いざ聖国
どうにもここ最近永遠に眠い。
友人達と遊んだCoCを参考に試しに現代ファンタジーを書き殴ったはいいけど、また主人公が頭おかしい。薩摩武士系高校生かぁ…。
「それじゃあ、行こうかリク」
「いざ聖国!」
「何がどうしてそうなった?」
ログインをして外に出ると、我がクランの面々が俺の登場を待っていた。いや、戦闘組だけか。
話を聞いてみれば聖国に行くルートを確保し、ボスを倒して簡易拠点を設営したから来て欲しいと。
もう一度聞こう。何がどうしてそうなった?
確かに昨日のコメントでもうすぐ聖国に到着できるとは聞いた。聞いたのだが、昨日の今日で到着してるとは思わない訳で。
困惑する俺を他所に八千代からパーティの申請が届く。
「えーと…」
どうしよう、笑顔が輝いてる。
ここで俺がいかないと言えば、きっと皆ガッカリする。
そもそも聖国を目指そうと最初に言い出したのは俺な訳で…。
「リク様、私達は留守を守りますので」
「グルァァ」
後ろの二人も俺を聖国に行かせる気満々だなぁ。
でも、アズマの時もそうだったけど何もしてない俺が仲間のついでに新しい国に行くのってどうなの?
首を傾げつつどうしようか迷っていると白玉が走って俺の肩に駆け上る。
「キュキュ!」
「お前も行くの?」
頬をポンポンと叩き、頷く白玉。
どうやら白玉も同行するつもりらしい、白玉院…。
こうなると退路は既に断たれている。
仕方なしに申請を承諾し、パーティへ入る。
「それじゃあ、レッツゴー!」
八千代の宣言の後に、視界が白く覆われる。
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視界に広がる緑と、後ろに聳える白亜の外壁と門。
「あ、ロボット治ってる!」
「壁にも傷が見当たらねえなぁ」
「流石に巨兵を外壁にぶち当てた時は冷や冷やしましたもんね」
何か聞いてはいけないような事を口走っているが、俺は突っ込まないからな。
門の前には数人の衛兵NPCが槍を持ちこちらを見ている。まあ街や国のように衛兵がいるのは変わらないんだけど、なんでそんな目で見てるの?
「それでは行くかの、兄上」
セイちゃんの言葉を聞き、全員が俺を先頭にし周りに集まる。さながら軍隊、もしくは大規模な賊のようなのだけど、それ必要?
身構えるようにして姿勢を正す門番の横を通り抜け、聖国に入った。
『六つの神を信仰する祈りの国、神より加護と祝福を齎された大地に異邦の者が来訪しました』
『プレイヤーにより聖国ロベルタが発見されました』
『制限の一部が解除されます』
『神からの加護を取得する事が可能になりました』
《『火の神バルカンの寵愛』を獲得しました》
《ユニークスキル『神降の真打』を獲得しました》
《『火の神バルカン』の加護を確認しました》
《加護取得者の『鍛冶』スキルの上限が達した為、上位スキル『上級鍛冶』を獲得しました》
《加護取得者の『鍛冶』派生スキルを複数確認、スキル『武装鍛冶』に統合を完了しました》
アナウンスが響く中に、見慣れた名前と見慣れないスキルが目に入る。
上位スキルの獲得は加護の所持で解放されるのか。それに派生スキルの統合は素直にありがたい、ステータス欄が凄い見づらかったし。
…さて、問題はバルカンの方だ。
加護の方は赤魔術の威力上昇と鍛冶で生成した武器の性能を強化するらしい。
問題はユニークの方なんだけど、なんか武器を進化出来るようになった。ソシャゲじゃないんだぞ?
「うわぁ…」
「首領が、凄い、嫌そうな顔」
「入って早々加護でも貰った?」
「月見大福、正解」
「うわぁ…」
分かるだろ、今の俺の気持ち。
そういう事だよ。
「また引きましたのね、首領」
「まあ兄上だからな」
「取り敢えず、こっからは自由行動にするかぁ?」
「各自散策が良さそうですね」
俺の絶望を他所にどうやら散策を開始するらしい面々。そうか、もう慣れちゃったのか…皆。
バラバラとパーティ毎に別れて散らばる仲間達。
「それじゃあ俺らも行きやすか」
「リッくんは八千代達と行く?」
「ウチらは歓迎だよ~」
「広いし、俺も一人でブラブラ見て回るよ」
「またなんか拾ってきそうだなぁ」
いらないフラグを建てるなHaYaSE。
手を振りながら去っていく八千代達を見送り、俺も歩き出す。
さて、こっちの世界で初めて国に入ったけど滅茶苦茶デカいな。マップで見る限りルディエの街二つ位はすっぽり収まりそう。
「行くか、白玉」
「キュキュ」
フードの中にすっぽりと納まった白玉は抑え目な声で返事をする。
街を歩くNPCは全て法衣のような物を纏っている。
赤、青、黄、緑、白、黒の合計六色。
属性魔術の色。
あれは自分の信仰する神を表しているのかもしれない。
「平和な国だな」
「キュ~」
色の違う法衣を纏うNPC達は皆一様に笑顔を浮かべ、談笑している。
こちらは俺達プレイヤーのように属性によって対応が違うとかもないらしい。
…クロノスでは断トツで黒魔術が冷遇されていた。一時期は黒魔術師だけ参加拒否するパーティもあったっけ…珍しくハートの女王がその掲示板を見てブチギレてて面白かったな。
街並みを眺めながら歩いていると、露店を発見。
「これ、何を売ってるんだ?」
「あら、もしかして異邦人さん?」
薄い金色の球体を売る恰幅の良い女性に声を掛けると、驚いた顔でこちらを見られる。
「さっき来たばかりなんだけど、あんまり見た事ない物だったから」
「これは軍隊蜂の蜜を練った物さ。
そっか…アンタがさっきの世界の声で聞こえた異邦人なんだね」
「そうみたいだね、二つ買っていい?」
「毎度あり。
…これをアンタに言うのはお門違いだとは思うんだけど、この街には今王国の偉い騎士様が来てるんだ。
顔を合わせないように気を付けな」
二つの練り蜜を受け取った俺に、少し声を低くしておばさんが忠告をくれる。
「なんで気を付けなきゃ…って、王国?」
「別の異邦人が何かやらかしたんだろう?」
ああ、推定死神被害者の会の人か。
しかも偉い騎士様と来たもんだ。それは確かに会わないに越した事はないだろう。
貴重な情報をくれたおばさんに礼と少しばかりの心付けを渡し、その場を去る。
「王国の騎士様ねぇ…あ、これ美味い」
「キュキュキュ!」
練り蜜、齧れば中から蜜が溢れて来る。
魚の卵を少し頑丈にした感じの触感かな。蜂蜜の上品な甘さが舌に心地いい。
後頭部を軽く叩いてくる白玉だが、流石にここじゃあ人が多い。
・・・・どこかに良い場所はないか。
周囲を見ようと顔を動かそうとした時、何かが背中にぶつかる。
「…ッ。すまない…考え事をしてぶつかってしまった」
「ああ、いやこちらこそ」
倒れた相手、ぶつかった物…いや者は女性だった。
紅い長髪と腰に下げた直剣、髪と同じく纏う鎧は赤で統一されている。
倒れてしまったので手を差し出したは良いが正に騎士然としたその姿に、嫌な予感が警報を鳴らす。
顔を上げた彼女が俺を見た。
俺の出で立ちは、この国には似つかわしくない旅人のような服装。
その眼が大きく見開き…敵意を乗せる。
「貴公は…異邦人かッ!」
「…恨むぞバルカン」
やはり俺はこの世界の神に嫌われているらしい。
空を見据え、入った際に加護を与えてきたバルカンに悪態をつく。
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どこかの神界。
「いや、俺関係ねえだろうがよ!?」
「うるさいぞ、バルカン」
「バルバル何見てるのー?」
「あ、いや…なんでもねえ」
「なんか怪し~」