桜舞う釣り場
詫び投稿。
ほのぼの成分でシリアス緩和してくれ。
「平和だなぁ」
「平和っスね~」
「平和でござるな」
現在釣り場にて揃った俺達三人は花見をしながら釣り糸を垂らしていた。
いや、特に理由はないんだけどね。セイちゃんが白玉を捕まえて俺の家に籠った事を抜かせば。
セイちゃん小動物が好きだから、白玉を見つけるといつも構いに行くのよな。
そんなこんなで、ベッドを占領された俺は数日前に咲いた桜を見ながら釣りに勤しもうとここを訪れた。
「そうだボス。桜玉ちゃんが桜を咲かせてから、変なの見たっスよ」
「変なの?」
「全身が桜色の魚っス」
「へぇ」
呆けながら釣り竿の先を眺めていると、突然十六夜がバカみたいな事を言いだした。
「桜色の魚ってなんだよ」
「文字通り、桜色の魚っスよ」
「ラ〇カスでござるか?」
「どっちかと言えばサ〇ラビスに近かったっスね」
「やめろ、別のゲームの話を持って来るな」
なんで懐に仕舞うモンスターの話してるのお前ら。
「逆光でそう見えたとかじゃないの?」
「それが、昼でも夜でも時々見るんスよね」
「お前結構釣り場いるのな」
「遠征中っスから、休憩に丁度良くて」
まあ、こうやって何も考えずに釣りすると心が安らぐからな。ハルカの話を聞いたせいか、なんとなく前よりも落ち着く気がする。
「結構頻繁に見るんスけど。
あ、ほらあんな感じ」
「ああ、ホントだ。凄いピンク」
「鮮やかな桜色にござるな」
へぇ…え。
「マジでいるじゃねえか!?」
「十六夜殿の戯言だと思ってたでござる!」
「私をなんだと思ってるんスか?」
良く澄んだ湖の深い所に一匹。魚、魚?
なんだっけアレ、リュウグウノツカイとかそんな感じの薄いヤツ。
その魚は底を悠々と踊る様に泳いでいる。
「あんなの湖にいたっけ?」
「私は見た事無いっスね」
「拙者は釣り場にはあまり来ぬ故分からないでござる」
滅茶苦茶気になるじゃねえか。
だけど、釣ろうにもこの竿じゃ届かない位置にいるしなぁ。
「よし、行ってこい羅刹丸」
「御意に!」
「…マジで行っちゃった」
「羅刹丸さん、ボスの命令に忠実っスから」
竿を投げ捨て、忍者衣装のまま湖に飛び込む羅刹丸。ああ、もうあんなに深い所まで…。
お魚さん驚いて逃げてるじゃねえか。リュウグウノツカイってストレスに弱いんだぞ。
潜水し追う羅刹丸と、全力で逃げる魚。
数分にも及ぶ逃走劇を水面から眺める俺達。
「あ、捕まえたっスね」
「嘘だろ」
「あの人、リアルで忍者に弟子入りしたらしいっスよ」
「この科学の時代に忍者いるのか…」
魚の尻尾を掴みながら、羅刹丸が浮上してくる。
「御館様、目的のモノを捕らえてご覧にござる!」
「お前凄いよ羅刹丸」
満面の笑みで顔を出した羅刹丸に言葉を零す。
魚と泳ぎで競り勝つとか朱雀とどっこいじゃない?
人間ってここまで進化するんだ。
ニッコニコで俺の前に膝を付く羅刹丸の頭を撫でておく。
「これは、後でカンペイに良い土産話が出来たでござるな…!」
「張り合うな、張り合うな」
「ボスも変な人に好かれるっスよね」
「お前が言う?」
おい、冗談だ。顔を赤くするな。
…さて羅刹丸が捕った獲物だが、陸の上でジタバタと跳ねている。
細身、というよりも透けてるそれは、俺の方を見るとこちらに跳ねてくる。
『お助け下さい、領主様。
私はただ美しい湖を見つけたので泳いでいただけなのですぅ』
「おい羅刹丸、コイツ喋るぞ!?」
「御館様、UMAにござる!ツチノコにござる!」
「絶対ツチノコでは無いっスね」
『話を聞いて下さいぃぃ…』
魚の癖に涙を流し始めたリュウグウノツカイモドキ。
取り敢えず、話が出来るようなので水にリリースしてみる。
『ありがとうございます…死ぬかと思いましたぁ…』
「それで、お前はなに?」
『私は海姫様にお仕えしている龍魚の一匹ですぅ…』
「十六夜、これはお前が引いた。そうだな?」
「切り替え早いっスね、ボス。
捕まえようとしたのはボスなんで、私は悪く無いっス」
「俺はもう怒られたくない、良いな?」
「ダメっスねぇ」
クソ、また余計な事をした。
姫とか付くヤツに間接的にでも関わると碌なことがない。
クロノスの第三王女で履修済みだ。
いや、アレは俺達が悪かったのかな。誘拐したし。
「…それで、なんでお前はここに来れたの?
一応空に浮かぶ島のはずなんだけど」
「それ魔魚がいる時点で破綻して無いっスか?」
「正直、謎でござるな」
お前らは少し黙ってなさい。
ほら、おにぎりあげるから。
『海姫様は、水中ならどこでも場所を繋げる術を持っているのですぅ…』
「オッケー、もう良い。海に帰れ」
『食べないのですかぁ!?』
絶対に面倒なヤツだろ、分かる。
何故か俺が帰るように促すと目を輝かせて喜ぶ龍魚。まかり間違ってコイツを食って、その海姫が海戦を仕掛けて来ても面倒だし。
関わらないのが吉。
「話が出来るなら、魚じゃないからな。
もう帰っていいぞ。出来れば二度と来ないで欲しい」
『わぁ…このご恩は一生忘れません!
今度は海姫様にお願いして、お礼を持ってまいりますねぇ!』
「ごめん、話聞いてない?」
『本日はご歓談中の所を失礼しましたぁ。
それでは、また領主様ぁ!』
龍魚は一方的に話を切り上げると、一度水中を高く舞い跳び湖の底に帰っていった。
盛大に水しぶきを上げて、俺の顔面にぶち当てる。
「・・・・・・・・」
「・・・ボス、ドンマイっス(モグモグタイム)」
「御館様は、どうしてそんなに厄介事に愛されているでござる?(モグモグござる)」
「…知るか」
おにぎりを頬張りながら呟く二人を尻目に、俺は空を仰いだ。
桜が、舞ってやがる。