもしれないからな」
なるほど、奇襲への対策ではなく、試験への対策で間違って合格してしまうのを防ぐための奇襲をする、ということか。まぁ、大型の獲物を狙う時も奇襲といえば奇襲だしなんとかなるだろう。
このように、試験について何も知らなかった俺にとって腹黒神官が企画してくれたこの夕飯は非常に有益なものとなった。なんだかんだ、こいつ助けてくれるんだよな、腹黒だけど。
「あ、そういえばシオンさん、急で申し訳ありませんが、試験が来週なのでそれまでにもう一度神殿のお手伝いをお願いします」
来週なのかよっ!しかもまた神殿の手伝い、やっぱりこいつ腹黒だな。
♢♦︎♢♦︎♢
「いやぁ、シオンさんありがとうございました。おかげさまで何年も手をつけられていなかった倉庫の奥のエリアも綺麗になりました」
にこにこと笑う腹黒神官に試験会場に行く時にでも食べてくれ、というおにぎりをもらいながら謝意を伝えられたシオンはげんなりした表情を浮かべる。
「…そうだな、何年もためてて問題なかった重たい物品の整理を大急ぎで先週のうちに済ませたからな」
「いやですねぇ、そんな、人が腹黒いみたいなことを。たまたまどなたにでもお願いしやすい作業は他の方にお願いしてしまっていたので、シオンさんに街の中の貢献ポイントを稼いでいただくのにちょうどいい依頼が倉庫の整理だっただけですよ」
「…あぁ、たまたま、な」
シオンの視線の先では、教会前の通りを箒で掃除している子供達がいた。その日の小遣い稼ぎにと働きにきた子供達だ。確かにこいつらにあの重たい荷物を整理させるのは無理だろう。それがわかるからこそ、強く言いにくい。きっとここまで含めて腹黒神官の計算なのだろう。
「…腹黒…」
ぼそりと呟いたシオンの声に気づかなかったのか聞こえないふりをしたのか、腹黒神官はにこにこと人のいい笑みを浮かべていた。
「それでは、シオンさん、頑張って来てください。ラリマーさん、シオンさんをよろしくお願いします」
「あぁ」
「アタシにかかれば試験会場までなんてすぐさ、大船に乗った気でいてくれ」
シオンを乗せたラリマーが空の彼方に見えなくなるまで、街の外に出たアイオは見送り続けた。
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次は幕間として、ラリマーさんについてのお話を挟んだ後にBランク試験になる予定です。そちらも読んでいただけると嬉しいです




