プロローグ
前作、『花の歌声と精霊の祈り』の遠い未来の物語です。
もちろん、今作だけで読んでいただいても楽しめるように頑張って書きます。よろしくお願いします!
リィ…ン。
悲しげな音で鳴る鈴と共に風が吹いて、花畑の花を揺らす。
「行かないで」
「おねがい、行かないで」
口々に行かないで欲しいと願う歌声が響く。
誰が、どこに?
「おーさま、行かないで」
今にも泣きそうな声での懇願に、応える声は…ない。
終わることなく続く哀しい歌にシオンは思う。
「…なんか知らねぇけど、行かねーとな」
これは、遠い昔に誰かの祈りで広がった恵みある土地、かつて魔界と呼ばれた場所で生まれた新しいいのちたちの、それぞれが紡ぐ物語のひとつ。
♢♦︎♢♦︎♢
「…あの、何をしているんですか?」
困惑を目一杯詰め込んだような声での問いかけに、迷惑そうな視線を返す。
「…」
「…あ、あの…。もしかして、言語、わかりませんかね?」
見るからに人族である青年が困ったように眉を寄せる。困るなら話しかけなければいいのに。というかこっちだって人族だわ。
「…」
「…」
無言で見つめ合う2人。いや、俺今忙しいんだけどなんだこいつ?
「あんた、なんだ?」
「!」
返事があったことに驚いたように青年はココア色の瞳を丸くした。俺だって返事くらいするわ、ちょいちょい失礼なやつだな。
「すみません、申し遅れました。僕はアイオです。アイオ=セージ。近くの街の教会に神官として勤めさせていただいております」
神官と言われればなるほどと思うくらいに柔和な雰囲気で青年、アイオは答えた。いや、神官なのはわかったが、だからその神官が何の用なんだと聞いたつもりだったんだが。微妙に空気の読めない相手なのではとの予感を抱きつつ青年を見やる。今忙しいから早くどっか行ってほしい。
と、その時かさりと音がして手元に意識を戻す。こんなやつに構ってる暇はない。見ると木々を抜けた先に小さな野うさぎが跳ねている。
悩む。ここは手堅く小さな利益を得るべきか、はたまた少し待ってより大きな利益になるのを待つか。シオンはじり、と手を力を込める。
「あの…何をそんなに見つめているのですか?…あ!かわいいうさぎがいますね」
呑気そうな声に野うさぎが反応したようにぴょんと草むらに消えた。
「だああああ!おっまえはなにをしてくれるんだ!」
「え?え?」
突然の嘆きに驚き慌てるアイオを睨みつけながらシオンがまくし立てる。
「お前のせいで今夜の肉を逃したじゃねぇか!今いたウサギもだが、もう少し待ってクマでも来たらそれこそご馳走だったのに!俺の2週間ぶりの肉をどうしてくれる!?」
「え、あの、すみません…?」
「疑問系じゃなく謝れー!」
シオンの叫び声が晴れた空に吸い込まれていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
野生児シオンと天然神官アイオの2人がこれからどう絡んでいくのか…続きもお楽しみいただけたら嬉しいです!
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