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【閑話】正義

正義とは何かと問われれば、それはきっとその一個人の下らない自己満足だろう。



「正義は勝つ、確実にな」


『何故…予が屈する…』



絶えず竜の鳴く山脈にて、大剣を携える鎧の少女。

目前には黒い鱗を持つ巨大な竜が地に伏せ怨嗟の声を漏らしている。


『天剣』アリアンロッド。


クロノスで名を馳せたPKKであり、他のプレイヤー達からは攻略組筆頭とまで呼ばれた彼女は現在クエストの最中だった。



「この世界で初のユニーク、少し期待していたが存外につまらなかったな」


『小娘が!』


「黙れ、オレの話を遮るなトカゲ」


『ガァァァァ!』



手に持つ黄金の剣を竜へと突き立て、お前は悪だと口にする。

アリアンロッドの行動理由は死神や道化のような享楽に準ずる物ではない。己の正義の証明。

ただそれは常人から見れば酷く歪な物。



「オレこそが正義だ。

口答え、意見、指図、気に食わない」



つまりは自分のルールを他人に押し付ける面倒な女。それでも、彼女の正義に従う者に彼女は酷く寛大だ。

弱者救済を正義とし新規プレイヤーの手伝いをする事もある、高難易度のモンスターの討伐の手伝いをする事もある。

だからこそ、彼女を聖人と呼ぶ者達もいる。


だが、



「おい、アンタ天剣だよな」


「レッサードラゴンの討伐手伝ってくれよ」



竜を下している姿を見た複数のプレイヤーが近寄る。

アリアンロッドは仇名持ちの中でも顔が知れ渡っており、それ故にこうして声を掛けられる事も多い。



「オレは今忙しい。他を当たれ」


「はあ?良いだろうが少し位!」


「何が聖人だよ、ケチくせぇ」



彼らは年若いプレイヤー。

アルテマ・オンラインからこの世界に訪れ、ゲームをする傍ら天剣の存在を知りこの日幸運にも彼女を見つけた。


だから知らない。

天剣の本質を理解せず、年相応に悪態をつく。

彼女に助力を願う時は必ず下手に出なければいけないというクロノスでは常識だったルールを知らずにただただ無駄な言葉を並べる。



「誰に口を聞いている、罪人共」


「は?」


「あ?」


「オレの前で下らない言葉を並べたな、つまり罪人だ」



絶対厳守の正義ルール。

道化は彼女を正義中毒と呼び、死神は彼女もまた異端だと言った。


黒竜に突き刺していた剣を抜き放ち、プレイヤーに向けて一閃。



「『正義』を執行する」


「あがっ…」



両断された胴体は大地に落ち、アリアンロッドはその顔を踏み潰す。

何度も執拗に、入念に、例え年若い者だろうと関係なく己の怒りを収める為に。

数分の間一度も緩める事無く蹴り続け、やがてプレイヤーはポリゴン片となって消えた。

だが、彼女の名は未だ赤く色を変えない。



『何をしているのだ…?』



先程まで自分を追い詰めていた強者は既に自分を眼中にすら入れていない。



「オレの正義に従わない者は罪人。

ならばオレはただ斬るだけだ」



彼女を聖人と呼ぶ者は多いが、それ以外に一度でも彼女と遭遇し逆鱗に触れた者は口々にこう言う。


ーーー暴君と。


プレイヤー、NPC、PK…そんな物は彼女に関係ない。一度でも相手を悪と断じれば、刃はその瞬間に飛んでくる。

だからこそ彼女は誰とも関わらず一人で行動を続ける。

知らぬ間に彼女の正義を侵さないように。



「ふん、トカゲの相手も飽きた」


『なんだと…』


「失せろ、お前にもう用はない」



アリアンロッドの受けたユニーククエストはこの谷に巣食う黒竜の撃退。

それは本来、グランドの進行していない現状で受ける事の出来ない物。何の因果か彼女はそのクエストを受け入れ行動していた。



『ぐっ…!』



屈辱だが、今の自分の身ではアリアンロッドに敵わない。絶えず進化を続けるAI知能によって算出した答えに黒竜は押し黙り、その翼を広げた。



『その傲慢、いつか必ず身を滅ぼすぞ異邦人』


「殺すぞトカゲ」



アリアンロッドから向けられた殺意に本能で身を竦ませ、黒竜は空を飛んだ。

その姿を見届け、彼女は谷から大地を見下ろす。


広大な世界。クロノスから更に飛躍し広がった大地。

その中で自分の目的である二人の影が過ぎる。


自分を小娘と侮りながら、この首を飛ばした黒衣の男。

享楽に身を任せ多くの子供を殺した神官服の女。



「どこに消えた…道化師、死神」



彼らが姿を現すならば、常に上位の戦場と踏んで遠路はるばる帝国なぞを訪れた。

だが、一向に姿を見せない所か死神は正反対の王国にいるという情報まである。


再び剣を地に突き立て、息を吸い込み全力で吐き出す。



「今度こそ、オレが斬る」



声は周囲に木霊し、残響は風に消えた。

『天剣』のアリアンロッドは今日も一人で狩りを続ける。

いつか相見える仇敵を討つ為に。






アリアンロッドちゃん絶賛見当はずれの場所で頑張ってる。


彼女が受けたユニークはある少女からの物。

報酬も定められておらず、事実ハズレ枠の依頼だが子供好きの彼女は必死に頼み込む姿に頷き、黒竜の撃退を成功させた。

そのせいで皇帝に名が伝わってなんか面倒事になりそうだけど、なんも考えてない。


アリアンロッドの中では、常に庇護対象は子供と新規プレイヤー。

幾分か新規には優しい反面、帝国攻略を目指してるような中堅が偉そうなことを言えば速攻で狩る。

あと、ペイルライダーよりマシだけどNPCの対応によっては普通に国に喧嘩を売る。


道化、死神、天剣…なんか首領が一番穏健派に見えるじゃん?

でも我らが首領もNPCが自分のクラメンに一度でも難癖を付けれたりすれば速攻で国を盗りに行きます。それも死神以上に陰湿な手段で。



もう終わりだよこのゲーム。

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― 新着の感想 ―
[一言] 世の中、世界中で1番嫌いなのは正義だね これを振りかざす者って大体が人の話を聞かない、独りよがり、愚者
[良い点] まともな奴はもうNPC頼り
[一言] あーこれ悪意とか罪悪感みたいに感情で赤判定されるのか...
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