【閑話】シラユキの一幕
クリスマスだし細やかな投稿。
閑話、何故か男連中のレイドボス戦になったのでお蔵入りです。
一人で読みながらニヤニヤする事にします、なんでこうなったんだろう。
冬の街シラユキ
鬼人族のみが暮らす常に雪の降る街。
「オニユリが捕らえられただと!?」
早馬を走らせた兵を前に驚愕の声を起こす男の名前はドウジ・キサラギ。
冬の街の領主であり、鬼王と呼ばれる男だ。
「まだ半刻も経たぬ内にどうしてそのような事が起こる!?」
「一人の異邦人です。その男が単独で我らの陣に姿を現し、オニユリ様は…」
「ッ…まさか龍狩りの男か?」
「いえ、黒い外套を羽織った線の細い男でした」
「…龍狩りではない別の異邦人だと?」
想定外の事だ。
このアズマに滞在する異邦人を龍狩りのみと決めつけていた。まさか、もう一人龍人に与する者が居ようとは考えてすらいなかった。
「…その男は、なんと言っていた」
「オニユリ様の命が惜しくば、兵を退けと」
「脅しか」
やってくれたと、ドウジは思う。
未だ緋桜龍への恐怖が薄れぬ内に、新たな戦力があの地に現れた。
どうにかして、龍狩りをこちらに引き入れようと画策した途端にこの始末。
「戦都に援軍を要請しますか?」
「…先に兵を動かしたのは我々だ。
戦都の巫女はあらゆる意味で公平、要請した所で簡単に跳ね除けられる」
肘置きを強く拳で打ち付け歯を軋ませる。
どうしてこうも、自分の思う様に上手くいかないのか。
それもこれも全て、あの春の街があるからだ。
もし仮に軍を退かせず争えば、間違いなくあの男はオニユリの首を晒すだろうと、早馬の兵が言う。
鬼の勘、鬼の本能に彼らは絶対的な信を置いている。それは戦事で常に自身と共にあるモノだから。
それ故に思うのだ。
あの男は間違いなく狂人だ。
アレは幼子の体だろうと笑いながら解体し、戦場に捨てる男だと。
「…兵を退かせよ。オニユリの才は我らには必要な物だ」
「ハッ」
早馬の兵は一度ドウジに頭を垂れ、速やかに退出する。それほどまでに鬼王の判断は絶対なのだから。
「龍狩りに、黒衣の男…異邦人とは化け物しかいないのか!?」
一人になった大広間でドウジは叫ぶ。
龍人の助力を受けながらも、龍種を討伐した龍狩り。そして、たった一人で敵陣に現れ少しの間に指揮官を攫った黒衣の男。
相手をするにしても分が悪すぎる。
何故そんな強者が春の街にばかり集うのか。
「お父様」
「…アザミか」
声が聞こえる。
ドウジの娘の一人であり、鬼王の子の中では群を抜く戦の才能を持った才女。
赤紫色の髪をし、生まれ持った鬼灯のような目をドウジに向けながら不安そうに声を出す。
「オニユリは、無事なのですか?」
「…ああ」
アザミは子供達の中でも歳の近いオニユリと仲が良かった。
自分の可愛い妹が、敵地で一人虜囚となった事を聞いた彼女は顔を蒼白とさせている。
戦の才を持っても、まだ年は17。
妹がどんな目に合っているのかと考えてしまったのだろう。
「我らが兵を退かせれば、オニユリを解放すると言ったらしい。何も心配する事はない」
「分かりました…」
部屋を出ていくアザミの顔色は変わらない。
「いつか必ず貴様らを討つぞ、龍人共」
この屈辱を忘れて何が鬼か、アズマで最後に笑うのはこの我だ。
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その頃のオニユリの様子。
「不審者さん、このお菓子凄く美味しいのです」
「俺の仲間が作ったもんだからな。
てか、知らない人から菓子は貰わないんじゃなかったのかよ」
「もう不審者さんの名前は聞いたので知らない人ではないのですよ」
「ならいい加減名前で呼んでくれねえかなぁ」
「それはそれ、これはこれなのです」
「この、ガキッ…!」
「あ、そっちの本取って欲しいのです」
「あ?ほれ」
「ありがとうなのです。お茶も貰っていいです?」
「本当に図々しいよな、お前」
「…何故か今心穏やかなのです」
「自分が捕虜の身なの忘れてないよな?」
夜が更けていく。
楽しそう。
キャラ情報入れます。
『オニユリ・キサラギ』
人間換算で15歳、身長146㎝。
鬼王ドウジ・キサラギの末娘であり読書趣味の文学少女。
中央の学園に通っている間に図書塔の本を読み漁り、身に着けた兵法がドウジに認められ正式に娘として迎えられた。
レベルは低く、耐久も薄いので案外首領でもNPK可能だが何の因果か拉致される。