子龍爆誕
好きに書き過ぎて話の展開どうしようか必死で頭を悩ませてる今現在。長い夜になりそうだ。
唐突な爆発だったが、被害はそこまで甚大では無かった。
卵が置かれていた場所は半壊、大広間も余波で一部が壊れてしまったけど。俺達は皆無事だし、幸い他のNPCにもケガ一つ無い。
ああ、卵ね。うん、ちゃんと生まれたよ。
桜色の鱗が綺麗な見事な東洋龍。1mはいかない位の割と小柄な体躯だったけど、爺さんの本来の姿も桜色の龍なのだとか。
凄い可愛らしい見た目だった。うん、可愛らしい…。
「グルルル…」
「そっちの方には行っちゃダメだ」
「グル…」
「はいこれ食べててね」
なんか、懐かれた。
俺の首の周りを胴でくねらせ、蜷局を巻く様に摺りついてくるチビ龍にアイテムボックスから適当な食い物を取り出し渡す。
ああ、生まれたばかりだしもう少し食べやすいモノの方が良かったかな。なんて思っていると、ガリガリとがっつく様に貪っている。
おい白玉。
ヤレヤレみたいな顔してるけど、お前も最初あんな感じだったからな。翠玉だけだぞ綺麗に食べてたの。
「リッくん、凄い事になってるね」
「首領は動物に愛される…」
「動物の概念ぶっ飛んでるでござる?」
そう、あれはつい先ほどまで遡る。
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爆発
瞬間的に白玉が張った『金剛障壁』によって俺達は爆発の被害を受けなかった。
目を開くと、辺りに散らばる瓦礫。
屋根は吹き抜け、ボロボロの家屋となったその場所は綺麗に半分だけ無傷だ。
そして、中央に鎮座するように体を巻きこちらを見ている一匹の小柄な龍。
桜色の鱗を纏い、翠玉に似た色の目と角を持ったその龍は、静かにこちらに近付いてくる。
いや待って、なんか角の色おかしくない?
爺さんもヒオウ殿も白い角なのに、なんでコイツ翠色の角なの。
ここでちょっとおかしいと感じた俺だったが、そんな事は直ぐに忘れる。
「グルルル…」
見た目に合わず随分と重い鳴き声を発しながら、こちら…いや俺の方に向かってくるソレは一度俺と顔を押し付けている翠玉を見比べた後に、首に巻き付いてきた。
「いや、なんで!?」
「…大量の妖力を与えた事で、お前さんを上位と考える龍の性ってヤツだ。
本来は少しずつ妖力を与えて慣らして行き、自然に孵らせる予定だったが…」
「リク殿が一度で孵してしまいましたから…」
「俺じゃない、翠玉だ」
「その災厄はお前さんの式神だろうが」
ぐうの音も出ない正論だ。
何も言い返せない俺を見て、爺さんは深いため息をついている。
「何か角の色おかしくない?」
「…始祖帰りと言えるかもしれねえな」
「始祖帰り?」
「翠の災厄は世界を侵し、呑み込む自然の具現。
儂ら龍とは性質が似ている。
その妖力を多分に与えられた事で余分なモノが取り除かれた」
俺の首に巻き付くチビ龍に爺さんが手を伸ばす。一瞬だけ、鋭い威圧を放ったが爺さんを上から下まで眺めると受け入れるように大人しくなる。
「純血の龍だ。これは将来儂なんぞよりも強くなる」
「グルルッ…」
撫でられ始めるとチビドラゴンは喉を鳴らし目を細めてその手を受け入れる。
爺さんも愛おしそうに自分の子を撫でている。
あの、どうでも良いけど俺の首からそろそろ離れて貰う様に言ってくれない?
仲間達は今がシャッターチャンスとでもいう様にスクショしてるし、ヒオウ殿に関しては涙ボロボロ流して号泣してるし。
朱雀助けろ!何理解してるような顔で頷いてやがるこの野郎。
「…あの爺さん、そろそろこの子に俺から離れるように言って貰っても」
「龍は一度決めた事には頑固でな、今は諦めてくれ」
なんで、こんな事に…
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回想終了。
10分位チビ龍を撫でた爺さんは、少し出かけて来ると言って屋敷から出た。コイツの面倒を見ててくれと俺に言い残して姿を変えて天空を駆けて行ったよ。
現在、俺はチビ龍と仲間達と共に屋敷の一室に通され休憩している。
「コイツ結局離れないんだけど、どうしよう」
「貰ってっちゃう?」
「また首領に可愛らしい仲間が出来るな…」
「名前は…どうするか」
「白玉ちゃんも翠玉ちゃんも玉統一でござるから『桜玉』でござるか?」
「なんでお前ら連れて帰る事前提で考えてるの」
でも全く離れる様子がないんだよな。
強引に引き離そうとしたら大粒の涙で泣き出したし、どうにも親犬と引き剝がされる子犬みたいで。
弱いんだよそういうの。
巻き付く胴をサワサワと撫でると、爺さんに撫でられていた時の様に喉を鳴らしている。
足元で丸まった白玉と、俺の腹に顔を押し付ける翠玉。
さながら気分は魔物使い。職業は旅人だけど。
死んだ目をした俺を他所に、隣では未だにチビ龍の名前会議が進行していた。
一番人気は『桜玉』らしい。
統一感出すのは良いけど、そんな宝石無いよな。
「皆様、緋桜龍様がお戻りになられました」
襖を開けて部屋に入ってくるヒオウ殿。
爺さんが戻ってきたようなのだが、どうやら今回は俺と朱雀だけ来て欲しいとの事。
やっと話が進むようなので素直に行くと、爺さんがまた盃で酒を呷っている。
ああ、何でか白玉と翠玉は許された。
「おう、来たかリクの小僧」
「その呼び方で落ち着いたんだ」
チビ龍の孵化が完了したら、爺さんが俺を名前で呼び出してた。まあ、月の後継とかよりは全然良い。
「これで、頼みは完了って事で良いの?」
「ああ、久しぶりに彼奴と良い酒が飲めた」
亡くなった番の墓に行っていたらしい。目尻が少し赤くなっているけど、きっと酒のせいだ。
再び横に座る様に促され、隣に行くと酒を注がれる。
「まあ飲めよ」
「それじゃあ遠慮なく」
不味い酒を飲むのは嫌いだけど、これほど良い酒なら断る理由もない。
喉に流れる滑らかな酒の旨味を噛み締め、どんどんと流していく。
「やっぱり美味い」
「そりゃあコイツは、儂と彼奴のお気に入りだからな」
呵呵大笑する爺さんは本当に楽しそうだ。
俺の横から酒を覗き込むチビ龍の頭を撫でて口を付けない様にする。
お前生後1時間とかそこらだろ。酒はまだダメだ。
「んじゃ、まずは龍狩り」
「ああ」
「これで儂の依頼を完了とする」
「達成出来たようで何よりだ」
アナウンスが流れたのだろう。
ウインドウを動かし、何かを弄った朱雀の装備が切り替わる。
着流しから、深い桜色の甲冑を身に纏い背には前に見せて貰った龍太刀。
ファンタジーの世界なのに純和風の装備だ。
「ソイツは、『戦甲冑【龍桜】』。
昔、儂の鱗を鍛冶師に打たせた一品だ。お前さんの助けになってくれるだろうさ」
「…良いものだ、ありがたい」
「好きに使い戦うが良い。
そして、リクの小僧」
「俺は朱雀の付き添いだから何もいらないけど」
「そういう訳にもいかねえ。
お前が来なければ、儂の娘は未だに日の目を見れていなかった。何か欲しい物を言うがいい」
鋭い目で俺を見る爺さんに、なんだか恫喝されてる気分だな。
まあくれるなら貰っておこう。
欲しい物、欲しい物ねぇ。
「米と醤油…豆を発酵させた調味料があったら欲しい。後、この酒も貰えるなら欲しい」
「見事に食い物だけじゃねえか。
武具やら防具、なんなら宝物殿の物でも良いんだぜ?」
「アイアムスローライフプレイヤー」
「なんだぁそりゃ?」
「首領は、今は戦場を離れているのだ」
「あの御方の祝福を受けて、災厄を従えてるのにか?」
「成り行きって怖いよな」
何言ってんだコイツという目を向けられるのはこれで何度目になるだろう。
俺の方をジッと見つめ何かを考えている。
手慰みにチビ龍を撫でていると、翠玉が俺の隣にやってくる。
はいはい、ここね。
「なら、丁度良いかもしれねえな」
「え?」
爺さんがポツリと呟くと同時に、目の前にメッセージが表示される。これは、クエストを受けた時のヤツ。
《ユニーククエスト《桜花の龍は子を想う》が開始しました》
嫌な予感がする。