首領の冴えた計画
首領の悪ふざけ回が今、始まる。
芦屋サンタどこ行ったん?
「待たせたな、首領」
「まだ1時間も経ってないけどね」
予想に反して朱雀はすぐに来た。聖国の方は今は雑魚しか出て来ていないようで、今はレベル上げも兼ねて皆で狩りをしているらしい。
首に巻き付いた桜玉の体を撫でながら、俺は朱雀を見る。
「で、爺さんからの情報は?」
「翁の文によると、どうやら鬼人族の軍勢が春の街の近郊に陣を張ったらしい。
今は互いの兵が睨み合い、牽制状態と」
「龍人は力に秀でていますが、鬼は守りが固いのです。
長期戦になればこちらの分が悪いでしょう」
鬼人族の侵攻、攻め入りか。
ここ最近は特に争う事もない、みたいな事を爺さんが言ってたような気がするけど。
「そもそも、なんで急に鬼人族が攻めて来たんだ?」
「…それは某に関係がありそうだ。
龍人との協力により龍の一体を打倒した異邦人。その存在を鬼人族が掴んだ」
「今度は自分達と考えたのかもしれませんね。
かつての怨恨…鬼は基本粗暴で短絡的ですから」
「鬼人族はバカしかいないと…」
凄いしょうもない理由な気がするんだけど、気のせいかな。戦争ってこんなもんなの?
「達成条件は鬼人族の撤退、撃退かな」
「オウカの街の被害を抑える事も考えなければならないやも知れぬな」
「…いっそ、敵大将の首取った方が早くない?」
「明快だな」
「グルゥ!」
「リク様、無用な争いは避けるべきかと」
ハルカから止めが入った。
でも、相手は昔も殺し合った敵同士なんでしょ?
今回だって先に仕掛けてきたの鬼側だし、邪魔なら排除しちゃった方が良いと思う。
「今はまだ膠着状態ですが、本格的に戦を起こすことになれば戦都も介入してくる事になりますので」
「戦都?」
「春、夏、秋、冬のそれぞれの街。
そして戦巫女様が居られる戦都を併合して生まれた国がアズマなのです。
龍狩り殿が最初に訪れた場所は戦都だったはずですが…」
「…ああ、あそこか」
何やら訳知り顔で頷く朱雀。
聞けばコイツ、その戦都近くの海を泳いでいる所を発見されたらしい。
違和感があると思った。オウカの街って近くに海ないんだもん。別のどこかで拘留されて、オウカの街に流れ着いたのか。
…話を戻そう。
まあつまり変に街同士でいざこざを起こせばその風紀委員会が出張ってくるからあまり荒事で解決は出来ない。
クソ面倒臭いな、王国じゃないけど俺達も喧嘩売ってやろうか。
再び頭を悩ませる俺を見て、朱雀は不意に言葉を紡いだ。
「…ならば、首領の十八番の出番ではないか?」
「リク様の十八番ですか?」
なんだろう、俺が十八番と呼べる特技って結構少ないんだけど。
PKとかパルクールモドキとか山の遭難とか料理とか。
…PKと料理以外に碌な特技がなくて少し泣きそうになる。
「俺の特技なんて、後ろに忍び寄って首落とす事位しかないぞ」
「その特技は、どうなのでしょう…」
「グルァ…」
止めてくれ、そんな可哀想な子供を見るような目で俺を見ないでくれ。
「それもあるが、もう一つあるだろう。某達が出会った最初のアレがな」
「最初のって…ああ、成程」
確かにあった。
得意か不得意かで言えば、割と得意だ。
最もあの時は姫様がなんでか街中で遊び回ってて、俺が発見した事が始まりだったけど。
…そういえばあれも、一歩間違えば国に喧嘩売る事になってたんだよな。第二王子には感謝しよう。
最も今は隠者もあるし、夜なら逃走で負ける事もないからあの時よりはスムーズにやれる。
「それは、一体?」
何か秘策があるのかと俺達を見るハルカの顔に、なんだか申し訳なくなってしまう。
多分、全然良案とかではないしむしろ失敗したら色々不味い事になるけど。
「まあ言い方は悪いんだけどさ」
「外聞も悪いがな」
まあこれも、オウカの平穏を護る為だと思って諦めて欲しい。
続く言葉は何故か朱雀とハモった。
「「敵の頭を誘拐して平和的に交渉だ」」
「グル…」
指針が決まったようで何より。
あの、桜玉さん。そんなに俺から距離を取らないでくれません?
さっきまで俺の首に巻き付いていたお前はどこに行ってしまったの?
ハルカに至っては期待顔から一転して絶句してた。
理論上無血だし良い事しかないと思うんだけどな。