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【閑話】道化追想・星に引かれた少女1

日曜だからね、ゲリラ投稿。

八千代の物語ダイジェストが、今始まる。

私の見える景色は全て色褪せていた。

人の見える範囲よりも、私の目は霞んでいた。

私…高宮八千代は今日も惰性に生きている。



「お嬢様、どうされましたか?」


「なんでもないよ水瀬」



ずっと窓の外を見る私を見て、護衛番の水瀬が不思議そうに声を掛けてくる。


外を見ようとした。


ただそれだけの行為は私にとってとても残酷だ。

生まれつき視力がとても悪い。

弱視というのかな。杖を使うか、水瀬に手を引いて貰わなければ自由に歩けもしない。

目の色も他人とは違っている、学校では陰で噂をされている程に私は異質らしい。


『気持ち悪い』


何度説明しても変わらず、結局友達も出来ずに学校から帰るだけの毎日。

家の名前で群がる人もいるけど正直気持ち悪い。


私の家は、人よりも少しだけ裕福だ。

高宮の家に生まれ小さい頃から色々な教育や習い事をさせられたが、私は家族の期待に応えられなかった。

本家から追い出されるように別宅を与えられ今はそこで水瀬と暮らしている。


私をちゃんと愛してくれるのは水瀬とお爺ちゃんだけ、最初は少し寂しかったけど…もう慣れたよ。



「そうです、お嬢様。

今日はお嬢様にプレゼントを持ってきました!」


「プレゼント?」



不意に私に笑い掛け、後ろからゴソゴソと何かを取り出す水瀬。

私の前に置いたのは一つのゲームだった。



「クロノス…オンライン?」


「最近友人から教えて貰ったんです。

あまりゲームは触った事がなかったのですが、もしかしたらお嬢様も出来ると思いまして…」



恥ずかしそうに説明を続ける水瀬に、少しだけ驚いてしまう。彼女は堅物というか、そういうゲームは嫌いだと言っていた。

…きっと私の為だ。



「どうですかお嬢様?」


「…うん、やってみよっか」



折角の彼女からの提案を無下には出来ない。

ゲームなんて物は私も触った事がなかったから、ちょっとだけ楽しみだ。

用意周到と言うか、自分の溜めた貯金からゲームとヘッドギアなるものを購入したらしい。

あとでお金は返してあげないとね。

細かな設定を粛々と熟しながら、私達は同じベッドで横になり初めてのゲームを始める。







「あ…」



目を開けると広がる視界。

凄い、見える。

景色が鮮明に見える。

果ての無い海の地平線と輝く星々。

涙が目を伝う。



『ようこそ、クロノス・オンラインの世界へ』



写真でしか見れない、初めてみる景色に感傷に浸ろうとしたら不意に目の前の光の玉から発せられる機械音声で涙が引っ込む。

そうか、ここがゲームの世界なんだ。



『新規データの作成を開始します』



感傷に浸る時間はないらしい。

機械音声に従いながら、私は自分のアバターを作り上げていく。

髪は薄い茶色が良いかな、折角現実とは違うのだからあの世界の自分とは少し変えたい。

でも…眼はこのままにしよう、ここならきっとこの眼の色も自然だ。

身長はそのままで武器は剣。

昔護身用にと無理やりやらされたが、お爺ちゃんから筋が良いと褒められたから。


次々と押し寄せる情報に飲まれながらも設定を完了すると、急に視界が白く輝く。



『貴女の旅路をお祈り申し上げます』



シャットアウト。


…次に視界に映る景色は、街の中だった。

どうやら最初の街のようで大きな噴水のある大通りのよう。



「お嬢」


「え?」



急に後ろから男の人に声を掛けられた。

見れば2m行かないだろうけど、凄い大きな人。

だが彼は私を親し気にお嬢と呼ぶ。



「…水瀬?」


「お嬢、ここでは蛮刀斎と呼んでくだせぇ」



蛮刀斎…ああ、苗字の万堂から取ったのね。

ご丁寧に声まで男に変えて、彼女は笑っている。



「その口調、なに?」


「…男性の護衛をする方はこの口調がデフォルトだと教わったのですが」


「それ多分間違ってるよ」



驚愕に顔を染める水瀬…蛮刀斎の姿に私も笑ってしまう。

自分もリアルとは別の姿にしようと思ったけど、まさか男アバターに成りきるとは思ってもみなかった。



「お嬢様、笑わないでください!」


「さっきの喋り方続けてよ」



屈強な男アバターで頬を膨らませるのは止めて欲しい。彼女はそこまで身長は高い方ではなかったけど、その姿で本当に大丈夫なのか。

手元には二つの盾を持ち全身を覆う鎧。



「お嬢は、剣士にしたんでやすか?」


「…フフッ!」


「お嬢様!」



だって面白い物はしょうがないじゃない。

ちゃんと口調を変えてくるとは思わず、反射的に笑ってしまうのも私は悪くないもん。



「お爺ちゃんに教わったから、私は剣を使うの!」


「ああ、翁から…」



翁って、何その古風な呼び方。



「それよりお嬢、目の方は…」


「うん、凄く綺麗に見える」


「良かったです…!」



嬉しそうに言った私を見て、蛮刀斎は目元に指を持って行く。泣いているみたいだ。

彼女の姿に私も再び涙が滲んでしまう。



「…さあお嬢。ゲームを楽しみましょう!」


「そうだね」



笑って差し出す蛮刀斎の手を私も握り、チュートリアルなる物を進める事にする。


ここから私のゲームが始まった。

この子、クロノス開始は僅か10歳。

水瀬さんが付き添いとして始めなければできない年齢である。

誰が蛮刀斎を男だと言った?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ( ˙꒳˙ )oh......マジかぁ…… d(˙꒳˙* )ええやん [一言] 更新感謝(ㅅ´꒳` ) こういうのすきッス!
[良い点] ここまで一気読みしたら最後で急に涙腺ブレークされた… いいお話〜
[一言] こういうのは好きですね。人らしく感じてきます。
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