ランク試験に備えて
「…おい」
「はい、シオンさん、どうされました?」
「どうしたもこうしたも、ランク試験とやらを受ける話をしてたのになんでこんな神殿の片付けのために俺を連れてきたんだ?」
「あぁ、それはですねぇ、ランク試験受験資格を得るために必要なポイントが足りていないのでまずはそちらを稼いでいただこうと思いまして」
へらりと笑う腹黒神官。なんかうまいこと使われてる気もする。
「ランク昇格試験を受けるには、討伐の実績と、人々への貢献ポイントの両方が必要になります。シオンさんは指名依頼での霧蜂討伐をこなしてくださったので討伐ポイント、貢献ポイントの合計値は受験資格を満たしているのですが…」
「って、足りてるのかよ!」
思わず突っ込んじまった。
「ええ、ポイントの合計値だけでしたら、指名依頼を受けること自体が貢献ポイントにつながることもあり問題ないのですが、ランクアップに必要な貢献は街の内外両方で稼ぐ必要がありまして。シオンさんは街の外のポイントは充分ですが、街の中のポイントがないのでこの度神殿の掃除片付けの依頼をこなしていただいている、ということです」
「…なるほどな」
腹黒で根性のある変な神官に騙されてタダ働きというわけではなさそうだ。まぁ、一時とはいえ世話になった場所だ、キレイにしていくのはやぶさかではない。立つ鳥跡を濁さず。
「あ、シオンさん、今夜はお時間ありますか?」
なんだ?夜はまた別の仕事を、とかか?
「ふふ、そんなに警戒しないでください。夜にはラリマーさんも街の中においでになるので、よかったら夕飯をとりながらでも試験についてラリマーさんも交えてお話しできればと思いまして」
存外まともな話だった。
「あぁ、助かる。それなら夜も狩には出ずに神殿にいるわ」
温和な表情で微笑む神官に、この後狩に行く気も失せるほどこき使われるのをこの時の俺はまだ知らなかった。
♢♦︎♢♦︎♢
「…なぁ」
「どうしました?」
「いや、あのドラゴンもここに来るんだよな?」
「えぇ、夜には支度も済むので合流できると伺ってますよ」
まるで何も問題はありませんというような顔で答える神官に困惑する。いや、ドラゴンだぞ?どうやって街中の食事処に入るんだ?
夕飯を、と話を聞いた時に思っていたのは街外れのあたりに夕飯を買って持っていくということだと思っていた。だが、連れられてきた食事処では中で食べると店員に伝えて中に入ってしまったのだ。てっきりドラゴンとの夕飯を忘れているのかと思ったがそうではないらしい。
「あー!乱暴オトコも!」
突然、入口の方から聞き覚えのある声が飛んできた。助けてやった側なのになんたる言われよう。
「おぅ、また会ったなチビすけ」
「相変わらず失礼なオトコも!チビすけだなんてレディに失礼だも!」
「…ちんちくりん…」
「なっ!もっと失礼なんだも!」
「おや、お二人はご面識がありましたか?」
驚いた表情で腹黒神官が問う。
「いや、面識ってほどはないんだが…」
「そうも!こんな乱暴なオトコ知らないも!」
「わたあめ、それは知ってるって言ってるように聞こえるよ?」
鈴のような声が会話に入ってくる。視線を向けると、毛玉の後ろに金髪のすらりとした女性が立っていた。やたら店内の視線が入り口に集まってると感じたのは、どうやらこの女性を見ている人が多いからのようだ。
「お疲れのところ、お呼び立てして申し訳ありません、ラリマーさん」
ん?ラリマー?いや、どうみてもドラゴンには見えないが同名の別人か?
「そ、そんな、アタシもせっかくなら学者センセと会いたかった…って、変な意味じゃなくて…」
いや、このどもりはあのドラゴンだわ。長く生きるドラゴンは人化の術を扱えるようになるとそういえば養父に聞いたことがある。この挙動不審ドラゴンがそんなに長く生きているようには見えないが。
「まぁ、入り口で立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」
気の遣える腹黒神官の声でに人型ドラゴンと毛玉も席につく。まぁ、出入り口でかたまってたら邪魔だよな。
「さて、それでは改めまして、ラリマーさん、わたあめさん、今回もたくさんの物資をお届けいただいてありがとうございます」
「え、いや、そんな、これがアタシの仕事だし」
「ますたぁ、お礼にはどういたしましてでいいも!」
「あ、その、ど、どういたしまして…」
なんでか大きな紫色の瞳を伏せ俯いて小さくなるラリマー。その様子を近くのテーブルに座る男達がほぅ、とため息のような音と共に見つめる。確かに華奢なお嬢さんという感じはするが、挙動不審だし、正直最強種たるドラゴンっぽさを感じない。
「ふふ、お二人ともお元気そうで安心しました」
「アイオも元気そうでよかったも!ますたぁはいつもアイオに会いた-」
「わぁぁぁぁ?!」
突然叫びながら毛玉を抱え込む人型ドラゴン。挙動不審だ、やっぱり。口が×みたいな形になってるし、なんだかドラゴンというよりウサギに見えてきた。兎といえば肉食いたいな。
しばらく騒いでそうな腹黒神官たちはおいておいて、ひとまずは肉を食うことに専念しよう。
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ラリマーさん、書いてみたら思った以上になかなかな、ニブ男たちに囲まれて大変そうでした。




