小動物現る
唐突な報告に俺は告げられた方向を見る。
見渡す限りの変わらない樹木の群れの中に、ソイツはいた。
「リス?」
《可愛い!【†災星†】》
《かわっ!【八千代】》
《可愛らしいですわね…【ハートの女王】》
我がクランのちびっ子クラブ(1名違う)が同時に反応している。
小動物だ。大きさはリスよりも少し大きい位、白い毛並みとふわっふわの尻尾を持つその生物は俺と同じく木の上からこちらをジッと見つめている。
いや待て、それはおかしい。
俺は今隠者の外套を纏ってスキルを使っている。このスキルの効果は単純だ。味方敵問わず使用中全ての対象の認識を逸らす。
銀竜騎士団の『聖騎士』や対人特化の『死神』にも効果があったこのスキルが全く機能していない。
スキルが凶悪過ぎてナーフを喰らったならまだ分かるが、このゲームはクロノスの頃からそんなチャチな事はしない。強い者は強くなり、弱い者は淘汰される中々シビアな世界。それがキャッチコピーでもある。
大体スキルナーフなんてされるなら運営からメッセ飛んでくるだろうし。
つまりあの小動物は何某かのスキルを使ってこちらを完全に認識している。
問答無用で攻撃してこない事を見ると完全に敵対エネミーではないはずだ。
なら取れる行動は敵対じゃなく友好関係を育む事。
俺は木の上から飛び降り件の小動物を見る。飛び降りには一切反応を見せずこちらをみてやがる。当確だな。
《まだ掲示板や情報サイトにも記載がない動物だね【月見大福】》
月見大福の情報が本当なら俺がこの世界で初の邂逅になる。よし、ここは敵意を感じさせないように朗らかな笑顔を浮かべながら近づこう。
ニコッ。
おい、なんで初めてした反応が毛を逆立てる行動だ。
《うわ、顔こわ【HaYaSE】》
《俺に負けずとも劣らない悪人面だ…【蛮刀斎】》
《これ寧ろ敵対行動では?【月見大福】》
うるせぇぞ野郎ども!お前ら、俺のアバター殆ど弄ってねえんだからな!?泣くぞ!?
男連中からの言葉のナイフ投げを受け心が摩耗していると、いつの間にか小動物が木から降りて来ていた。第一段階成功でよろしいか?
ニタァ…
おい、だからなんで後ろに下がる。なんで怯えてるんだお前。
小動物をよく観察してみるとリスというよりも小型の狐のように思える。なんだろう、管狐?
殆ど掌サイズで凄い毛がモフモフしてて可愛らしい。
試しに近付いて見ると、またビクッ!と反応し毛を逆立てる。一体何が悪いんだろう、俺はただ友好関係を育みたいだけなのに…。
《顔だろ【蛮刀斎】》
《顔ですわね【ハートの女王】》
《リッくんは可愛いよ!【八千代】》
《首領は、カッコいいよ、悪の組織のボスみたい【BB】》
《ビビちゃんそれ背中押してるね【桜吹雪鱈】》
お 前 ら
なまじ褒めながら三途の川にぶち込んでくる奴らがいるから休まる暇がない。
いや待て、顔…そうか、そういう事か。
「確かに俺にはまだ警戒する要素があった」
《認めた?【HaYaSE】》
《あれは…兄上まて早まるな!!【†災星†】》
《悪人面なのに菩薩みたいな顔してやがる…【蛮刀斎】》
そう、元来動物とは警戒心が強いものだ。決して両手を開いて見せたといても罠があると思うのは道理。
俺はウインドウを開き装備欄へ移動する。
装備を、全解除する。
現在、インナー一丁。
《きゃあああああ♪【八千代】》
《おそかった…おにい、まってっていったのに…【†災星†】》
《何を、してますの…?【ハートの女王】》
《バカだ、バカがいるww【月見大福】》
《しぬ【凱歌】》
《『50,000マニー』【刃狼】》
《五万いったぞ!?【蛮刀斎】》
《いいね【BB】》
《ビビちゃんがウインドウガン見してる…【桜吹雪鱈】》
《流石俺達の首領だ【軍師カンペイ】》
コメント欄は阿鼻叫喚の騒ぎだ。約何名かおかしい行動してるやつもいる気がするが、まあ今は気にしないでおこう。
どうだ小動物、俺は全てをさらけ出した。
これでもう罠なんてものが無い事を理解してくれただろう。
真剣な眼差しで小動物を見据える。
俺の誠意を感じ取り、そして次に取った小動物の行動は後ろ足で立ち上がり、器用に前足を口元に当て。
「キュキュ…」
絶句していた。