二度目の誘い
時間…時間が欲しい。
圧倒的時間…。
街で配信とは名ばかりの謝罪会見をしていたら突然ワールドアナウンスが鳴った。どうやら、誰かが新しい国を解放したらしい。
「NPCとフレンド登録って、なんか今更感あるな」
《兄上の方は別であろう【†災星†】》
《クロノスでは3周年記念から実装してましたものね【ハートの女王】》
《首領の国際問題か【朱雀】》
《ああ、あの爆笑案件【ハンペン騎士】》
《私達も現場に立ち会いたかったですね【最終社畜V】》
お前らは爆笑案件だろうが、俺からしたら精神削られ案件だったんだが?
あの王女様、一週間に一通はメッセージ送ってくるんだぞ?しかも長文。
イベントで出て来る時は活発な印象しかないのに、なんか文になるとしっとり重いんだぞ?
「まあ、今回は俺関係ないし…」
《龍魚【†災星†】》
《海姫【ハートの女王】》
《極秘情報【月見大福】》
「やめてくれ…」
バルカンの指示通り、神に関する事は一旦秘匿する事にした。大まかに厄介事を引いたと言っただけだ。
それにしても、帝国という事は南側だろうか。あの騎士野郎にしては仕事が速いな。
「よし、定期謝罪配信終わり」
《定期が付いてる時点でおかしい事を自覚しては?【最終社畜V】》
《謝罪とは?【凱歌】》
《首領の事じゃからのう【ゴドー2号】》
おかしい事は自覚してるんだよなぁ。でも、起こってしまった事は仕方ないじゃん?
「俺は受け入れたから、お前らも受け入れて?」
《暴論じゃん【ハンペン騎士】》
《そんな、首領も、いい【BB】》
《何かに目覚めてる?ビビちゃん【桜吹雪鱈】》
ダメかな、ダメか。
やっぱり俺は活動自粛した方が良いのかと思っていた矢先の事。
《『緋桜龍』さんからフレンド申請が届きました》
「なんだって?」
《どうした兄上【†災星†】》
フレンド申請は表示されないのか。
いや待て、それより何かおかしいの届かなかったか今。ウインドウを表示しフレンドリストを見ると、やっぱり爺さんから申請が届いている。
「早速NPCからフレンド申請飛んできたんだけど」
《www【凱歌】》
《首領、某にも届いている…【朱雀】》
《アズマ関連ですわね?【ハートの女王】》
「オウカの街の領主みたいなもんだよ」
《謝罪会見part2?【桜吹雪鱈】》
俺なんも悪い事してないのに…?
爺さんから届いたフレンド申請か、いや別に迷う事はない。桜玉の報告もコールを使えば簡単に出来るからな。
申請画面から承諾を押す。
秒速でコールが掛かってきた。
「えぇ…」
《出て見なよ【月見大福】》
《こんな時間に誰だろうってか?【凱歌】》
今そのネタ通じる人間が果たしているのだろうか。
ウインドウを操作し、コールに出る。
「えーと、爺さん?」
『おう、久しいなリクの小僧!
今先世界の言葉が聞こえてよう、お前さんたちが使ってる板が出てきたから使ってみたんだ』
「なんてハイテクな爺さん…いや待て、爺さんたちにも聞こえたのか?」
『当たり前じゃねえか。つっても、聞こえたのは数百年前と龍狩りがここを訪れた時、そんで今の三回だがなぁ!』
数百年前は分からないが、2カ月前って事は俺達が来た辺りか?国に来訪したアナウンスはNPCにも聞こえる物らしい。
あれ、でも王国は聞こえてないんだ。
『それで桜玉とヒオウは元気にやってるか?』
「元気だと思うよ。こっちのお菓子が気に入って今日もお茶会してるけど」
『そりゃあ良い!』
カッカッカと笑う爺さんは相変わらずのようだ。少し水音が聞こえるからまた酒でも飲んでるのだろう。
「要件はそれだけ?」
『もう一つある。
小僧、近いうちにオウカに来い』
「オウカに…どうして?」
『少し面倒事が起きてな。お前と龍狩りの力を借りたい』
「…面倒の気配がするんだけど」
『ああ、お前さんが戦場を引いてるのは理解してるが…最近大人しかった鬼共がいらん気を回したらしい』
「鬼共…ああ、鬼人族」
「おうよ、アイツらを抑えるにゃあ兵共じゃ心元無くてな…」
《ユニーククエスト《鬼族の騒乱》が開始されました》
クエスト、それも再びのユニーククエスト。
ユニークの安売りでもしてるのか?
トリガーはこの会話って所かな。別に拒否するのは簡単だけど、爺さんとは酒を飲んだ仲。
何かあったら桜玉やハルカの信頼度も下がる。
「まあ、良い酒を融通して貰ったしね。手伝うよ」
《ありがてぇぜ、龍狩りには今文を飛ばした。
詳しい事はそっちに書いたから確認してくれ》
じゃあなと告げて爺さんがコールを切る。
鬼族の騒乱か、随分と物騒な名前だ。
「…そういう事になりました」
《草【凱歌】》
《厄ネタが助走付けて殴ってきた【ハンペン騎士】》
《割合としてはどれ位です?【最終社畜V】》
《7:3だ。兄上が7だな【†災星†】》
《慈悲がないですわね【ハートの女王】》
元を辿れば誰かが帝国を解放した事が原因だと思うんだけど、ここから入れる保険とかってないんですか?
俺戦闘じゃ役に立たないと思うから、行く意味ないんじゃないと思うけど。
「朱雀、後でこっちに来てね」
《承知した【朱雀】》
《俺達はどうする首領【刃狼】》
「人数が欲しそうなら呼ぶから、それまで聖国をお願い」
《了解【月見大福】》
《任せておくがいい【†災星†】》
「それじゃあ、一度解散で」
配信を消して、外を見る。ハルカと桜玉が菓子の入った籠を抱えてこちらを見ている。
話が聞こえていたんだろうか。
「リク様、今のは…」
「爺さんから面倒事を頼まれた」
「私もお供いたします」
「グルゥゥ!」
「まあ、一人でも多い方が良いか」
この二人、ステータスだけなら俺より高い。
桜玉はレベル1なのにあの数値だし、ハルカはレベル85。
この娘、文官だと思ってたらバリバリの戦闘向きなんだよね。
ハルカが手に持っていた籠から菓子を取り、口に入れる。
四角いクッキーだ、甘い。
「朱雀が来るのを待とうか」
相手は鬼人族だろう、人型なら丁度良い。
合法的に…武器の試し切りが出来そうだ。