【閑話】道化追想・星に引かれた少女3
イキリ倒す首領…イキリ…イキリっくん…ふふっ。
天剣ちゃんの閑話を書いたは良いけどやっぱり別ベクトルでおかしいキャラになった件。
ある意味正統派主人公風だし、いつか三つ巴で戦わせたいなぁ。
ついでに凄い綺麗に掛けた話が保存されておらず、PCに一撃を入れた。危うく書いた話全部飛ぶ所だった。
反射的に横に跳ねると、朱雀と呼ばれたプレイヤーが私の居た場所に剣を突き立てていた。
大剣を片腕で振り回し操るなんて、どれだけSTRを振った者でも簡単には出来ない。
自分よりも強い人だ。
「反射神経はまあまあか、朱雀…俺がやるよ。
お前らはそっちの盾持ちと遊べ」
「承知」
「リク、舐めプはダメだよ」
「気を抜いてロストしないでくださいまし」
「誰に言ってる?
取り敢えずそっちもキルするなよ」
後ろ手でひらひらと仲間だろう者達に手を振り、男が私と向き合う。目つきの悪い軽薄そうな男。
リクとはきっと彼の名前なのだろう。
「さっきの人じゃなくていいの?」
「ちょっと遊びたくなっただけだ、ほら来いよお嬢ちゃん」
少しだけ安心するがそれでも気を抜けない。
あのプレイヤーを斬った時、気配すら感じなかった男。
剣を構えて彼を見ると構えてすらいない。
…ちょっとカチンと来た。
「『ツインスラッシュ』」
素早く地を蹴り、二度の斬撃を与える為に懐へ入る。隙だらけの男を見ながら叩き込む。
が、弾かれた。
「なんで!?」
「STRとAGI特化。俺と少し似てるじゃん」
左腕を狙った攻撃がいつの間にか上がっていた右の剣で受け止められた。
態勢を立て直す為に横に跳び再び仕掛ける。
ガィィィン!ガギン!
まただ。
ずっと剣を垂らしているはずなのに私の放つ攻撃がいつの間にか流されている。
全て正確に、理解しているように受けられる。
「対人経験の無さが仇になってるのか、センスも良い…お前人を斬る方が向いてそうだな」
「何を、言ってるの…ッ!」
「胴が開いてるぞお嬢ちゃん」
鋭い回し蹴りを体に入れられ、後ろに転がる私とただジッと見ている男。追撃はしないとでも言うつもりか、剣を手で遊ばせながら私が立ち上がるのを待っている。
完全に舐められている。
「ほら、次」
「せやぁぁぁぁ!」
だったらその油断の中で私が斬って捨てるだけ。
「ちょっと早くなったな」
「まだまだ!」
ツインスラッシュ、トリプルスラッシュ、クレイブレイド。
自分の今持つアビリティを織り交ぜながら剣を振り続ける。右は流される、左もダメだ。
手数を増して自分の隙を無くす。
「クハハッ、乗ってきたじゃねえか」
「うるさいっ!」
絶えず続く剣戟。
何度も斬りつけ疲れが出ているはずだ。事実自分はどんどん疲れが溜まってきている。
なのに、何故この男の動きは緩まないのだ。
「俺に首ったけなのは嬉しいが、お前の仲間はもう動けねえみたいだぞ?」
「ッ…蛮刀斎!」
反射的に蛮刀斎の方を向く…向いてしまう。
彼女は劣勢だが、両の盾を使い何とか耐えている。
ならば何故この男は今それを言ったのか。
「馬鹿、集中しろよ」
「え…あ」
右腕が斬り飛ばされる。
騙された。
油断を狙ったはずなのに、自分が隙を晒した。
「お嬢様!」
蛮刀斎の声が聞こえるが、私の頭の中は既に真っ白。握っていた剣は明後日の方向に飛び突き刺さる。すぐ近くには私の腕。
「なんだお前、お嬢様とか呼ばれてるのか」
「あ…」
剣をクルクルと回し男が近付いてくる。
ーーー動かなければ
何とか次への思考を再開し行動しようとした…再び回し蹴りを食らう。
「あぐっ」
「敵の前だぞ、頭回せ」
地に倒れ伏す私を見ながら男はニヤニヤと笑っている。これがPK…道化のクラン。
今まで遭遇した事の無かった得体の知れない者を見た恐怖。
痛覚設定をオンにしているはずなのに、腕が痛む。
「なんで…こんな事するの」
「PKに会ったのは初めてか?
…ああ、ここら辺の奴ら全部俺達が狩り尽くしたっけ」
「なんで!」
「面白いからに決まってんだろ?」
「面白い…?」
「あとは、効率?」
彼は語る。
アイテムを作るよりも金は稼げるし、ただ狩りをするよりも刺激的で楽しい。
強いヤツと戦った時は気分が上がる。
だから自分達はPKをするのだと。
人の迷惑なぞ顧みずにただ自分の欲を満たす為だけにプレイヤーを狩るのだと。
「…最低だね」
「理解してる。
だが、最高だぜ?」
この世界で名が上がる事のなんと愉快な事か。
俺達こそがこの地で一番のPKクランになる。
ゲームの世界だからと言って何ともバカげた夢物語を語る。きっと自分に酔ってるのだろう。
立ち上がろうとしても、既に男の剣先は私の首筋に添えられている。
「首領、終わったぞ」
「おう、お疲れさん」
「蛮刀斎!」
「すみません、お嬢様」
大男に引きずられ、すぐ横に投げられた彼女ににじり寄る。
私のように腕を落とされた訳ではないがHPはもう二割もない。
彼女の前で体を起こし、男を睨み付ける。
「…うーん」
「どうするリク?」
「小さい子ですが、斬りますの?」
首を捻る男と彼の言葉を待つ黒服達。
何を企んでいるかは知らないが、水瀬だけは絶対に逃がして見せる。
何が何でも…殺す。
「…欲しいな」
「え?」
「はい?」
「・・・・・」
「お前、うちのクランに入らない?」
私の目の前に顔を寄せて男が問う。
急に何を言っているんだこの人。
男の言葉を聞いて、周囲の黒服が溜息を付く。
「急すぎでしょ」
「だってよ、良い目だぞ…アレ。
それにコイツは多分化ける」
「首領は蛮族なのか?」
「私達は傍から見れば蛮族ですわよ」
口々に会話する男たち。
唖然とする私達を他所に、彼らは言葉を続ける。
急な展開が続いて頭が痛くなってきた。
「お前うちのクランに入らない?」
「え…」
「話を聞きませんわ、この男」
黒服の女が諫める声も聞かずに、私に勧誘を続けるおかしな男。
やれPKは楽しいぞとか今なら年会費無料とか、特典として良い装備をプレゼントとか…訳の分からない勧誘文句を口にしている。
互いに殺し合いをしていた相手に何を言ってるんだ。
「頷かねえなぁ」
「こういう時は、なんで気に入ったか口にするのがベストだよリク」
「成程?」
再び頭を捻り出し、うんがらもんがらと呻く男は先程までの恐怖を薄れさせる。
数分程だろうか、彼が目を開き何かを閃いたように私を見つめる。
至近距離
今まで接した事のある男の人なんてお爺ちゃん位だったから不覚にも、少しだけドキドキする。
「お前の目に惚れた。俺と来ないか?」
「ダメだこりゃ…」
「少女を口説く頭で私達本当に良いんですの?」
糸目の黒服と赤髪の黒服が頭を抱えている。
だけど、私はそれ処ではない。
急に告白まがいの事を言ってくる男よりも、今先の言葉が頭を反芻する
目…私にとっては忌々しさしかないこの眼。
「綺麗な目だ、仲間を護ろうと俺を睨み付ける。
他の連中はここまでやったら、自分だけ助かろうとするヤツが多いからな」
だから気に入ったと、彼は言う。
鼓動が高鳴ってしまうのを感じる、彼からすればただそれだけの単純な理由なのだろう。
だけど。
「私の、目の色って綺麗?」
「え、ああ…うん。
良いグラデしてるな。配色の変数とか幾つ?」
変数とかはよく分からない。
でも目の色を褒められたのはお爺ちゃんと水瀬だけだった。他は皆気味悪がってた。
それだけの言葉で私は揺らいでしまう。
「…私、入る」
「お嬢様!?」
「あれで入るの!?」
「よし、新規メンバー確保完了だ。
月見大福ポーション出して」
PKクランとかそんな事は既に頭の中から消えていた。
承諾を聞いた彼は嬉しそうに笑って仲間からポーションを受け取り、私に渡してくる。
何でもどこぞのクランからせしめた迷宮産のレア物らしい。腕と足がくっ付いて水瀬の姿を確認した私に彼は口を開く。
「俺はリク、道化の首領だ。
お前の名前は?」
「…八千代」
「良いな、なんか武将っぽい。
これから楽しめよ八千代」
恐怖は既になく、彼の言葉を聞き恥ずかしくなる。
彼、リクから送られてくるクランの加入ボタンを押してこの日から私はPKクランの一員となった。
小学五年生の女の子を必死に口説く主人公がいるらしい。
尚本人はPK向いてそうだなぁとくっだらない事を考えている。
※この頃の首領はユニークスキルを所持してない。
持ち前のフィジカルとブラフと罠で大体何とかしてきた。
クロノスの話は幾ら盛っても良いと俺の中の俺が言っていた。
大丈夫、頭を悩ませるのはいつも俺だ。