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【閑話】聖国の巨像・後

今年最後の更新です。

あ、三が日は色々忙しいので更新ないです。

ただ正月のガチャで爆死したらひょっこり更新します。

親愛なる読者様たちは私の神引きを願ってください。

倒壊。

周囲に響き渡る轟音を響かせながら、巨兵の左足が落ちる。片方の足を失った巨兵自身も、身を前に倒し、両の腕で身を立てる。

絶好の好機。

そんな、今です攻撃してくださいとでも言う様なモーションを彼らは見逃すはずもなく。



「フルボッコチャーンス!」


「よっしゃあ殴れ殴れ!」


「DPS上げてけよぉ!」


「…『復讐の剣』」



最初に八千代が駆けだす。

それに源氏小僧が続き、再び復讐ゲージを貯めるように刃狼が剣を振るう。

情け容赦のない猛攻を受け続ける巨兵は、未だ身動きを示さない。

そもそも片足を失ったせいで立つ事など困難なのだが。

腕を駆けあがり頭を殴り続ける前衛組。



「あ、コアみたいなの出てきた!」


「弱点遅すぎねぇかぁ?」



四つの目が合った場所が露出し、青い玉が姿を現す。精密機器のような物が並び、その中心で輝き浮かぶ水晶のようなソレは今この時でなければ美しいと評せる物だ。



「…『クイックショット』」


「白椿、早いな!?」


「…先手必勝」



三本の矢を携え一度に打ち放つ白椿。

それぞれが別々の軌道を描き玉に着弾を確認する。…するのだが次の瞬間、青色が怪しく赤く輝き出した。



『緊急防衛システム…緊急防衛システム…緊急防衛システム…発動します』


「おい、これやばくねえか?」


「椿ちゃんやっちゃったね!」


「…予測不可能」



警戒する面々を他所に、けたたましいアラームの鳴り響く巨兵が…動き出す。

両腕で大地に平伏すその胸部が開き、中から夥しい量の小型化された巨兵が地に落ちる。

マネキンのような外見に反し、動きの速い傀儡が周囲に散乱する。



「やったー!八千代の出番!」



巨兵の首元から飛び降りた八千代が、傀儡に襲い掛かる。

首、首、首、首。

続々と排出される傀儡達の首を刀で撫で斬りながら並走する八千代は、とても楽しそうだ。

一つ目の街のボスであった土竜も今までのボスと同様に一体で出現した。

常に土の中に潜み、敵を補足し姿を現す。

…だからこそ、八千代は鬱憤が溜まっていた。

彼女の本領は集団にこそ輝く。

絶えず現れる傀儡は彼女にとって格好の獲物。


『剣の道』は集団戦闘に特化したユニークスキル。

パッシブ故にリキャストを気にせず発動するそれは八千代との相性が頗る良い。

刃狼の『復讐者』と似た、状況に応じて自身にバフを掛けるスキルだが『剣の道』に上限はない。

それは辻斬りのように、鎌鼬の如く敵を斬る度に上昇するSTRとAGI。

生まれ落ちた傍から、その首が落ちる。

大好きな自分の主を真似て戦い方を模索し続けた彼女個人のPS。

後衛に届く隙も見せずに傀儡を狩り続ける様は、まさしく夜叉の様だろう。



「下は八千代だけで良さそうだねぇ…」


「俺達はあの石狙いやしょう」


「八千代、楽しそう、だね」


「…異論はない」



満場一致で石をタコ殴りする事に切り替えた前衛組は慣れている。

クロノスの頃も彼女は集団戦闘で無類の強さを発揮していた。

そもそものポテンシャルが高い事に加え、完全に嚙み合ったユニークスキルと今回は首領から直々の頼み事。

気分が最高潮に達してる八千代は高笑いを上げながら傀儡を斬って回っている。

そこに器用に混ざる桜吹雪鱈や社畜の魔術があれば支援にも支障は出ない。

それぞれ再びアビリティを使用し殴る事、残りHP3割。



「最後にもう一回なんか来そうだね」


「警戒、しとこう」


「光線に手下召喚の次は何が来るんスかねえ」


「…ヘイトはまだ俺だろうか」



先程の傀儡を出した行動から巨兵は再び沈黙している。嵐の前の静けさとでも言うのだろう、警戒しつつも手を止めないのは彼らの性だ。

DPSを加速させ、持ち得る限りを尽くして殴り続けて早1割。

巨兵に動き在り。



『GU…GAAAAAAAAAAA!!』


「うぉっとぉ!?」


「…落ちる、ね」



一度目とは比較にならない程の怒号を放つ。

叫び声の風圧によって、全員が地面に直地。

無機物ながらも怒りに満ちた咆哮と共に巨兵は顔を前へと向ける。

片足を失い、獣のように四つん這いになりながら自分を追い詰めた敵を見据える。



「すっごい嫌な予感がするっス」


「ダイレクト、アタック…?」


「・・・・・・・」


「悠長に見ている場合か!?『エリア・テレポート』!」



†災星†の魔術によって、全員が後衛組の近くへと引き戻される。

今もまだ傀儡を斬り続ける八千代以外の頭には冷や汗と共に一つの仮説が浮かぶ。

死に瀕したモンスターの行動で一番多い物は…自滅だ。その考えは的中したらしい。



『GURAAAAAAAA!!』



咆哮と共に集まった面々の方を向き、力任せに両腕で大地を押し返し突進。



「おいマジで来たぞぉ!?」


「流石にあれを押しとめる事は、出来やせんね」


「いっそ俺様が殴って!」


「お前は少し黙ってろバカ」



てんやわんやと騒ぐ彼らを他所に、巨兵は速度を変えず迫って来ている。

30、20、10…。



「全員散開なさい!」



女王の号令を聞き、四方にばらける。

間一髪…次の瞬間にはその場所を巨兵の図体が突き抜けて行った。


闘牛。


一点を見据え、力を振り回し木々を薙ぎ倒し、巨兵の体が右に旋回。

手応えを感じるまで続ける気のようで、再びこちらに突撃をかましてくる。



「…もう一回、来る」


「どうするかね、ありゃ」


「私もユニーク使っちゃうっスか?」


「「あれは危ないからダメ」」


「残念っス」



迫る巨像。迫る突進。

二度目の退避を終えた頃、BBがポツリと†災星†に呟いた。



「…セイちゃん、後何回、集団転移使える?」


「二度だな。それ以上ではポーションが底を付く」


「…転移場所を、あそこに出来る?」



BBの示す先を全員が目を向け、全力で静止する。



「いや待って、それは不味い」


「BBさん、そんな脳筋でしたっけ?」



彼女の目標と定めた場所は聖国の外壁。

ルディエの街とは比較にならない程の巨大さ、頑丈さを誇るだろう白亜の鉄壁。

あの巨像の速度では、仮にあそこまで行っても逃走は不可能。

ならば、彼女の言いたい事は自ずと見えて来る。



「あそこに、アレを、ぶつける」


「なんて曇りない瞳…」


「八千代は賛成!」



傀儡を全て切り伏せ、仲間の元に合流した八千代が勢いよく手を上げる。

彼女の今のAGIならば最悪突破する事も可能なのだが、それ以上に面白そうな事に躊躇がない。



「…きっと、首領も、そうする」


「お主の中で兄上はどういう立ち位置にいるのだ?」


「…圧倒的、暴?」


「それ、首領には言うなよぉ…最悪泣くぞ」


「他に手立てもないのですし、悪くないと思いますわ」



珍しく、このメンツでは常識人に入る女王が賛成の意を示す。

彼女としても、あの猛牛巨像を止める手段がないならなんでも使ってしまえと考えている。



「…やっちまうか?」


「そもそも、俺らはモンスターを討伐しようとしただけでやす…」


「…異論無し」



既に二度目の旋回を器用に避けた面々は、方針が決まったと頷き合い、巨兵を向く。



「『エリア・テレポート』」



足元に巨大な魔法陣。

数舜の間に視界が切り替わり、目と鼻の先には外壁。

一度彼らを見失った巨兵。

人間臭く周囲を見渡しこちらに迫ってくる。



「ギリギリまで粘るぞ」


「チキンレースだね!」


「一番早く動いた人が何か奢りっスね」


「随分と楽しそうですわね…『女帝』」



絶体絶命、少しでも油断すれば全員ロストだと言うのに彼らは無邪気に笑い合っている。

残り30…20…15…。



「途中で急停止されても困るからよぉ…『ボディパージ』『アクセルブースト』」



仲間達と共に、巨兵にも付与魔術を発動する。



『GAAAAAA!!』


「まだ…まだ…今…散開!」



いつでも動く準備を整え、声を聞いたと同時に四方八方に回避行動。

まるでボーリングの玉の様に速度を落とさず猪突猛進する巨兵が、白亜の外壁に激突する。



『GURA…A…A…』



けたたましい轟音を周囲にまき散らし、体が崩れ落ちる。手先から胴体、胴体から、頭、足。

短い時間ながら、その光景には凄みがあった。


全てが瓦礫となった瞬間…アナウンスが流れる。



《『守護巨兵』の討伐を確認しました》


《戦闘に参加したプレイヤーは称号『巨兵の崩壊者』を獲得しました》


《討伐報酬を獲得しました》



クラン『クレイジー・キラークラウン』の聖国踏破が成された瞬間だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 私は聖人君子なんて真っ平ごめんですので、爆死祈願いたしますね
[一言] 親愛なる読者は続きが早く見たいから爆死祈願するんじゃね?w
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