森を散策
「取り敢えず、開拓って言っても何から始めりゃ良いか分からないから皆意見くれ」
折角メンバーがコメント欄に集まったのだ。1人よりも2人、2人よりも21人。文殊の知恵って素晴らしい。
適当な岩の上に腰を下ろし、俺はコメント欄を見る。
《東の方は結構開けてるね。やっぱり木材から集めた方が良いんじゃない?【月見大福】》
《それよりもまずこの島にどんな生物がいるか確認する方が先決では?【ハートの女王】》
《我も女王の意見に賛成だな。兄上はレベルすら上げてないのだ。敵情視察大事【†災星†】》
《護衛が必要なら行こうかリッくん!【八千代】》
《お嬢今狩りってるんでステイ、ステイ【蛮刀斎】》
各々が意見を述べてくれる。成程な、確かに家作りよりも敵性生物がいるか調べる方が大事か。
マイルームの説明には、大きな島には原生生物が存在すると明記されていた。だが、それが果たして友好的かどうかは現状分からない。
なら一度確認しに行っても良いだろう。
「て言っても装備はこの剣一本なんだけどな」
腰に下げた旅人の剣を叩く。耐久値が半分以上減って心元ない現相棒である。
《ないよりはマシでさぁ【蛮刀斎】》
《後で武器も送っておくぞ兄上【†災星†】》
《冒険、楽しみ【BB】》
俺よりもコメント欄の方がやる気満々だ。まあマイルームとは言えここまで広いと確かに冒険か。
南の方はさっき走りながら見たし今度は右側かね、北は広すぎる。
マップで位置を確認後、俺は走り出した。
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「なんもいないな」
西の森に到着し、練り歩く事10分。
敵性エネミーどころか、原生生物にすら遭遇しない。
今は木の枝の上から周囲を見渡し動きを観察しているが、そもそも何もいない。
戦闘が起こらない事への安心半分、肩透かしのような気持ちが半分湧き上がる。
《リッくん、お猿さんみたいだね【八千代】》
《相変わらず訳分らん立体起動してらぁ【HaYaSE】》
《なんだっけ、昔暇だったから森で遊んでて覚えたとか【月見大福】》
《普通こういう移動する時ってスキル使うもんじゃねえのぉ…?【HaYaSE】》
《素晴らしいパルクールだ『10000マニー』【刃狼】》
《あ、刃くんのリッくん貯金溜まったみたい【八千代】》
「ありがとな刃狼」
こいつ等人が見てないからって楽しそうに品評会しやがって、ていうか森じゃねえ山だ。
なんか新しい事したくて山籠もりしてただけだ。他意はない。
音を出さないように小声でツッコミを入れつつ観察を続ける。原生生物云々が全く機能してねえぞ運営。まさか未実装…?
《そういえばリク。コンバートプレイヤーの何人かが昔使ってたスキルがアイテム化したって騒いでたよ》
「スキルのアイテム化?」
なんだそりゃ。俺にはなんも来てないぞ…と思ったがそういや俺こっちに来てからスカイダイビング(即死)だったり配信の準備だったりでアイテムボックス確認してないわ。
《我は時空魔法の魔導書だったぞ!消費ポイント無し!【†災星†】》
《八千代も剣客の羽織ってアイテムが入ってた!【八千代】》
《俺は復讐者の籠手だ『5000マニー』【刃狼】》
《刃もしかしてお金投げないとコメント読んでもらえないと思ってない…?【HaYaSE】》
《趣味では?【ハートの女王】》
うん、刃狼の札束殴りはもう止めても聞かないんだろうね(遠い目)
取り敢えず俺もアイテム欄を開いてみる事にした。
「お、なんか入ってる。隠者の外套、看破の腕輪、因幡流指南書…ん?」
なんか凄い見覚えのある名称と装備効果があるアイテムだな、おい。
《三つも、首領、凄いね【BB】》
《流石は兄上!【†災星†】》
《リクがその三つって言う事は、やっぱり考察は当たり…かな【月見大福】》
「ユニークスキルか?」
この三つのアイテムの使用効果はクロノス時代に俺が持っていたユニークスキルの能力と酷似している。
『隠者』『致命看破』『因幡流【皆伝】』、それぞれが持っているだけで他のプレイヤーよりアドバンテージを取れる性能を持ったスキルだった。
《セイちゃんの時空魔法、八千代ちゃんの剣の道、刃の復讐者、そしてボクの千薬万毒…うん、これは高く売れそうな考察だ【月見大福】》
「まあ程々にやれよ。あ、これ装備出来るっぽい」
こんな頭の悪いスキルをノーコストで使えるようにするって、運営さんはまっこと悪いお人じゃ。
誰だ強くてニューゲームはないって言った奴は今絶賛俺がニューゲームしちまってるわ。
あ、これ装備制限なしで所有者固定なんですね。よし、着用しちゃおう。
スキルも使えるのか、使っちゃおう。
「誰にも負ける気がしねぇ…」
《尚レベル1である【ゴドー2号】》
《wwwwww【八千代】》
ええい、要らん事で水を差すんじゃない!
《3時方向、動きあり【軍師カンペイ】》
なんだと!?