ほら、怖くない(怖い)
「キュキュ…」
前足で器用に口を覆っている小動物。
この世界で動物にほぼ全裸で接近する男なんて俺位のはず。高性能AIの事だ、きっと今この小動物は驚愕しているのだろう。
更に手を広げながら緩やかに近づく。
取り敢えず配信ウインドウを一時的に消しておこう、俺の精神衛生上今は宜しくない。
何故か毛の逆立ちが増しているような気もするがきっと気のせいだ。
俺は小動物と目と鼻の先の距離まで近付いた。ゆっくりと腰を下ろし手を伸ばす。
笑顔も忘れずにな。
ニコッと。
「さあ」
「キュキュキュキュッ!」
「おい、暴れてどうしたんだ」
首をブンブン振りながら未だ毛を逆立てる小動物。
それでもここで引いては気を許してくれたコイツに対して無作法というもの。
男たるもの実行するときは強引に。
更に手を差し出してみる。
「こっちに来なさい」
「キュキュッ」
「っ…!」
手を齧られてしまった。うん、流石に近すぎたかな。
あ、これでもダメージって入るんだ。あれ、8割くらい減ってる。一噛みで???
だがここで敵意を見せれば、きっとコイツは逃げてしまうだろう。
折角見つけた第一原生生物。
開拓の良き相棒になるかもしれないし、丁寧に優しく接しよう。
しっかりと小動物の目を見据え、笑みを深める。
「ほら、怖くない」
「キュキュ…」
「さあ」
小動物が驚愕の表情を浮かべ口を離す。俺の想いが通じたのだろうか。俺の目を見ながら傷口を舐めてくれる。
あ、HP回復してる。まさかのヒーラー確保?
昔の映画をリスペクトしてみたけどこれ本当に効果あるんだな。
傷が回復すると、小動物が俺の手の上に移動してきた。
これは…友情?
尚もプルプル震えているが、もしやコイツも俺を友と認めてくれたのだろうか。
認められた事に喜んでいると、唐突にアナウンスが鳴り響いた。
《スキル『使役術』を獲得しました》
《アビリティ『テイム』を獲得しました》
テイム?ああ、昔いたねサモナーとかテイマー。
一定以上敵性エネミーと仲良くなると出現するスキルだったか。
あれ、じゃあこの小動物モンスターなの?まあどうでも良いか、つまりこれはこの小動物が俺を認めてくれたという証左だ。
こんな良いタイミングでアビリティが使えるようになったのは、神が俺にコイツを使役しろというお達しのように感じる。
よし、使ってみるか。
「俺と共に来い、小動物…『テイム』」
「キュキュ…」
小動物が頭を下げる。
《『ホワイト・カーバンクル』との契約に成功しました》
《称号『幻獣種の契約者』を獲得しました》
《『ホワイト・カーバンクル』に名付けを行ってください》
「名付け?」
「キュキュ」
頭を下げながら俺を見る小動物…もといカーバンクル。カーバンクル、というか幻獣ってなんだろう。クロノスの頃はそんな表記無かったし見た事もないな。
アルテマへのコンバートによってモンスターの見た目や挙動も一新されたと聞くし、新しい種族でも追加したのだろうか。
まあ、こういう事は考察クランの領分だから俺が考える事でもないか。
名前どうしようかな。
「ホワイト・カーバンクル…ホワイト…白…」
名前を付けるのは昔から苦手だ。家で飼っていたポメラニアンにはケダマと付けてしまう程に俺は名付けが苦手なんだ。
あの時のセイちゃんの顔は今でも忘れられない。虚無ってあんな顔なんだろうな。
白いモフモフ。よく見ればコイツ丸まったら毛玉みたいになるな。白い毛玉…白毛玉…よし。
「今日からお前の名前は白玉だ」
「キュキュ!」
おお、白玉がやる気に満ちた顔で右足を掲げている。俺も中々良い名前だと思ったしこれはグッドコミュニケーションだろ。
「これからよろしくな、白玉」
「キュッ」
白玉の頭を撫でる。プルプル震えていた体もいつの間にか元に戻っている。
プルプルの白玉…抹茶ぜんざい食べたいな。
あ、そういえば配信ウインドウ消してたんだ、呼び出し呼び出しっと。
「悪いなお前ら、ちょっとパーフェクトコミュニケーションの為に閉じてた。
改めて、俺の新しい開拓仲間になった白玉だ」
「キュキュッ!」
「良い名前だと思わないか?」
自画自賛になるが、素晴らしい名前だろうとコメント欄を覗けばコメントが凄い勢いで流れていた。
あれ、月見大福考察するとか言って消えてる。アイツも忙しいヤツだな。
《色々言いたい事もあるのですけども【ハートの女王】》
《それを抜きにいうよお兄【†災星†】》
セイちゃんが素に戻っている。
統率の取れたように二人の発言から一切誰も一言も発さず、数秒後に同一のコメントが流れ出した。
《それはない【†災星†】》
《私は良いと思うよリッくん!【八千代】》
どうやら賛同者は八千代だけらしい。俺は崩れ落ちた。