指標
某運命のゲームのレイドのせいで鯖落ちしてやる気ロストしました。
絆美味いから回りたいしストームポッドも消化しないといけないのにゲームが出来ねえ。
いや、重い。
一通り読み終わった俺の感想はそれだった。
色災なんも悪くなかったわ。厄ネタとか言ってごめん。
本を置かれていた場所に戻し一息つく。
見れば、HaYaSEの他にも八千代達が戻ってきていたらしい。
「リッくん読み終わった?」
「凄い、集中、だったね」
「なんかどっと疲れた」
早く戻って翠玉を撫でて美味しい物を食べさせてあげたい。
そういえば、爺さんが白玉に言ってた最後の獣ってなんだったんだろう。
「戻ろう、皆」
「本を読んだだけなのにお疲れだなぁ」
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「ただいま」
「あ、リクおかえり」
「お嬢の御守りを任せてすいやせん首領」
「兄上、白玉私に頂戴!」
「ダメだよセイちゃん。白玉はうちの子だから」
拠点に戻ってくると、月見大福が出迎える。
蛮刀斎もログインしていたようで月見大福が読み散らかした本を片付けている。
セイちゃんはベッドの上に乗っかって白玉を抱きしめてるな。ふと、甘い香りが外から漂ってきた。
「あらリーダーおかえり。カップケーキが焼き上がったわよ」
「ボス、私も手伝ったっスよ!」
いつの間にか来ていた十六夜がメルティを手伝っていたらしい。良いね、重い話を読んだ後は仲間達で癒されないとやってられない。
「月見大福」
「ん?…おっと」
「俺はもう読んだから貸すよ」
先程読んでいた本を投げる。
難なくキャッチする辺り、コイツも反射神経凄い。
「うわ…どこで見つけたのコレ」
「デカい屋敷、滅茶苦茶本があったから後で行ってみれば」
「ホントに!?」
本当にコイツは本が好きだな。
呆れ顔で『双子神の物語』の頁をめくる月見大福を見てると、匂いに釣られた連中が戻ってくる。
「首領、ここの鍛冶場は良いのう!」
「俺が使ってない時は好きに使っていいよ。アルトメルンの工房今は使えないんでしょ?」
「助かるわい!」
「お爺ちゃん、ずっと居ちゃダメだよ?」
「分かっておるよ八千代」
爺さんもそうだが、ゴドーも相変わらず八千代に甘い。娘や孫に対してはどんな強面も形無しなのかね。
「首領、魔魚を釣ってきたぞ」
「献上品をお持ちしました」
「カンペイ、点数稼ぎにござるかぁ?」
「羅刹丸…貴様。今どこから出てきた…」
「御館様の影でござるよ?」
「羅刹丸ぅぅぅぅ!」
「二人とも、魚ありがとうね。羅刹丸は煽らない」
「承知にござる!」
賑やかになってきたなぁ。
カップケーキを運んでくるメンバーの中には女子会に行ったflowerdropとハルカもいる。
気落ちしていた様子もどこへやら、皆楽しそうに騒いでる。
「首領、遅れてしまいましたわ」
「仕事が長引いてしまいました」
「首領、おつかれー」
「別に集まる予定じゃなかったんだけどな」
「つまりいつも通りでしょう?」
クスクスと笑うハートの女王。周囲を面白そうに観察する社畜とハンペン騎士。
「俺様達も来たぜ首領!」
「バカがご迷惑をお掛けしてます…」
「ブイッ」
「あら、大所帯になっちゃったわね。多めに作っておいて良かったわ」
「材料費の見積もりを後で送っておいて。結構量を使っちゃっただろうし」
「あら、大丈夫なのリーダー?」
「あんまり使わないマニーだし、ここら辺で循環させておかないと」
「律儀ねぇ、そんな所も良いわぁ」
「メルティ、分かるよ」
「…分かっちゃうんだよねぇ」
何か通じ合ってる三人は置いておいて、俺は全員の方を見る。
「さて皆、ちょっと聞いて貰っていい?」
「あいよー」
「はーい」
「どっかの誰かが王国に喧嘩を売ったせいでアルトメルンから追い出されたらしいけど、次の目標はある?」
俺の言葉に他の面々、特に冒険を主にしている仲間達が頭を唸らせる。
まあ、急に聞かれればそうなるか。
「もし今の所予定がないならさ、皆で一番最初に『聖国』を解放してみない?」
「聖国?」
「私が今目指してる国っスね」
「急じゃねえかぁ、何か目的でもあるのかぁ?」
目的、まあ皆のモチベーションを上げたいってのが一番の目的なんだけど、それを言うのは少し恥ずかしいしなぁ。
いつの間にか全員の目が俺に集まっている。
「目的、うんあるよ」
「というと?」
「アルファシアと敵対したプレイヤーの話を聞いて思ったんだ。面白そうって。
今の生活も勿論楽しいけど、たまには刺激的な事をしたいじゃん?」
「今度は俺達が聖国に喧嘩でも売るかぁ?」
「まさか。今の俺達は純白のクランなんだから、そんな事はしないよ」
極力NPCとは仲良くしたいしね。
でも、他のプレイヤーに配慮をするのもそろそろ飽きてきた。
「最短で聖国を見つけてくれ。
八千代、刀を使っていいよ。
ユニークを持ってる奴らもそれぞれ好きに使って良い」
そもそも俺達が他人に配慮なんて今更な話だった。
国に喧嘩を売るなんて楽しそうな事を先にやられてしまったんだ、なら俺達は別を行こう。
・・・良いね、皆の目がギラギラ輝いている。
「自重は無しで、今回は4つのパーティに分けて全員で事に当たる」
「クラン遠征だね、楽しみ!」
「目標があるとやる気が出るってもんでさぁ!」
盛り上がってきた、盛り上がってきた。
惰性でゲームをやるのは面白くない。なら、俺もクラマスとして指針を出さないとな。
さて、ここでもうもう一手打っとくか。
「さっき街を見て来たら、どうもこの島の民家はセーブポイントが付いたらしい。
だから、仮の拠点はこの島にして各自全力で動いてほしい」
「マジか!」
「…首領の近くを確保」
「ハハッ、楽しくなってきましたね」
「おい、白椿と刃狼が先走りやがった」
「俺らも取るぞ、首領の家の近く!」
「部屋取ったら表札置いておけよー」
バタバタと駆けて行った仲間達を見ながらボソリと言うが、あれ誰も聞いて無さそうだなぁ。
こうして、俺達の第一の目標は聖国到達となった。
指針を決めはしたが首領はマイルームに引き籠ったままです。
何かそれっぽい事言ってるけど、彼の目的は仲間達のテンションを上げたいと言うただそれだけ。
きっと数々の冒険が彼らを待っているでしょう。
俺達の戦いはこれからだ!