王国の噂話
呪術廻戦…凄い面白い。
一度休息をとる為にログアウトした。
部屋から出て居間に向かうと、セイちゃんが座っている。
今日はまだログインしないようだ。
「セイちゃん、何やってんの」
「…兄上か。何、アルファシアの状況を纏めていたのだ」
「封鎖されてるんじゃねえの?」
「月見殿が懇意にしているNPCがルディエに流れて来たようでな」
「アイツも横が広いねぇ」
「羅刹丸も動いてるからの。
座るがいい兄上」
セイちゃんに促されるまま隣に座る。
どうやらARデバイスを使って纏められた情報を見ているらしい。
「兄上、アルファシアの騒ぎはあの女が関わっているかも知れぬぞ」
「あの女?」
「…死神だ」
面倒な名前が出てきた。思わず顔を顰めると、デバイス越しにセイちゃんが笑う。
「嫌そうな顔をするではないか」
「本当にアイツが関わってるの?」
「断片的な情報だが、全身を白い装備に身を包んだ白斧を持つプレイヤー。その者が今、アルファシア全土で捜索されているらしい」
「ゲームで指名手配とは面白いねぇ」
「問題は、そのプレイヤーが起こした事件だ」
「というと?」
「王都のNPCを虐殺したらしい」
「死神だわ」
白で揃える時点で掠ってたけど、ほぼほぼ黒だわ。
PKの癖にNPKもやる根っからのサイコだし。
単独で王国に攻め込める実力があってNPCを虐殺するのはアイツしかいないんじゃないかな。
「また厄介なのに目を付けられたなぁ」
「他人事ではないか」
「他人事だよ。
アイツは俺達に関わってこないだろうし」
「不可侵協定か…」
昔アレが一人で俺達の拠点を攻めてきた時、色々あったからな。
CCに手を出してくるなら、最悪翠玉さんのお力を借りて全力で潰すがそれ以外ならどうでもいい。
今も姿を隠してるって事はアイツ、劇でも始めるつもりか?
「開始2カ月も経たずに一国落ちるかなぁ」
「仮にも王国の中心、英雄NPCのような者がいるのではないか?」
「英雄か…」
クロノスでは普通のNPCの他に英雄、勇者と呼ばれる者達が存在していた。
それぞれがチート手前のユニークスキルを持ち、国の抑止力になるような連中。
確かに、英雄NPCがいるなら時間の問題だろうが。
「アイツのレベル次第だと、普通にやられるかもしれないのがなぁ…」
「クロノスでも、あの女は3人殺していたからな」
それ程までにアレは別格だ。
スキル、アビリティを十二分に理解し活用する器用さ、リアルから持ち込んだらしい戦闘技能。
戦いたくない連中は何人かいるが、死神と天剣は絶対に会いたくないカテゴリー。
「そういや、天剣は何やってんだろ」
「つい先日、銀竜が見つけたらしいぞ。
なんでも竜鳴きの谷でドラゴンと戦っていたとか」
「なんで朱雀みたいな事してんだ」
身の丈以上の剣を片手で振り回す怪力女。
朱雀もよくやるけど、大剣使いって皆アレが基準だったりするのだろうか。
顔を合わせる度にお前は悪人だとかオレが正義だとかほざく変なヤツ。なんでこの世界ってこんなに戦闘狂がいるの。
「まあ、どっちも俺達の進路とは被らないから良しとしよう」
「うむ…そうだ兄上。
そろそろ一つ目の街に到達出来るはずだぞ」
「…順調すぎない?」
まだ決めてから2日しか経ってないと思うんだけど。
「クラン総出の遠征、それに装備やアイテムも潤沢なのだ。こんな物であろう」
「そうかな…そうかも」
「安心せよ、一月もかけぬ。
兄上は枕を高くし、到達を待つが良い」
力強い宣言だが、俺はクラマスとして本当にそれで良いのだろうか。少しやる気を出させる為に言った事が、凄い現実味を帯びて来ている。
「それじゃセイちゃん、俺は先にログインしてるよ」
「うむ」
セイちゃんの頭を撫でて、部屋に戻る。
そういえば、そろそろ親父達が来るんだっけか。
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アルテマにログインをすると、大通りが少し騒がしい。
どうやら何人か街に戻ってきているようなので覗いてみる。八千代とBBのパーティだ。
ベンチに座りながら談笑している様子。
あ、刃狼もいる。
これ幸いと彼らの元に歩き、声を掛ける。
「皆お疲れ」
「あ、リッくんだぁ!」
「お疲れさんです、首領」
「ちょっと、休憩中」
「ずっと戦闘続きだったからねぇ」
小まめに休息を取るのは大事だからね。
さて、それじゃあ俺もとっとと用事を済ませようかな。
「刃狼、面白い物が出来たからあげるよ」
「…面白い物?」
「ああ、これ」
ウインドウを操作し、昨日作り上げた武器を送り付ける。
「・・・・・・ッ!?」
「どうしたの刃くん!?」
送られて来た物を見て、刃狼の顔が七変化の様に切り替わる。
あの常に無表情な刃狼の珍しい顔芸に仲間達も驚きのようだ。
「…首領、これはまさか」
「お前がアズマで拾ってきた素材と鉱石を合わせたら、出来ちゃった」
「…この場で、出しても良いだろうか!!」
好きにしろ。
まるでクリスマスプレゼントを貰った子供のように興奮する刃狼に手で合図を送る。
ウインドウを操作したような動きをして、すぐさま手に武器を呼び出す。
「リッくんが作ったの!?」
「なんつーか、禍々しい武器でやすね」
「刃の兄貴が持つと映えるなぁ」
「かっこいい、よ」
仲間達から様々なコメントを貰っている刃狼だが、本人は真剣に何かを見つめている。
ああ、鑑定でも使ってるのかな。
「首領…こんな良い物を俺が使っても良いのか?」
鑑定文を読み終わったのか、顔を上げてそんな事を言う刃狼。
確かに性能としては破格だけど、癖が強すぎるから他に扱える奴も少ない。
それになにより、
「お前の事を考えて打ったらこれが出来たんだ。
だから、この武器はお前の物だよ刃狼」
「…感謝する、首領」
「刃くん良いなぁ!八千代も欲しい!」
「お嬢は朱雀の旦那に貰った刀がありやすから…」
「俺も首領が打った武器欲しいなぁ」
「…私も」
「頑張れビビちゃん、あと私も欲しい」
すっかり騒がしくなった仲間達と少しの間雑談を交わし、この場を後にした。
刃狼、大歓喜。
この後、嬉しすぎて絶叫した。