紅騎士との語らい
一応指摘あったから補足。
私の手違いで死神さんが痛覚設定なしになってたけど、アイツも100%だから。
大丈夫、アイツも正常にとち狂ってるから!
いつもありがとよぅ…。
ここ最近の悩み、掲示板回を名前ありにしたせいで只管名前を生み出してる。
誰か名前をくれ…。
同じベンチに腰掛ける俺と赤い騎士。
まあ、まだ警戒はしてるから距離は離れているのだが。
「貴公に改めて謝罪させて欲しい。
私はミカエル、精霊騎士の任を与えられる者が無体を晒してしまった」
「そりゃご丁寧にどうも」
こちらに頭を下げミカエルと名乗ったNPC。
そもそも精霊騎士をご存じないんだけど、どうしよう。
説明とかしてくれたりしない?
「…?何か失言でもしてしまっただろうか?」
「いや、その精霊騎士ってのは何なのかと思って」
「そうか、精霊術は異邦人には馴染の無い言葉なのだな…」
納得の表情で、徐に自分の右手を空に翳す。
「来てくれ、フラメル」
「…おお」
右手に赤い粒子が集まり、少しずつ形を変えていく。掌に収まる人形のような炎。
顕現した赤い身でミカエルの周りを飛び回る姿を眺めていると、不意に精霊が俺を見る。
なんだろう。
「どうしたフラメル?」
「・・・・?・・・・!」
「え、何、なんか飛んできたんだけど」
フラメルと呼ばれる精霊が俺の近くに寄ってくる。
ミカエルの時の様に周囲を舞うように移動し、時々ボディタッチを仕掛けて来るんだけど。
「精霊が、召喚者の命令なしに動いている?」
「いや止めろよ」
さっきからボディタッチが激しくなってる。
おいやめろフードの中を覗くな、白玉さん今不機嫌なんだぞ。
あ、何も見なかったように戻した。
「ほら、こっち来い」
「・・・・・♪」
「…おお、ほんのり暖かい」
両手を皿にして乗せてみると、謎の感触。
綿毛みたいに軽いけどちょっと生温い…これ湯たんぽに最適かもしれないわ。
俺にじゃれつく精霊を見て、ミカエルが声を掛ける。
「フラメル、戻ってこい」
「・・・・・・・(首ブンブン)」
「全力で拒否られてるけど…」
「何故だ…フラメル」
要注意人物が召喚した生物…生物?だとしても可愛いものは可愛い。
今も召喚者の顔を見ながら全力で首を振る小動物に少し癒される。
「それで、俺に何か話があるんじゃないの?」
永遠にループしそうだし次の話を促すと、ミカエルは顔を切り替える。それでさっきの醜態はもう雪げないと思うよ。
「ああ、貴方もあれと同じ異邦人ならもしかしたら情報を持っているかもしれないと思ってな」
「王国を襲ったヤツの事?」
「ペイルライダーという名前に聞き覚えはないだろうか」
「…ソイツがそう名乗ったのか?」
「私の腕を切り捨てた時、耳元で囁かれた名だ」
もしこの世界で、そう名乗るプレイヤーがいるならきっと余程の大馬鹿だろう。
アレは俺と同じく大多数のプレイヤーに狙われている。一度でもその名前を誰かに告げたら盛大に拡散されて袋叩きに会うのが目に見えている。
きっと今の俺は苦虫どころか毒虫を噛み潰して盛大に咀嚼し吐き出した物を喉奥に押し込まれたような顔をしているに違いない。
「何か、知っているのだな」
「そりゃあもう、因縁しかないヤツだ」
「貴方はアレと敵対関係にあるのか?」
「好き好んで仲良くしたいとは思わないなぁ」
今でも思い出す初邂逅。
俺の可愛い仲間達を軒並みロストさせてニタニタ笑ってやがった外道の顔。
あの時ばかりは本気でブチ切れた。
「二度と会いたくない」
「…そうか」
王国を襲ったプレイヤーは死神で間違いないか。
コイツ等には同情するよ。
アレと競り合えるのなんて天剣か英雄NPC位だ。
天性の個と対等に渡り合えるのは同じ存在か、ステータスの暴力でもなけりゃ無理。
「私達は勝てるだろうか」
「アンタのレベルは?」
「れべる?天啓の数ならば90だ」
NPCはレベルの事を天啓と呼んでいるらしい。
レベル90、今のレベルキャップが100ならば勝機はあるのだろうか。
でもコイツ死神に腕捥ぎ取られたんだっけ。
「そうだな、お前らよりも強いヤツはいるのか?
例えば古代魔術の会得者とか特別な武器に選ばれたヤツとか」
「それならば、聖剣に選ばれた少女がいる。
だが、彼女は今行方を眩ませていて…」
「詰んでるじゃん」
王国の英雄NPCだろうに、なんでそんな大事な時に限っていないのか。
王国滅亡エンドかぁ…ちょっと気になる。
「まあ、あれだ。何とかなるよ」
「希望論ではないか!?」
それ以外言う事ないし…。
最悪国が滅んだら運営なりなんなりが動きそうだけど。いや、ここの運営は動かないかなぁ。
手を握り歯を噛み締める少女の姿に思う所がないと言えば嘘になるけど、それ以上に俺は死神に会いたくない。
リアルSAN値がガリガリ削れるから。
「それじゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「もう行くのか…?」
「話は終わっただろ?」
さっきので一区切りついたと思うんだけど。
情報とは言っても、俺が死神と戦ったのは一度だけ。有益な物なんて持ってない。
「それじゃあ、頑張れ」
手で遊んでいた精霊を横に乗せ、俺はベンチから立ち上がる。
予想以上に長い時間喋っていた。
ウインドウを開けば何件も仲間達から安否確認のメッセージが届いている。
「これだけ…最後に聞きたいことがある」
何かを祈る様な声でミカエルが呟く。
「貴方は、あの怪物と戦った事はあるのか」
「一度だけな」
「…勝ったのか?」
決死の覚悟で臨まなければいけない相手。
そのモノを知る男に対して湧いた単純な問い。
「勝ったよ。
最も俺達は死んでも生き返るけど」
仲間達の力、持てる限りの武器を使い、罠を弄し、最後は鬼札まで使わされた死闘。
それでも俺達は確かにアイツを殺して監獄にぶち込んだ。
『監獄』
PKプレイヤーに対する処置。
一度でもPKを行ったらロスト後に転移させられる特殊フィールド。
ステータス半減、武器無しで看守を討伐すれば脱獄可能。
本来は一度入ればPK数によって刑期が変わるんだけど、まあCCメンバーも死神も普通に脱獄したと言うか…。
ついでに死神討伐後の仲間が帰って来ない約一週間、首領は荒れに荒れた。
その時の恐怖は古参プレイヤーに深い傷を残したとかなんとか。