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一触即発

王国の騎士。

後ろ足で俺から距離を取る、紅い甲冑に身を包んだ少女。

見れば左腕を失っているようだが、こちらへ向ける敵意はあまりにも重い。

訂正するが、俺は別にこの女に何かをしたわけではない。



「先程の世界の声は、事実だったらしい」



得物は動かしていないが、俺が少しでもおかしな動作をすれば抜く気のようで持ち手を握っている。

…間違っても街中でする行動ではない。



「ぶつかったのは悪いと思うが、それだけでそんな顔をされるとは思わなかったな」


「それはこちらも不注意だったので謝罪する。

…だが、これは別件だ」



先程まで周りにいたNPCは遠巻きに俺達を見ている。避難が迅速だな、おい。



「貴公らはどのような用向きでこの地を訪れた。

まさか、王国を襲った怪物のようにこの国を…」



怪物って。

まあ、彼女らからすればすぐに強力な力を得て死も恐れず戦うプレイヤーは怪物なのかもしれない。



「ただの観光だよ」


「…観光だと?」


「仲間達がこの国を見つけてね。

根無し草な異邦人は観光が好きなのさ」



一応マイルームがあるから根無し草ではないのか?

考えるように顔を険しくさせる少女、その眼は未だ俺の言い分に納得してはいない様子。

面倒な事になった。

アナウンスではプレイヤーの敵対行動とあったけど、もしかしたら王国NPCのプレイヤーへの好感度も下がったのかもしれない。

確かメルティも行商人の何人かが離れたっていってたっけ。



「…それでも、」


「まあ、アンタの好感度はどうでも良いんだけどさ」



マップを見れば周囲に青色、つまり俺の仲間達のアイコン。羅刹丸が連絡でも回したか。



「そもそも、ここで戦ってアンタが勝てると思ってるの?」


「何を言って…ッ!?」


「動かない方が良いでござるよ」



後ろに影。少女の後ろから姿を現した羅刹丸がアズマで買った小太刀に手を掛けている。



「やっぱりやらかしましたわね、首領」


「これは予想外だったでしょうけどね」


「ビックリした!」



既に周りには俺達を取り巻くようにCCの面々が揃い踏み。正しく一触即発の事態だ。

一歩でも攻撃行動に移れば、いつでも全員で斬りかかる事が出来る状況でこの女はどう動くのか。

他のNPCへの配慮?なっちゃったもんは仕方ないよね。



「貴様ら、そこで何をしている!」


「おっと?」



後ろから聞こえる声と足音。

数にして十人程だろうか。先頭に謎のイケメンを起きぞろぞろと付き従う鎧姿の男たち。

一番後ろに控える法衣のNPC達を見るに、他のNPCが衛兵を呼んだらしい。



「…話は聞いています。

精霊騎士殿、異邦人殿もどうか我々に付いてきて頂きたい」


「コイツ等は俺が襲われそうだから来ただけだけど?」


「…では、お二方だけで構いません。どうか」



衛兵たちの先頭の男。

一番偉い立場にいるのだろう華美な装飾を持つ鎧に身を包んだイケメンが一度頭を下げ同行を願ってくる。

精霊騎士ってなんだろう。

まあ、俺は被害者サイドな訳だし素直に従おうか。



「これ、アンタのせいだからな」


「・・・・・・・・」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


付いて行った先は衛兵たちの詰め所だった。



「練り蜜屋の女将から話は聞いた。

面倒に遭ってしまったな、異邦人殿」


「話が早くて助かるよ」


「彼女も本来は穏やかで優しい方なのだが…。

自国の事もあり気が立っているのだろうな。ここに来てからいつも深刻そうな顔をしている」


「なんで王国の偉い騎士様がこの国にいるんだ?」


「それは…」



話を聞けば、その王国に殴りこんできたプレイヤーとの戦闘で失った腕を聖女様とやらに治してもらおうと訪ねてきたようだ。


欠損は、一応状態異常に設定されている。

治そうものなら、それこそ回復系の最上位魔術が必要なのだがここの聖女様はそれを使えるらしい。

エクスヒールか、高レベル…Lv150位でやっとMPが届く魔術だったはずだけど。

聖女様は英雄NPCだったりするのだろうか。



「それじゃあ、俺はここで解放って事で良いのかな?」


「問題ない。どうかこの街を楽しんでほしい」



一つ敬礼の後に、促すように扉を開ける衛兵。

短い時間の拘束だったがやっぱりゲームの中とは言え落ち着かない。

国に入って即屯所のお世話になるとかどこの朱雀だよ。

嗚呼…娑婆の空気がうまい。



「…うげ」


「…あ」



外に出て辺りを見回すと、さっきの騎士の女がベンチで黄昏ている。

何やってんだコイツ。

流石に関所の前だからさっきのように敵意を向けてくることはないだろうけど、滅茶苦茶会いたくない。



「・・・・・・・」


「・・・・・・・」



互いに無言。

気分は熊と遭遇した一般人。

クソ気まずい静寂に包まれる周囲、後ろをみれば二人の門番が冷や汗を垂らしながらこちらを見ている。



「あの…」


「…なに?」



静寂を破ったのは女の方が先だった。



「少し…話をしないか?」


「全力で遠慮願いたい」



女からの誘いを断るのは男として恥ずべき事とハートの女王が言っていたが、今回に限っては俺は何も悪くないし恥じる事もない。

唐突に敵意を向けてきた相手と仲良くお話合い?いいや、俺なら全力で罠に嵌めるね。



「…その、すまなかった」



急に謝罪をされても困る。

その身長で縮こまられると、俺が悪いように思われるからな。どうしてこうもセイちゃん程の少女との遭遇率が多いのか。

運営にそういう趣味の人でも紛れ込んでいたりします?



「まあ、少しだけなら…」



結局、話をする事になった。

虎の威を借りる狐。ただし尻尾の本数に注意…的なアレ。


街中で武器を抜いたら衛兵がすっ飛んでくるから誰も抜いてないだけで、少しでも動けば即全員抜刀とかいう地獄が待ってたり。

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