騒動の終わり
クリスマスイベで重要情報氾濫させるのやめなよ。
ストック書こうとしてるのに手が止まってずっとストーリー読み直してるじゃん。
骨との激闘を終えて、俺は先程の指輪を鑑定してみる事にした。
折角あんな苦労をして手に入れた物だ、ふざけた性能だったら湖に投げ捨ててやる。
『渇望の残骸』
飢餓なる者ムクロアダバナが封じられた玉石の指輪。
これに封じられた者は過去に不遇の死によりこの世を去った魂。生への飢餓、飢えに呻く死霊は、やがて寄せ集まり一つの怪物となった。
:INT+50 MID+100 AGI+100
:使用時『飢餓なる者ムクロアダバナ』を召喚する事が可能。
悪くないな。
アクセサリーだからAGIに少し位上昇が付くと思ったけど、まさか100も付いてるなんて。
これはアレか、ルナーティアが俺に致命殺をしろと囁いてるのだろうか。
…どこからか『違うよー』と聞こえて来るがきっと気のせいだろう。
「お眼鏡には適ったようだな、首領」
「案外悪く無いな」
「そりゃあ何よりだ。お前さんに渡して良かったぜ」
「私は気が気ではありませんでした…」
ハルカが疲れ切った顔をして桜玉の世話を焼いている。
そういえばこれ一応ユニーククエストの報酬なんだっけ。なんかクエストに次ぐクエストで全然そんな気がしなかったけど。
まあ折角苦労したんだし貰える物は貰っておくけど。
…良い小間使いが出来た。
「ああ、リクの小僧。前と同じく米やらもお前さんに送っておいたぞ」
「至れり尽くせりじゃん」
「それ程危うい状況だったって事だ」
アイテムボックスを確認すると、確かに前よりも数量が増加している。
アイツら弁当はおにぎりとか言ってたけど、ずっとおにぎりで飽きないのかな。
「それじゃあ、俺達はそろそろ帰ろうかな」
「なんだ。随分とせわしないじゃねえか」
「急な依頼だったから消化しようと思って来ただけだし」
「首領、某はもう少し狩りをしていく」
レベルキャップに到達したってのに随分と熱心な事だ。上限解放までに経験値を貯める為だろう。
ウインドウを操作して目的地をマイルームに設定。
「じゃあね爺さん」
「おう、鬼共の動きも止めりゃあ桜玉の生誕の宴をやる。そん時にゃのんびり遊びにでも来い」
「良いね、祭りは好きだ」
面倒事も片付いた事だし、今度はゆっくりしたいな。
その時は皆も呼ぼう。
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「ハァァァァァァァ!?」
数多く制御デバイスが乱立する室内で、一人の男が絶叫する。
この男、三雲一成はアルテマ・オンライン開発部門の責任者を務める男だ。そんな、彼が何故人の目も憚らずに声を上げているか。
「部長、人類罪禍の『飢餓』がプレイヤーの手に渡りました…」
「いや待て、どうしてそうなる!?」
人類罪禍はグランドクエストの発生後に情報公開を考えていたモンスター。
数多を食らい続け、オウカの街とシラユキの街を滅ぼしレイドボスとして満を持して登場…と考えていたはずなのに何故そんな事になったのか。
「…道化がまたやりました」
「あの厄ネタ男がぁぁぁぁぁぁ!」
彼らの言う厄ネタとはリクが使う物とは別の事を差す。
それは例えば海を泳いで戦国に密入国した彼のクランメンバー、王国に単身で喧嘩を売った死神、黒竜を薙ぎ倒す天剣。
道に迷いながら着々と獣国に迫る放浪者など、自分たちに残業と言う名の苦行を強いる者達の事を言う。
そもそも戦国、獣国もグランドクエストを進めなければ存在すら掴めないはずだったのに。
「アルテマは何をやっている!?」
「現在、演算中と言って姿を消しています…」
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!」
統括AIであり、アルテマ・オンラインの全権を担う虹の髪を持つ少女を思い出し一成は頭を抱える。
「どうして色災に続き、飢餓までもその手中に収めているんだアイツは!
というか色災ってなんだ!?
我々はあんなモンスターを入れた覚えはないぞ!?」
「ぶ、部長落ち着いて…」
「これが落ち着けるかぁぁぁ!」
リクが天空島を訪れた際に得た情報は彼らにも伝わっている。
だがそもそも、あの天空島の存在も、ましてや色災などと言うモンスターの情報も彼らにはない。
開発部とは言うが、彼らは言わばアルテマの体の良いサブオプションのような物。
全てはアルテマの制御下にあり、彼女が行動を起こさなければ修正も何も出来ない。
「どうしてあの男ばかりこんな事を引き起こす…」
「本人もなんでこうなるのかと頭を抱えていますが…」
「だったら行動を自粛すれば…。
いや、それではゲームではなくなってしまうのか…!」
自分たちの都合を押し付けてプレイヤーに負担を強いるのは開発者として一番してはいけない事。
誰しも平等と公平、そして力が全てのゲームがこのアルテマ・オンラインなのだから。
「本人が攻略に乗り気じゃないのがせめてもの救いだったのですが」
「半ば強制的に介入させられている…か」
今回のアズマでの出来事だって、全ては出来過ぎた偶然に他ならない。
彼がオウカとシラユキの諍いを未然に防いだのも、NPCから助力を請われたから。
飢餓を引けたのも、ただアクセサリーが欲しいと言ったら渡されてしまったから。
薄ら寒い物を感じてしまう。まるで、誰かが裏で糸を引いているかのような。
「…何を考えているアルテマ」
思えば彼女も不思議な存在だ。
急に本社がAIに管理を一任すると言って現れた彼女。クロノスの成功も何も彼女の助言があったからこそ成し得たもの。
ただ、どこで製造されたのかどの国が生み出したのかも全て謎に包まれた者。
「一先ずは、様子見をする他ない…」
「そろそろ第一弾アップデートが近付いてますからね…」
部下にそう促し、話を終える。
画面を見ると件の男は腹を擦り、何かを堪えるような顔をしている。
何故だろう。厄ネタの筆頭であるのにも関わらずどこかシンパシーを感じてしまう。
「どうか面倒事だけは起こさないでくれよ」
多くの引退者に怒りながらも、彼もまたどこか楽しそうにその光景を見ていた一人だった。
画面を消し、痛む胃を撫でながら一成はそう呟く。
はい、サラッと倒された六つの罪の一体さんでした。
そもそも状況がイレギュラー過ぎて『飢餓』は常時不利対面過ぎた。
まあ本作ほのぼのだからここら辺はね、うん。
あとでIFシナリオの『飢餓』書こう。