神
スーパーアルティメット覇王魔剣…私は感動したよ、あんな素晴らしい名前を思いつくなんて。
この小説でもいつかアルティメットルナティック覇王エクスカリバーとか出していいかな。
首領作ってくれねえかな。
『へぇ、最初にここに訪れたのは炎の子だったかぁ』
「急に後ろに立ってるもんだから驚いたよ」
腹の上に顔を乗せ眠っている桜玉を撫でながら、ルナーティアの声に答える。
刃狼に武器を渡し、のんびりと釣りや料理に勤しんだ夜。月見大福から返却された『双子神の物語』を読み返していたら、急に白玉が光った。
あの宴会以降、度々ルナーティアは俺の部屋に来て果実パイを強請ってくる。
神を唸らせる一品は大層お気に召したらしい。
窓から顔を出している翠玉と遊ぶルナーティアに本を読みながら問い掛ける。
「この物語って、どこまでが真実なの?」
『当たらずも遠からずかな。あの子が翠玉たちを生み出してからの話は殆ど合ってる』
「あの子ってのは、太陽?」
『そう、私の姉であり妹。
一緒に生まれた癖に自分が姉だってよく言ってたね』
過去を懐かしむように笑いながらルナーティアは語る。白玉ベースの癖に表情が分かりやすいな。
なら、やっぱりこの島は…。
「色災を封じた月の都…ってのはここなのか」
『そうだよ。この島に貼られた聖域を使って、私はあの子達を封じた。
翠玉もリクが南の森の聖域を壊したから出て来たでしょ?』
「ミューン」
「…色災を封じたお前的に、翠玉を解放しちゃって良かったのか?」
『私が封じたのは、この子達が人を滅ぼそうとしたから。
翠玉はそんな意図はなかっただろうけど、自然の浸食の行き着く先は種族の絶滅だもの。
だから、この子達が人を害さないのなら封印は解いてあげても良いと思ってた』
「成程な…」
『それでも、残った紅と蒼は今解く事はおススメしないよ。あの子達は未だに人への憎悪が残ってるから。炎の子は放任気味だけど人に手を出せば他の神が気付いちゃう』
「…出てきたのが翠玉で良かった」
どうやら俺はあの時運が良かったらしい。
桜玉の頭と本をベッドに置いて翠玉の元に歩き、頭を撫でる。
ルナーティアが、翠玉を妙に気に掛けていた理由が漸く理解できた。
「ミュウ」
『良かったね、翠玉』
「ミュー」
「リク様、お茶が入りました…あら?」
『おや…』
扉を開いて入ってくるハルカがルナーティアの方を見て不思議そうな顔をしている。
そういえば、夜は大体俺にくっ付いてる桜玉はまだしもハルカはコイツと会うのは初めてだっけ。
でも見た目白玉のままだよな。
『キミが、ハルカちゃんだね』
「あ…」
『魅月鏡で見ているだけだと分からなかったけど、あの子龍も随分と力を付けたみたいだ』
「え…っと…」
『良いよ、リクの助けになってあげて。
この子はいつも突拍子の無い事をするからね』
「お前は俺のなんなの?」
なんで後方母親面をされなければならないのか。
横でクスクス笑う白玉ボディを指で弾く。
「リク様、この方は…?」
「月だ。俺に祝福を与えてるヤツ」
「月…もしや緋桜龍様をお救いになったお月様ですか!?」
『よろしくね、龍人の女の子』
「お月様?」
矢継ぎ早に語るハルカの話を要約すると、どうやらルナーティアの話はオウカの街では有名な物語の一つらしい。
かつて緋桜龍を救った月の御方。
名前は伏せられているからお月様、子供から大人まで知る御伽噺だとか。
「そんなのがあったのか」
「リク様がオウカに滞在していたのは二日程でしたから、聞く機会もなかったのでしょう」
「そうだった…」
『あれは面白かったね。酒に酔って地上に翠玉を呼び寄せた時はどうしようかと思ったけど』
「なんで知ってるんだ…」
『見てたから』
やはり俺にプライバシーなんて物は存在していないようだ。運営、実装はよ。
ハルカを揶揄うルナーティアの様子を見ながら俺はベッドに戻り茶を啜る。
「グルゥ…」
「おはよう、桜玉」
寝ぼけながら俺の体をよじ登り、首に巻き付いてくる桜玉。この癖、ちょっと間違えば俺の首が締まるから怖いんだよな。
「あの、緋桜龍様ももう一度お会いになりたいと仰っていました!」
『ごめんね、私はここでしか話が出来ないんだ』
「そうなのですか…」
凄いな、あのハルカがまるでファンの様に顔を赤くして声を荒げている。
すると、ルナーティアが何かを思い出したか俺の方を見る。
『そうだリク。
南の森で、今度桜玉の力を使ってみなよ』
「桜玉の力?」
『きっと面白い事が起こるよ』
そういえば、王国閉鎖や鍛冶のせいでコイツのアビリティチェックをしてなかった。
でも、ルナーティア直々に面白い事が起こる宣言ってちょっと怖いんだけど。
「…明日試してみるよ」
『うん、場所はあの釣り場が良いと思うな』
「釣り場?」
『良い物が見られるはずだよ』
そう言い放つと、白玉の体が再び光り出した。
そろそろお帰りの時間らしい。白玉が光る光景も見慣れた物だ。
『そうだ、最後にもう一つだけ。
アルファシアで起こっている今の状況だけど、このまま進めば大きな災いになる。
私はもう見ている事しか出来ないからキミに忠告だけは残しておくよ。
まあ、この街を成長させたキミには必要の無い事だとは思うけどね』
「最後にドでかい爆弾残してくのやめてくれない?」
『選ぶも選ばないもキミの自由だ。
どちらを選んでも世界はきっと進むんだから』
どうでも良い事だけど、小動物の姿でそんな真面目な事を言われると少し笑いそうになってしまう。
『…今は、色災は封じられている。
でも世界には、それよりも恐ろしいモノが残っている事をキミもその本を読んで分かっただろう』
光りながらも彼女は笑い、言葉を続ける。
それは正しく神のように。
『人とは、希望であり罪だ』
笑いながら、嗤いながら、嘲笑ながら。
消えていった。