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飢える者

青春って良いよね、ありがとう僕ヤバ。

ある日の出来事。



「ん、兄上。どこかに出かけるのか」


「ちょっと煙草を買ってこようと思ってね」


「煙草の匂いは好かぬのだが?」


「こればっかりは癖だなぁ…」



買い置きしていた物が底を尽きて調達に出かけようとすると、セイちゃんに遭遇してしまった。

今しがた帰ってきたようで制服姿のままARデバイスを弄っている。



「あ、冷蔵庫にプリンが入ってるから食べていいよ」


「貰う」


「それじゃあ行ってくるね」



やっぱりまだ肌寒いな。

着込んでいたコートを直し外に出る。

吐く息はまだ白く濁り、冬の残り香を楽しみながら歩くのは俺は結構好きだ。

最寄りのコンビニはここから10分程の距離。



「もう四月、時間が経つのは早いな」



アルテマへのコンバートが2月下旬。

そこから仕事とアルテマに追われて早2カ月。

色々と破天荒なゲームライフを送ってるのは自覚しているが、濃い2カ月。

朱雀と共に海の先の国を訪れたり、聖国を発見したり色々あったな。余談だが、プレイヤーの殆どは先に発見された帝国に流れたらしい。

帝国かぁ…天剣がいるだろうから今の所行きたくない。

そうこうと考えを巡らせていれば目的の場所に到着する。


暖房の効いた店内に入り思わず体を緩める。

店内アナウンスから聞こえる歌が耳に入るが、どうにも聞き覚えのある声。ああ、BBの新曲だ。

そういえば少し前にアルバム送られてきてたな。



「いらっしゃいませ」


「どうも、いつもの一つ」


「はいはい、これね。

若いのにこんな強いの吸ってたら将来大変だぞ?」


「まあ、近いうちに止めますよ」


「去年もそれ言ってたな?」



俺がよく訪れる時間に必ずいる顔見知りの店員から目当ての物を受け取る。

止める、止めると言ってやめられれば苦労しないんだよ。

デバイスで決済を済ませ近くの本棚へ行く。

週刊VRは…あった。



「お、週刊VRか。お客さんもやるのかい?」


「最近はアルテマに掛かりっきりですね」


「俺の息子が見てるネットアイドルの子もやってたな。なんだっけ、花菱だかなんだか」


「知らない名前ですね」



どっかで聞いた名前な気がするけど、覚えがない。

ペラペラと軽く流しながら目当ての頁で止める。


『アルテマ・オンライン第一弾アップデート近日開始』


アルテマのアプデ情報。

流石にまだレベルキャップの解放は来ないだろうけど、イベントはあるんだろうか。

大乱闘か謎解き系。もしくは期間限定イベ。

…嫌なジジイの顔を思い出してしまった。



「それじゃ、行きます」


「おう、吸い過ぎには気を付けろよ」



余計なお世話…でもないか。

最近本数も増えてきたから、節制しないといけないしアルテマで作れないかな。

仮想煙草とかありそうじゃない?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「主…これは…なに…?」


「働かざる者食うべからずって言葉があるだろ」


「…ある」


「あるの?」



こっちの世界にも諺って存在するのか。

現在俺達がいる場所は神獣域。最近、聖樹の果実が足りなくなってきたので白玉さんの許可を取り収穫に来たのだ。

コイツ、本体はデカい骨だったし木の上とか余裕で届くんじゃないかと思ってさ。



「骨少女、デカくなってくれない?」


「ん…こう…?」


「そうじゃないね」



誰が大人の女性の姿になれと言った。

変幻自在なのか己は。

…いや止めよう、聞いたら鬱になりそうだし。

首を傾げ考える骨がやがて理解したように頷き大骨の姿に変える。



『殴ルノカ…?』


「お前の中の俺のイメージって最低だよな」


『虐殺者故…』


「前世って実質ノーカンだと思わない?」


『今世デ殴ラレタノダガ…』



殴ったの俺じゃなくて朱雀だけど。

まあいいや、聞き訳がなかったら後で腕をまた…あれ?



「お前、腕増えてない?」


『・・・ウム』



前に見た時はドでかいただの骸骨、表すならがガシャドクロのような感じだったはずだけど何故か腕が4本に増えてる。

良いね、ちょっと強そうじゃん。

気持ち高揚したように自分の腕を振るわせている骨。



『飢エガ満タサレル度、我ハ力ヲ取リ戻ス。

主ノ与エル贄ハ美味デ妖力モ多イ』


「食えば食う分強くなるの?」


『合ッテイル』



大変燃費の良い召喚獣である。食べ物を与えるだけで強くなるのなら、うちの白玉は今どれほど強くなっているのか。

ユニークボス故の特性だろうが、一度ステータスを見てみたい。



「それじゃあ、あそこになってる果実を見えるだけ取って貰って良い?」


『分カッタ』



腕を伸ばし、器用に骨先で果実を摘まむ。

大雑把な動きに反して随分と繊細に収穫する姿に、昔見た重機を思い出す。

骨の重機か、縁起悪そう。

四つある手の一つに大きめの籠を乗せてまたも器用に落としていく骨。



「器用だな、お前」


『人ヲ食ラウ時ハ注意ヲ払イ…生キタママ呑ムノガ一番美味イ。覚エタノダ』


「わぁ、一瞬でそれ食べたくなくなった」



人食う時のやり方とか参考にしないで欲しいんだけど。まあ、綺麗に収穫してるから良いか。

喋りながらも淡々と周りの果実も取っていき、気づけば大籠は満杯になっている。



「もう良いよ、骨」


『分カッタ』



地面に籠を置き、再び幼女の姿に変わった骨だがなんでそれ固定にしてるの?

まだ殴ると思われてる?

傍まで近寄り、中を覗くが特に傷も付いていない。

これから果実狩りはコイツにやらせよう。

ホクホク顔でアイテムボックスに仕舞い込んでいると、おずおずと袖を引く骨。



「…供物を…所望する」


「ああ、労働には対価だからな」



折角聖樹の果実を取りに来たんだ。

良い働きをしたコイツにも相応の物をあげよう。

残り数の少ないパイを取り出し、与えてみる。



「主…これは…良い物だ…!」


「そりゃあそうだろう」



何と言っても神を唸らせる一品。

バルカンやルナーティアが現れる度に要求してくる程の物なのだから、食欲旺盛な骨が気に入らない訳がない。

始めはガツガツと食べ進めていたが、次第に量が減っていくとスピードも落ちていき最後は苦渋に満ちた顔で飲み込む。

食い終わったのならチラチラこっち見るのやめてくれない?



「主…」


「なんだよ」


「お代わりを…所望する…」


「ねえよ」



図々しくも追加オーダーをしてくる骨の頭を叩く。

おいバカやめろ。涙を溜めるな、俺が悪いみたいに見えるだろうが。



「…これで終わりだぞ」


「!…主は…良い主だ」


「当たり前だろ、今は真っ白爽やかなんだから。

おい、ちゃんと噛んで食えよ」


「…うむ」



どうにもこの歳頃のガキは苦手だ。骨だとは理解してるが、どうにもなぁ。

幸せそうにパイを食べる骨少女を見ながら、俺は人知れず呻くのだった。


特に意味の無い小噺だから読み飛ばし可。


グランドクエストの一つ《飢餓の証明》

『飢餓』は喰らい続ける度に強くなる。

喰らったNPCのステータスやスキルの吸収、常時付与される対人類特攻。

依り代に乗り移り、遍くを喰らい続ける飢えの衝動の具現。


本来罪の証明はもっと先。

異邦人が船でアズマを訪れ、繁栄と混乱を齎した時にその姿を現す人類罪禍。


依り代の名前は『ハルカ・モチヅキ』

四大華族の血を持ち、呪いとの親和性が異常に高い少女。

慟哭しながらオウカとシラユキの民を捕食し最期は緋色龍と戦巫女、そしてプレイヤーの手によって討たれる鬱クエスト…だったんだけど、どこぞの黒衣と龍狩りが場を引っ掻き回したせいでご破算になった。


スペックで言えば


色災>人類罪禍≧???>亜神>英雄>>>>NPC。


人類罪禍は対人類特攻だけど、色災は対星特攻。

この世界、NPCの存在はプレイヤーが思ってるよりも軽い。

プレイヤーはそもそも特異存在だし、神についてはまた別の話。



…まあ、そもそもムクロアダバナ。

昔は大分暴れたとか言うけど、蒼の災厄が大口開けたらアズマの隅でガタガタ震えるだけのヘタレだし。愛嬌を込めてムクちゃんと呼んであげよう。


東の大陸を寝ながら食い潰した亀さん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 個人発祥の罪禍と人類そのものの自業自得な災厄を比べるのはやめて差し上げろ
[一言] まあ人類単位での捕食活動が限界な奴が 惑星レベルでの捕食活動可能な奴に喰い合いで勝てる道理は無いわな・・・ 後者からしてみれば島や大陸レベルで丸のみすればそれで終わりだもん
[一言] >>依り代の名前は『ハルカ・モチヅキ』 マジかよ、運営サイテー。
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