達成報酬
ケーキ最高、甘味とレッドなブルがあれば生きていける。
場所は以前と同じく大広間。
上座に座った爺さんは美味そうに盃を掲げている。
首に巻き付く桜玉を撫で、現在思考中の俺。
「んで、リクの小僧。今回の功労者のお前は何が欲しい?」
「正直考えてないんだよな」
「またそれかよ」
後ろに控えるハルカと朱雀はどちらも俺の方を向いている。戦場を後にした俺達は、一度合流し改めて大広間を訪れた。
いや、正直欲しい物って言われても特に何もないんだよ。
最初にオウカを訪れてからそれ程時間も経ってないから米や酒はまだ在庫があるし、なんならオウカに買いに来る事も出来る。
武器は自分で打ってるし、防具はゴドーが時々送りつけて来る。そもそも言って、今の俺はレベルの割に過剰戦力だ。
「なんかねえのかよ…」
「強いて言えば、アクセサリーかな」
嵩張る事はないし、装備してれば効果も発揮する。
アクセサリーに装備制限は存在しない。
同じ物を装備しても一つの効果しか発揮しないが、別の物なら重複する。
昔源氏小僧がSTR上げる為に筋力の指輪を10個も集めて盛大に爆死してたっけ。
「アクセサリー…装飾か」
「首飾りは爺さんから貰った物があるし、指輪とかが良いかな」
指輪は今の所、右手に付けた翠玉のヤツだけだからね、後9個は付けられる。
「…ああ、あれがあったな。
ヒオウ、肆番の宝物庫に入ってるアレ持ってこい」
首を捻っていた爺さんだったが、やがて何かを思い出したのか顔を上げハルカに命じる。
宝物庫に番号振ってるのか、どれだけあるんだよ。
「肆番台…よろしいのですか緋桜龍様!?」
「どうせ儂が持ってても何の価値もねえんだ。
このリクの小僧なら使い熟せるかもしれねえしな」
「…そこはかとなく嫌な予感がする」
「首領、某もだ…」
頷き合う俺と朱雀を他所にハルカが大広間の外に駆け出していく。
随分と焦った顔をしてたけど、一体何を持って来る気なの?
「お前さんが望んだ指輪だぜ。
まあ、ちと捻くれ者だが使い勝手は良いだろうさ」
「指輪に使う言葉じゃないよな」
「なに、昔ここいらで悪さしてた骸骨を封じたもんだ」
「絶対曰く付きだよな、それ!?」
「お前さんなら何とかなるだろ!」
カッカッカと笑い盃を呷る爺さん。
何その信憑性の欠片もない信頼!?
俺が愕然と爺さんを見ていると、黒い箱を両手で抱え帰ってくるハルカ。
「緋桜龍様、お持ちしました…」
「おう、リクの小僧に渡してやりな」
「はい…」
神妙厳かな表情で俺の方を見て箱を開けるハルカ。
中に入っているのは、髑髏の装飾のされた一つの指輪だ。
目には紫色の宝石が嵌め込まれている。
周りには幾枚も札が張り巡らされており、どう見ても曰くしかありませんと言うような代物。
「…これ、本当に俺が付けるの?」
「リク様、無理はなさらないで下さい」
「無理するような事が今から起こるの!?」
今報酬の話をしてたんだよね?
なんでそんな死地に赴く兵士を見るような目で俺を見てるの?
箱に手を近づけ、指輪を取る。
「…付けなきゃダメ?」
「最悪儂が一度お前さんを討ってやるよ」
「朱雀、このジジイを斬っていいぞ」
「承知した」
「待て待て、マジでやる気じゃねえだろうな!?」
背の刀に手を伸ばす朱雀を見て驚く様子の爺さん。いや、割と本気でやろうと思ってたんだけど。
一度朱雀を抑えて手に取った指輪を見る。
呪物じゃん、これ完全に呪物じゃん。
「…まあ、やってみるか」
「リク様、どうか心を強くお持ちください」
念を押して俺に告げるハルカに桜玉を渡し、えいやと指に嵌める。
その時、俺の周りに黒い靄が現れた。
『嗚呼…嗚呼ァ…!
緋桜龍…忌々シキ華ノ龍…!
我ガ身ヲ封ジ、永キ時ヲ幽閉シタ蛇…!』
黒いモノが俺の後ろで形を作る。
悍ましい骸骨。ドロドロとした呪詛を孕んだ骸。
爺さんを紅い瞳孔で睨み付け今にも殺してやると言う強い気が俺に流れ込んでくる。
「久しいじゃねえか死骸。
随分と姿が縮んだみてぇだな」
『黙レ…カノ玉ニ捕トラワレサエシナケレバ…我ハ貴様ナゾ容易ク喰ロウテクレル…』
「言う事だけは一丁前な所は変わりねえ。
どうした、随分と今日は口が多いな」
『フッ…クハハハハッ。
貴様ガコノ玉ヲ渡シタ人間、随分良ク馴染ム。
マルデカツテノ死骸ガ戻ッタヨウニナ。
コレナラバ、貴様ヲ』
「なんて言ってるが、どうだリクの小僧」
怒りに任せ熱弁を振るうデカい骨と、俺に顔を向け調子を問うてくる爺さん。
どうだと言われても。
「イベントシーン終わった?」
「なんだ、なんともねえじゃねえか」
『ナンダト!?』
「いや、何が?」
二人の話が終わらないから折角待ってあげてたのに、何故か驚愕して俺の顔を覗き込んでくる骨。
止めろ近付くな、ちょっとホラーなんだから。
右手で近付く骨を押して元の位置に戻す。
「リク様、何ともないのですか…?」
「ごめん、説明してくれない?」
「…その指輪は強力な呪具なのです。
身に着けた者はその精神を侵され、傀儡のようになる物。その為、肆番の宝物庫に厳重に保管されていました」
「マジもんの呪物を人に押し付けるの止めてくれない?」
「あの御方の祝福を持ってるんだ。
ただの呪詛にゃ負けねえだろうと踏んだのよ」
これ『銀月の祝福』の効果か。
そういえば精神汚染の無効化とか書いてあった気がする。
押し黙り俺を見る骨と目を合わせながら爺さんに問いかける。
「爺さん、この骨って結局どうすればいいの?」
「元来魔性を制するには調伏するしかあるまい」
「つまり力関係を見せつけろと?」
「そういうこったな」
成程、至極真っ当な言い分だ。
でも人型ならまだしも骸骨には打点ないしな。
…あ、そうだ。
「朱雀、やっていいよ」
「任せてくれ首領」
言うが早いか地面を跳ねて骨の顔面に蹴りを入れる朱雀。
良かった、うちの懐刀がいて。
《ユニーククエスト《飢餓》が開始されました》
《ユニークボス『飢餓なる者ムクロアダバナ』との戦闘が開始されます》
ユニーク終わらせたらユニーク出て草。