桜前線異常在り
もう幾つ寝るとポケモンの追加コンテの日。
ストック作ろうとしてもヒトモシの色厳選に走ってしまう。
前話はごめんね。
私もなろう初心者だから些細な我儘だと思って許して欲しい。
ルナーティアの忠告を聞いたは良いが、正直俺が手を出せる事って無いような気がする。
そもそも完全に鎖国状態なんだからプレイヤーに干渉できる余地ないし、死神が関わってるなら良い事一つもなさそう。
「だから今日は桜玉のアビリティ検証をしようと思います」
《どういう意図でそうなったの?【月見大福】》
《諸々省きすぎだろ、首領【凱歌】》
「正直アルファシアに災いが起ころうが弊害はない」
「宜しいのですか?」
《待って、それちょっと詳しく【月見大福】》
《またなんか抱え込みましたわね【ハートの女王】》
まあそれはおいおいと言う事で。
首に桜玉を乗せて、ハルカを連れて釣り場へ移動。
「さて、桜玉。お前の力を見せてくれ」
「グルルルッ」
「『桜前線』発動」
『グラァァァァァァ』
俺の声に応じ、桜玉が咆哮を上げる。
鼓膜ないなった。
いや、無事だ。滅茶苦茶キーンてするけど無事だ。
指で耳を確かめていると、視界が桜色に色づく。
どこからともなく吹き荒れる花吹雪。それは桜玉の周囲を回り、木々の間を吹き抜け…桜に変わる。
「おお…」
「これは…!」
《どゆこと?【flowerdrop】》
《木が桜になった【八千代】》
普通の木って桜咲くんだ。
いや、おかしいだろ。あれ今まで緑が豊富なただの木だったんだけど?
茫然とする俺を他所に、近くに咲いた桜の葉を一つ摘まみしげしげと観察するハルカ。
「…龍桜です、これ」
「それって、爺さんが昔咲かせたっていう?」
「はい、緋桜龍様が仰っていました。
龍桜とは魔力が質量を得た言わば魔力そのもの。
それは、そこに生える植物を一時的に変質させると」
「グルルッ!」
嬉しそうに桜の周りを飛ぶ桜玉。
確かに、面白い事が起こった。木が突然桜に化けるなんてリアルじゃあり得ない事だし。
桜の木に変質した範囲はそこまで広くはない。
釣り場を一周囲んだくらいで、その先は今までと同じ緑が生い茂っている。
「まあ、景観は良いよな」
《そうだね【月見大福】》
《首領のやらかしにしては可愛い方ですわね【ハートの女王】》
可愛いやらかしとはなんだろう。いや、分かるよ。
最近は結構波乱万丈な事やってる自覚はあるからね。
「龍桜には心を癒す力があると言います」
「心を癒す?」
「その場にいるだけで、暗く淀んだ気持ちを優しく包み込むとか」
《テキストかの【†災星†】》
特に鑑定しても龍桜の説明文しか出て来ない、オウカの人間に伝わる話なのかな。
散る花びらを掬い上げ、上空に放ってみる。
…ちょっと楽しいな。
「桜前線は木に桜を咲かせるアビリティだったと」
《宴会系のスキルでありそうだね【月見大福】》
《綺麗だから良いと思う!【八千代】》
《釣り場が賑やかになるのは嬉しい【軍師カンペイ】》
《…よく釣り場にいるからな『200000マニー』【刃狼】》
まだ支援物資に魚紛れ込ませてるのはお前か。
消費してるはずなのに一向に減らないと思ったわ。
「桜玉、戻っておいで」
「グルー!」
大声で呼ぶと、桜玉が一直線に俺の方に飛んでくる。体を捻らせて首に巻き付いてくる。
「グエッ」
「リク様!?」
《今変な音しなかったか?【凱歌】》
《首領、安らかに眠れぇ【HaYaSE】》
待って、マジでダメージ入ってる。
爺さんの首飾りでVIT上がってるはずなのに半分減った。
「…急に巻き付くの禁止な?」
「グル!?」
「死ぬわバカ」
そんなショック受けた顔してもダメだからな。
俺がロストしたらアイテムが…あれ、どうなるんだろう。
マイルームってそもそも死亡判定あるのか。
「兎に角禁止な」
「グルゥ…」
「リク様、そんなに言い含めては可哀想ですよ」
「生命の危機だが??」
《漫才でも見てる気分だね【月見大福】》
《そもそも首領が、芸人気質というか…【蛮刀斎】》
誰が即落ち芸人だゴラ。
お前らも味わってみろよ、首がキュッって言うんだぞ。
あ、そうだ。花びら拾ってこう。
「花びらを集めてどうしたのです?」
「メルティにお菓子の材料として渡そうかなって」
「成程、私も手伝います」
「グルゥ…!」
こうして俺達は二人でせっせと花びらを回収する作業に移った。
桜玉は、手伝ってくれたけど殆ど地に落ちた。
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「あの怪物はまだ見つかっていないのか!?」
王城。
王国アルファシアに構える城の一室で、精霊の騎士と呼ばれる者達が集まる。
「王都に侵入したのを最後に、情報はありません」
「何故だ、暗部はあんな鼠一匹探し出せない間抜けではないだろう!?」
地の騎士が声を荒げ、文官に食い掛る。
「やめなさいウリエル。彼らの力を誰よりも理解しているのはアナタでしょ」
「だが、ガブリエル!」
「貴方の怒りも理解しているわ。
でも、今私達が争っていても損をするだけよ」
「その通りだ。ラファエルの死に怒っているのは、何もお前だけではない」
ウリエルを諫める風の騎士。
そして、深く目を瞑る炎の騎士。
「聖剣の使い手が不在の今、王都を護れるのは我々しか存在しない。民の安寧とこれ以上の被害を出さない為にも何か手を考えねばならない」
「あの小娘はどこに行ってやがるんだ!」
「彼女の情報も、今追っている最中よ」
聖剣使い。
この世界では英雄NPCと呼ばれる者達の一人。
アルファシアに保管されていた聖剣に認められ、放浪の旅に出た少女は…いない。
元々国に縛られる質でもなかった。聖剣を引き抜いたのもただの偶然で、アルファシアの国民のように神聖視していない。
「幸い、あの怪物は王都の中では市民に手を出していない。あとはどうにかヤツを誘い出せる物を探すしかないが…」
「そんなものがあれば苦労しないわね」
押し黙る三人は一様に重い溜息を吐き出す。
たった一人の異邦人によって行われた大虐殺。
仲間の一人を失い、炎の騎士すら腕を一本持って行かれた。
「私は一度ミカを聖国に送るべきだと思う。
貴女の技量は理解しているけれど、その腕では精霊武装すら満足に扱えないもの」
「…俺も賛成だ。お前は俺達の中で一番強いが、それは全力を出す事が出来ればの話だ。
だったら、今ヤツが動き出す前に聖女様に頼り万全の状態にするべきだろう」
「不覚を取ってしまって、すまない」
ペイルライダーとの戦いで、控えていた兵は半壊。
そんな状況で果たして自分が抜けてアレが再び暴れ出せばどうなるか。
その葛藤に苛まれミカエルは苦い顔を浮かべる。
「大丈夫、私達も精霊武装は残っている。
貴女を待つまでの時間稼ぎ位は出来るつもりよ」
「王族は精霊の間に入られた。
今民共を護れるのは俺達しかいないんだ。
ここから飛竜を飛ばせば、5日もすれば辿り付ける」
二人の後押し。
数秒の逡巡の末に答えが出る。
「分かった、私は聖国に向かう。
国の事は任せるぞ、二人とも」
「ええ」
「ああ!」
こうして、王国最強と呼ばれた炎の騎士は仲間達と、そして国の為に聖国を目指す。
それは奇しくも彼女達の望む、死神への鬼札と邂逅する事になるとも知らずに。
聖剣使い…アルファシアに伝わる、ある精霊が宿る聖剣を引き抜いた少女。
本来は王国の戦力として保有されるはずだったが、想定以上に王国の警備がザルだったので放浪の旅とか言ってトンズラ扱いた。
現状プレイヤーのレベル上限は100だが、英雄NPCにその枷はない。
なのでどれだけ死神が人間離れしたスペックでも数字の暴力で圧倒出来たりする…まあ、居ないからね仕方ない。