ド畜生
ポケモン、箱イベと随分私の時間を削らせるじゃないか世界。
「リクの小僧!随分と早く来たじゃねえか!」
「それ、少し前に俺も言った気がする」
現在時刻は19時。
話し合いから一度解散し、『銀月の祝福』が発動する時間帯まで待って俺達はオウカを訪れた。
場所はオウカ北部の平原。前方には成程、数100位の本陣と大きな天幕。
あれに今回の獲物が入っているらしい。
寝起きに2、3杯酒を飲んだから気分が上がっている。
「それで爺さん、敵の大将は誰か分かってるの?」
「鬼王の娘だろうな。あの小娘は幼いが戦都でも指折りの知略家だ」
「リク様、オニユリと言う名です。
鬼の中でも知恵者と言われるキサラギ家の末娘。
ですが、彼女は龍との友好を望む方のはずなのですが…」
「名前は良いよ。とっ捕まえてここまで運んでくるだけだし」
「…事前に龍狩りから送られてきてたが、本気でやるのかよ。途中で見つかれば正面衝突だぞ?」
爺さんが渋面を浮かべているが、俺達の戦事なんていつもこんな突拍子もない作戦だ。彼らからしたら一大事なんだろうけど、俺からしたらクエスト。
ダメだったら最悪仲間達を呼んでゾンビ作戦でもすればいい。
翠玉とか呼んじゃダメかな。
「ご老公、首領はもう聞かない。気分が良い時はこうなるんだ」
「何事も楽しくやらなきゃね」
「…まあ、良いか。儂らも考える事は得意じゃねえ。
脅して引いてくれるなら御の字だ」
「グルァ…」
「緋桜龍様、あとの事を考えましょう…」
なんで朱雀以外の皆は深刻な顔をしてるんだろう。
今の俺は絶賛ハイ。このコンディションと隠者さんがあれば、俺に出来ない誘拐なんかない。
「あ、ついでだから配信付けちゃおう」
「…完全に上がってるな、首領」
なんだよ、良いだろ。
配信ボタンを押して、少しすると仲間達が集まってくる。
「お前ら、今から隠者くんの第二回性能テストの時間がはじまるぞ」
《…テンション高くねえかぁ?【HaYaSE】》
《ログイン前に高い酒を呷っておったからな【†災星†】》
《ああ、酒テンション…【ハンペン騎士】》
《いいね【BB】》
《『200000マニー』【刃狼】》
仲間達も揃った事だし作戦開始と行こうか。
「それじゃ、皆あっち向いてて」
「敵の方か?」
俺が示した先、敵の本隊がぞろぞろ蠢いてる場所を指差すと全員の目がそちらを向く。
「『隠者』」
「なんにもねえが…小僧がいねえぞ」
「リク様?」
「首領の持つ術だと思え、翁」
「…おいおい、存在の一時的な消失だと?
儂でも感知できねえぞ」
爺さんでも分からないんだ。
…じゃあ俺の隠者を破ったあの虹色幼女は改めてなんだったの?まあ今はいいや。
配信画面を付けた朱雀の画面を爺さんが覗く。
「それじゃあ行ってくるよ」
「…すげぇな。これだと声が聞こえるし姿も見える」
隠者の使用中は人との接触で解除される。
その他にも、解除はされないまでもアビリティや大きな動きを取る事で周囲に違和感を与える事もある。
だからこそ、使う時は細心の注意を払う必要があるが。
「まあ、慣れだよね」
これの使用感を一番理解してるのは俺だ。
どれだけ迅速にPK出来るかを探求して、ギリギリの速さを身に着けた。
言わばアビリティでは再現できない独自の歩法。
《前に平原で使ってた時も思ったが、すげぇよなぁ【HaYaSE】》
《使い手によってはどこまでも化けるユニークスキルは多いですわ【ハートの女王】》
《一時は、その人間にあったスキルをAIが作り出してるなんて噂もあったね【月見大福】》
《でも、首領の場合、スキルに合わせてる【BB】》
《改めて人外ですね【最終社畜V】》
「人外言うな」
自分がどこまでやれるかを探求するのは人間の性だろう。
俺は良くて突き詰められる時間が人より長いだけ。
朱雀や八千代、十六夜のような天性の物を持ち合わせていないからこそ出来た事。
正確に効率的に、どれだけ時間を短くして熟練者のPKを出来るか。
まあ、その被害者諸君にはごめんと言いたい。
反省はしてないけどね。
《もう目と鼻の先だ【月見大福】》
《あの平原よりは狭いからな【†災星†】》
《鬼だなぁ【HaYaSE】》
《でも女の人は可愛いね【八千代】》
《あれって男女差別とか言って叩かれないんですかね【最終社畜V】》
《可愛いは正義って全世界共通なんじゃない?【ハンペン騎士】》
何その下らない話題。
あれ、グダグダ言ってるのは自分に自信がない人の僻みらしいよ。
ゲームにそんな概念持ち込まないで欲しいよね。
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「ほい、到着」
《お疲れ様【月見大福】》
《天幕が開いていれば良いがな【†災星†】》
そこなんだよな。
知恵者やら知略家やら呼ばれてる鬼人なんだし、会議中以外でも天幕閉じてるんじゃないかな。
歩きながら周りを見ると、どうやら先陣に立つ鬼人族以外は皆後ろで暗い顔をしている。
今から戦をするんじゃないのお前ら。
兵の群れの中を歩きながら目を向けた先。
奥に見える天幕はその権威を誇示するように大きい。だが…。
「…思いっきり開いてるじゃん」
《普通密偵とか警戒しない…?【月見大福】》
《剛毅と言うか、なんというか【ハートの女王】》
《女王よ、人はそれをバカと言う【†災星†】》
《セイちゃんそれ結構失礼だからね?【八千代】》
いやでも、これはどうなの?
今から攫ってくださいって言ってるようなもんじゃん。
中には壮年の男の鬼人の他に、奥に鎮座し机を睨む少女が一人。
「あれが、オニユリ?」
《首領、どうやらそうらしい【朱雀】》
《オニユリ?【月見大福】》
《そういえば、何故兄上はここにいるのだ?【†災星†】》
あ、コイツ等に今の作戦の本筋言ってなかった。
改めて本作戦の内容を簡潔かつ分かりやすく説明しよう。
「今から、あのオニユリちゃんを誘拐します」
《は?【†災星†】》
《はい?【ハートの女王】》
《なんだって?【月見大福】》
《どゆこと?【八千代】》
《畜生だなぁ…【HaYaSE】》
《首領、そういうのが、タイプ…?【BB】》
《ビビちゃんが崩れ落ちてるよ首領!なんとかして!【桜吹雪鱈】》
やばい、コメント欄クソ荒れてる。