表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/156

【閑話】白い守り人

やっとコイツのターン。


ボクはホワイト・カーバンクル。

ルナーティア様が創造した眷属であり、この銀月の国の守護獣。

数百年以上この地を守ってきたボクはある日、変な人間と出会った。



「リス?」



本当に不思議なヤツだ。

異界に閉じられたこの国に急に姿を現し、ボクの領域に踏み込んできた。

侵入者は排除しなければいけない。

あの方が愛したこの国を荒らさせる訳にはいかない。薄気味の悪いニヤケ面を晒すその男の前に立つと笑みが深まった。

正直、夜じゃなかった事が悔やまれる。夜であればこんな盗賊のような者すぐに排除出来るのに。

近づいてきた男に警戒心を上げる。



「キュキュ…(何やってんだコイツ…)」



突然男が自分の装備を脱ぎ出した。

思わず口を覆って驚きをあげてしまったが、仕方ないだろう。急に不審な人間が目に前で服を脱ぎ出したんだから。

近づいて来る度に毛が逆立つのを感じる。

これは、畏れだ。

自分には到底理解が出来ない存在に対する恐怖心。



「さあ」


「キュキュキュキュッ!(やめろこっち来んな)」


「おい、暴れてどうしたんだ」



首を振り続け拒否の意思を示す。

普通に考えて、ほぼ全裸の人間が気味の悪い笑顔を浮かべて近づいて来たらこんな反応をすると思う。

人間世界ってこんなのが横行してるのか!?

手を伸ばしてきた侵入者の掌を反射的に噛み付く。

その時だ、不意に慣れ親しんだ銀月の気配を感じた。



『ダメだよ、カーバンクル。その子は私のお気に入りの子なんだから』


「キュキュッ(ルナーティア様!?)」


『どうも異邦人の来訪により、境界が少し緩くなっているようだね』



貴女様がこの侵入者をこの地に招いたのですか?



『うん。その子自分の島を楽しみにしてたんだけど、イデアルシアの大地だと限度があるからね』


「キュキュ…(成程…?)」


『だからこの国をあげる事にしたのさ』


「キュキュ!?(国を丸ごと!?)」


『あの子達は未だ聖域の外で封じられているし、大丈夫だよ』



そんな楽観的な…。

今はまだ目覚めぬ災厄達だが、既に綻びは始まっているのだ。解き放たれるのも時間の問題。



『それにね、カーバンクル。私の愛し子はいつも突拍子もない事を仕出かすんだ』



自分の事のように、嬉しそうに男を褒めるルナーティア様…良かった。

最後に見た貴女の顔は今でも忘れない。

そんな貴女が嬉しそうな声で語れる者が出来た事がとても喜ばしい。



『この子に今から力を与えるよ。

カーバンクル、どうか力になってあげて』



貴女の命ならば、幾らでも力を貸しましょう。

お任せ下さいルナーティア様。

…そうして、ボクは彼『リク』との契約を交わした。



「今日からお前の名前は白玉だ」



初めて誰かから与えられた名前。それがどうしようもなく嬉しくて、ボクは喜んだ。

後日、命名理由を聞いてご主人に飛び蹴りを入れたけど。


それからは波乱万丈でとても楽しい日々だ。

数百年ぶりの街を巡り、一緒に美味しい物を食べたり、その時に紛い者の端末と遭遇して何故かご主人が首を跳ね飛ばした。

翠の災厄が目覚めたらいつの間にかご主人と出逢って懐いていたり、海の向こうの国で純血の龍を仲間に入れたりもしていた。

本当に楽しい日々、だからこそ。



「キュキュキュ(お前達は要らないものだ)」



聖域の破壊によって生じるのは、災厄が目覚める事だけではない。

かつての月の国に住む者達の成れの果て、死廟の呪い。



『タヅケテクダサイ…』


『タスケテ…』


『ミンナシンジャッタ…』



この国には、ボクの他に住む生物はいなかった。

それは全てあの呪いに取り込まれてしまったんだから。

ご主人達がいない事を月光を使い知覚する。

彼らに見られるのは不味い…いや、あんまり不味い気はしないけど。

多分ご主人がまた頭を抱える。

だから今は見せないようにするのだ。月光に彩られたこの姿を。



『ガルルルッ』



白銀の巨狼…月の狼マーナガルム。

ルナーティアが生み出した最初の眷属。

そして彼女の終わりを見届けた最後の獣。

荒れ狂う飄風は空を裂き、その爪は黒剛石すら容易に切断する銀の狩人。


我が主人と彼に付き従う者達、そして何より敬愛する銀月の安寧こそがボクの使命だ。



『グラァァァァッ(その為に滅びろ、古き人間の成れの果て共)』



銀が爆ぜる。瘴気が失せる。

今宵はこれまで、どうか安らかに遥か遠い市民達よ。


ポフンッと姿をカーバンクルに戻し、ボクは街に戻る。



「キュッキュッキュ〜(帰ってメルティのお菓子食べよう)」



アレは美味だ。

ご主人も度々菓子を作るが、メルティには及ばないといつも言っている。

最近ご主人はあまり帰ってこないから果実パイも食べれない。どうやら東の国で争い事があったとか。

本当にあの方は面倒事に好かれる。

次に帰ってきたら果実パイを強請りながら、頭でも撫でてあげよう。



「キュキュー(早くご主人帰ってこないかなー)」



そうして今日も夜が明ける。

色災を封じる為の眷属がただの白い毛玉な訳ないじゃん?


大型フォルムチェンジ、何ならステータスとスキルも変動する。

最大の厄ネタはいつも身近にいる…。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 (っ’ヮ’c)ワア [気になる点] (っ’ヮ’c)ワア [一言] (っ’ヮ’c)ワア 厄ネタ
[良い点] (っ’ヮ’c)ワア 首領の反応が楽しみですなぁ… [一言] 更新感謝(ㅅ´꒳` )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ