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【閑話】道化追想・星に引かれた少女4

あの日から、私達のゲームは変わった。

レベルを上げる為にモンスターを狩る事もあるけど、それよりもPKの回数が増えた。

リッくんが言う様に私にはこういう才能があったらしい。

モンスターを狩って、PKをして、時々暇を持て余してはリッくんやおじちゃんを強引に誘って模擬戦をして。


いつの間にか私の周りにも人が増えて行った。



「リッくん、今度はあっちに行こ!」


「…とんでもない才能発掘しちまった」


「首領、自業自得だ」



彼の手を引いて皆が居て、私の周りが賑やかになっていく。嬉しかった、私を認めてくれる人がいる事。

私に笑い掛けてくれる人が居る事がこんなに嬉しいとは思わなかった。


ハートちゃんは時々お菓子をくれるし、私が家の事を相談したら「任せなさい」って言って何かしてくれた。

何故かまた本家に帰されて、父と母が私の顔色を伺うのはちょっと気持ち悪かったけど。


それにセイちゃんとも会えた。

私と同じで少し学校で浮いてしまっていたセイちゃんとは直ぐに仲良くなった。

でも口にする事がどちらもリッくんの話題しかないのは中学生としてどうなんだろう。


皆、私に優しくしてくれる。

良くリッくんと遊んだと自慢して来るHaYaSEは嫌いだけど、私はここが好きだ。

だから漸く私も前に進もうと思った。



「ねえリッくん、今度リアルで遊ぼうよ」


「事案じゃねえか」


「蛮刀斎も一緒だよ?」


「なら良いぞ」



高校を卒業して彼もすっかり大人っぽくなった。目つきの悪さは気にしてるけど、私はカッコいいと思う。でもふらっと歩いて新しい女の人と出会うのはどうかと思う。

約束の日取りを決めて今日はログアウトする。



「お嬢様」


「うん、今日言ってきたよ」



水瀬もログアウトしていたらしい。

心配そうに私に顔を近づけて語り掛けてくる。



「首領ならばきっと大丈夫です」


「うん、そうだね」



リッくんと初めてリアルで会う。

その日、私は自分の目の事を打ち明けるつもりだ。

未だこの事を誰にも言えないのは昔のせいだろう。


今までのように反応を変えられるのが怖い、例え信じている人でも怖いんだ。




私はその日久しぶりに水瀬と一緒に眠った。








約束の日が来るのは早い物で、私は今水瀬と共に駅のベンチに座っている。

どうやらリッくんの家は私の家からそこまで離れていないようで電車を数本乗り繋いで来るらしい。


今日の為に水瀬からオシャレを教えてもらい、少しだけ化粧もしてみた。

髪の色は違うが、それ以外はゲームの世界の私とそっくりにしてリッくんを待つ。



「お嬢様」


「どうしたの?」


「今降りたようですよ」


「リッくんが!?」



数本目の電車が過ぎ去り、とうとう着いたようだ。

逸る気持ちを抑えられずに私は人の多くいる駅内で大声を上げてしまう。

ガヤガヤと賑わう場所だが、予想以上に私の声は良く響いた。

恥ずかしさで俯いてしまう私の元に一人の足音が近付いてくる。



「こんな場所で大声上げるなよ、八千代」


「あ」



ずっと聞いていたい程耳に馴染んだ声。

私の目の前に立つ朧げな人は、間違いなく彼だ。



「で、蛮刀斎はどこ行ったんだ?」


「私はここですよ、首領」


「…は?」



水瀬はいつもと同じく黒いスーツを着ている。

リッくんにもそう伝えていたようだし、一度も言った事が無かったから無理もない。



「お前、女だったのか…」


「うら若き少女と女性に人斬りを強要するのはどうかと思ってました」


「八千代はともかく、お前は男アバターだろうが」


「改めまして万堂水瀬です。首領」


「こっちで首領はやめてくれない?

てか蛮刀斎ってそっから取ったのかよ」



頭を掻くような動作をして、彼は水瀬と言葉を交わす。どうしよう、色々と喋る事は考えていたはずなのに全然頭が回らないや。

何度も言葉を発しようとするが、喉から声が出ない。



「八千代」


「あ…」


「誰に緊張してんだ、俺だぞ」



頭を撫でる手。

私がクロノスで何度もお願いして嫌々ながら承諾してもらった事。



「お嬢様」



水瀬が背中に手を回してくれる。

温かい二人の手を感じると、力が抜けていく。



「わ、私…高宮八千代」


「お前リアルネームだったのか」


「…うん」


「まあお前らしいから良いよ。

俺は陸、藤代陸。お前らの首領だ」


「うん!」


「首領もリアルネームじゃないですか」


「どこにでもある名前だからバレねえだろ」



いつもの光景。

クロノスでは当たり前のようになっていた私の日常の風景。変わらない彼の姿に嬉しくなる。



「っと、自己紹介も終わったしそろそろ行くか」


「あ…」


「お嬢様」



歩き出そうと提案するリッくんに反射的に声が漏れてしまう。言わなければ。

水瀬が優しく背中を撫でてくれる。



「どうした?」


「ごめんね、私あんまり目が見えないんだ」


「あん?」



座りながら、スカートの裾を強く掴む。



「なんだよ、そんな事か」


「え?」



私の告白を聞いたリッくんから出た言葉は、何とも気の抜けた物だった。

そんな事かと言いながら一度頭を掻き。



「なら今度は俺がお前の手を引く番だな。

あっちじゃいっつも引っ張られてるから、新鮮だ」



私に手を差し出してくる。

そんな事…そうか。彼からしたらそれは些細な問題なのだろう。

私の悩んだことも、葛藤も関係なく。



「お前の顔を見りゃ何となく分かる。

色々迷ってたんだろうけど、だったら俺を頼れ」



本当になんでもないかのように。



「俺がいつでもお前の手を引くよ」



強引に私の手を引き立ち上がらせるリッくん。

歩き出すと横に水瀬が並ぶ。

ぼやけて見える背中は追っていると、何故か涙が零れそうになる。



「ねえ、リッくん」


「どうした?」


「私の目、綺麗?」



初めて彼と会った時に聞いた事。

それを、もう一度だけ聞きたくなった。



「すげぇ綺麗だよ。グラデの変数とか幾つ?」


「もう、台無しだよ」


「嬉しそうですね、お嬢様」





これが私とリッくんの出逢いのお話。

今なら分かるよ、学校の子達が私を気味悪がってたのだって子供特有の異分子を怖がる忌避行動だって。あの感情だって私がまだ子供だったから生まれただけだって。

それでも、私はこの日…もう一度彼に恋をした。


星に(手を)引かれた少女。


この時の首領、殆ど何も考えてません。

ただ八千代が何か深刻そうな顔してんなぁって位。


ちょっと小噺タイム。

リアルの八千代は自頭は良いし、一人称は私。

ただゲームの中では首領に甘えられるから態と子供ぶっている。

いやまあ、中学生だから充分子供なんだけどね。

セイちゃんも年齢に合わない考え方をする子で同年代から避けられてたから仲良くなるのは早かった。


あと名のある家のご令嬢がウチの妹分に何さらしてくれとんじゃとどっかの家に圧力を掛けたとか。何かこの子首領よりなろう主人公してない?



補足。

痛覚設定…これはまあ物語には特に関わらないけど、一応個人によって10%ずつ設定を上げる事が出来る。

痛覚0%だったら小石が当たる程度の痛み、それが徐々に上がってリアルな痛みに変わる。一応100%の場合は安全マージン付き。

高レベルで慣れてくる程痛覚を上げて危機回避を身につけようとする。

例えばCCメンバーで100%設定してるのは首領、刃狼、朱雀、BB。他は70〜80%


保護者付きのプレイヤーの場合は自動的に0%設定にされる。

尚NPCは痛覚設定なし。

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― 新着の感想 ―
[一言] d(˙꒳˙* )ええやん こういうの大好き(*´ω`*)
[良い点] 首領カッコ良過ぎるだろ
[良い点] なんてかっこいいんだ!感動!でもやっぱり事案!
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